献身的に寄り添い幸せの総量を増やす -御堂筋法律事務所 山路邦夫

弁護士 山路邦夫

2020年は元には戻れないほどモノゴトがデジタル化した年と言っても過言ではありません。しかし「人」が大事であること、「人」が問題解決することに変わりはありません。

デジタル化が進んだ世の中だからこそ「人」に着目し、デジタルと寄り添いながら従事する弁護士の内面を伝えたく今回「弁護士の志や生き方」を読者に伝える為にインタビューを企画しました。

今回インタビューを受けてくださる先生は、弁護士法人御堂筋法律事務所 山路邦夫さんです。

山路先生のプロフィール

1974年 大阪府出身
1993年 大阪府立北野高等学校卒業
2001年 京都大学法学部卒業
2002年 司法修習修了(55期)
御堂筋法律事務所入所
2006年 弁護士法人御堂筋法律事務所東京事務所所属
2011年 弁護士法人御堂筋法律事務所パートナー(現任)
2011年 事業会社法務部にて勤務(住友金属工業株式会社/新日鐵住金株式会社)
2013年 弁護士法人御堂筋法律事務所東京事務所に復帰
2017年 オリジン東秀株式会社 社外取締役に就任(現任)

体感したプロの姿勢

小学校の頃はあまり身体が強くなく、4年生の頃に2週間ほど入院しました。夢を見てうなされることが多かったので、入院は不安だったのですが、その時、診てくれた先生がとても優しい顔で「頭が良い子はよくそうなるんだよ。」と言ってくれ、嬉しくなり、安心して眠れるようになりました。

子供がコンプレックスに思っていることに寄り添って不安を取り除いてくれたあの対応はプロフェッショナルの仕事だなと思い起こされます。

弁護士を知った同級生の一言

中学校の頃、突然同級生に「山路くんは弁護士が向いてるんじゃない?」と言われました。当時はどんな仕事かどんな存在なのかも詳しくは知らず、気になったので図書館へ行き、調べてみて「いい仕事だな、自分の知識を人のために役立てることができそうだ。」と思うようになりました。

当時のイメージは、「正義の味方」でしたね。そこから、ぼんやりと将来は弁護士になることを想像するようになり、進路選びの際も、それを前提に進路を決めることにしました。

同級生は私に言ったこと自体覚えてもいないでしょうが、今思うと、あの一言が私の人生を決めたことになります。

振れ幅の広い学生時代

中学、高校はサッカーに明け暮れ、高校ではキャプテンを務めました。熱くて真面目なTHE体育会系の男子でした。京都大学に進学してからは、だいぶゆるい人間になり、安い下宿先の隣の部屋の友人とふらりとママチャリで四国一周し、翌年は韓国のプサンからソウルまで2週間かけて縦断するなど気ままに楽しむ生活を送っていました。

中学高校時代を知っている友人からは「もっと真面目だったよね」と首を傾げられますが、真面目で熱いサッカー小僧から、ゆるゆるの下宿時代を経て、幅の広さを培えたのかなと思います。

弁護士になってからの転機

中学の頃に言われた「弁護士が向いている」の言葉が頭の片隅にあったことで、勉強を続けることができ、無事に弁護士になりました。

御堂筋法律事務所に入所したときは、ずっと大阪で弁護士をするのだろうと思っていましたが、3年ほどした時、東京に行かないかと声がかかりました。

伝統のある大阪事務所で仕事をして、弁護士のイロハや関西ならではの交渉術を学び、粘り強く仕事をすることの大切さがわかってきたと感じていました。そこから、若くて成長途上にある東京事務所で新たな挑戦ができるのは魅力的でした。東京事務所にはまだ4、5人しか弁護士がいない状況であり、ビジネスの最前線である東京で弁護士業務ができることにワクワクしました。

移動中のタクシーでこの話を切り出され、降りるときには「行きます」と答えました。

「大阪で弁護士業務をしていたら全国どこででも通用するよ」という誰かからの無責任なアドバイスもあり、それを勝手に信じて今日までやってきました。東京の弁護士には負けられないと意気込んできたのもありますが、案件に対するしつこさや粘っこさは、関西人ならではだと思いますし、自分の強みだとも思っています。

企業の法務部に出向して気づいた弁護士のあるべき姿

弁護士としてのキャリアを10年ほど積んだころ、企業への出向話をいただきました。企業の法務部に入って仕事をすることに前々から興味があり、経験してみたいなと思っていたので、渡りに船でした。その時も即答で「行きます」でした(笑)

出向先の住友金属工業、新日鐵住金の両社ともに非常にレベルの高い法務部であり、また歴史的な統合に際して、その法務部に在籍し、これに携わることができたことは幸運で、自分にとって大きな経験と財産になりました。

法務部員としてクライアント側の立場で外部の弁護士とコミュニケーションを取り、頼りになる弁護士に出会い物事が前に進んでいく、解決に向かっての道筋を一緒になって見つけていく過程に大きな喜びがあることを知ることもできました。信頼できる弁護士がいることは、法務部にとって大きな価値であると。

※2012年10月1日、新日本製鐵と住友金属工業が統合して新日鐵住金が発足。

ある海外案件で、ヨーロッパの小国の弁護士事務所に伺った際、担当してくれた弁護士がとても印象的でした。「よくここまで来てくれた、さあ、あなたたちのトラブルを詳しく聞かせてもらおう。」という姿勢で、文字通り腕まくりをして接してくれたのです。長時間の移動、慣れない海外、そして案件に対する不安。すべてが手探りの中で、温かく情熱的に迎えてくれた弁護士の姿勢にとても安堵しました。

あの時の嬉しさと頼もしさは忘れられません。 困っているときに、頼りになり、信頼できる弁護士になりたい。その時に抱えている不安や悩みを親身になって聞くことで安心に変えられる弁護士になりたいと思っています。

企業の側に立った廃棄物処理事件対応

近年の案件では、廃棄物処理法の刑事事件で無罪判決を獲得できたことが印象深いです。

東京事務所に来てから、廃棄物処理や土壌汚染等の問題に取り組む機会が多くありました。知識が必要になるので、勉強も怠ることができません。

これらの問題では、どんな企業でも、突然トラブルに巻き込まれる可能性があるのです。問題なく取引や処理をしたと思ったモノが、結果として違法に廃棄され、ゴミであると行政から指摘されてしまったり、反社会的な人物がそれに関与していたりとトラブルの連鎖が起こることもあり得ます。

刑事犯罪や行政処分が関わるので、信用失墜につながって会社の経営に影響を与えるような事態もあります。このような不測の事態に、その会社に寄り添って危機を乗り越えていくような業務は、やりがいを感じます。

これまでの経験から、好ましくない人物との交渉、行政対応、民事訴訟、刑事弁護のみならず、社内調査、株主対応、適時開示やマスコミ対策等の対外的公表、再発防止策の策定、従業員の処分の問題等、幅広く対応することにより、総合的な見地から事態の収拾に貢献していくことを目指しています。

有事の際に、法務部をはじめとする企業の方々と一緒に戦い、戦友になると、そこから信頼や信用も一層増しますし、そのような機会に頼ってもらえることは弁護士として誇らしいことです。

「知」を共有できるリーガルテックを

誰がやっても同じでないのが、弁護士の世界。

裁判や紛争解決においても熟練の技や知識が必要なケースが多く存在します。そのような「経験知」は、先輩とチームを組んで、一緒に取り組むことで、少しずつ学んで身につけていくことになります。このような経験や知識の伝達を、もっと効率良く、もっと再現性高くサポートしてくれるツールを、リーガルテックで実現できないでしょうか。

個々の弁護士事務所でも、積み重ねてきた経験や知識は異なり、それぞれに特色があります。「経験知」を蓄積し分析しアウトプットしてくれるようなツールがあれば、法曹界全体の発展や成長を促し、法曹界に興味を持ってくれる若者も増えるのではないかと考えています。

コロナで感じる日常の素晴らしさ

コロナ以前は、現場に行ったり、人と出会ったりすることが多かったのですが、そのような日常は今失われています。そのような日常の機会が、とても大事だったことに気付かされました。外に出て、人と出会い、食事をして話をする。当たり前の日常がどれだけ貴重で素晴らしいことだったのか、改めて感じたことです。

お客様、事務所内を問わずオンラインのコミュニケーションが多くなりました。便利にはなりましたが、例えば所内のコミュニケーションにおいても、オフィスにいれば可能な雑談や、分からないことをすぐ気軽に聞くということが、やりにくくなっています。コミュニケーションの総量が減ったことで、スムーズさは失われたかもしれません。

コロナ禍の内部統制とこれからの企業のあり方

企業はコストと時間をかけてリスク対策を行っており、不祥事を限りなく0にしようと努力されています。それでも起きてしまう、起こってしまう。

コロナ禍でコミュニケーションが希薄になってしまった所為で、心が離れてしまっている例もあるように思います。何か「タガ」が外れてしまっているなと。

従業員だったり、スタッフの努力が無駄になったり報われないことが続き、会社に対して失望したことで、トラブルに発展するケースがあります。「人が作る組織なのだから、人を大事にする」をベースとした考え方に立ち返ることが大事なのではないかと。

この状況だからこそ、形式的な内部統制の制度のみならず、真の内部統制が機能する前提として、心が通う組織作りが求められると思います。また、そのために、DXやリーガルテックなどのデジタル技術が活用されることが望ましいと考えています。

法務部門へのサポート

企業での法務部経験等を踏まえて、現在は法務部門の立ち上げや法務機能の強化を図ろうとする企業や団体のサポートにも力を入れています。

経済産業省から「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」の報告書が2018年と2019年に示されました。

伝統的にどちらかというと「守り」を重視する傾向が強かった法務部門ですが、これからは事業と経営の「パートナー」としての戦略的、効率的な法務機能が重要になり、事業の実現可能な範囲を広げるクリエーション機能、その範囲内での最大化を目指すナビゲーター機能が重視されています。

単なる契約書のチェックに留まらず、より発展的な機能を果たしていただけるように、法務部門をサポートしていきたいと考えています。人材育成を通し、リーガルマインドを持った法務部員が経営に参画していくことで、企業内に法務の重要性が浸透していってくれたら嬉しく思います。法務部を希望する若い方々がもっと増えていってほしいと思っています。

「献身、誠実、尊重」のジーコ・スピリット

毎年事務所に入所してくる後輩弁護士に私が贈る言葉は「献身、誠実、尊重」です。これは鹿島アントラーズの哲学として受け継がれているもので、ジーコ氏がクラブハウスのロッカールームに掲げることを提唱したそうです。

献身というのは、ハードワーク、努力を惜しまないこと

誠実というのは、エゴを出すのではなく、仲間と適切な関係を作ること、また、私は法の原理に忠実であることもここに含まれると考えています。

尊重というのは、関わる方へのリスペクト

住友金属工業に所属していた際に知り、今でも大切にしている言葉です。

※住友金属工業蹴球団は鹿島アントラーズの前身となったクラブ

訴訟や交渉は勝負の世界であり、先輩からは「勝たなければならない。」と教えてこられました。ただ「勝ちすぎてもいけない。」とも言われたことがあります。若いころは、勝ちすぎの何が駄目なのか、と思っていました。

勝者の裏には敗者がいます。良き勝者がいて、良き敗者がいる状態をいかに実現するか。献身的に、誠実に、そして、関わる案件、関わる相手に対して尊重(リスペクト)の気持ちを忘れずにいたいと思っています。

幸せの総量を増やす支援を

中学生のころの「正義の味方」という考え方は、この仕事をする中で、人の数だけ正義があることに嫌でも気付かされ、今では標榜していませんが、最近意識していることがあります。

それは、案件に取り組むにあたり、少しでも社会の中の幸せの総量を増やせないかということです。本来いがみ合うべき相手ではないのに、いがみ合うことで互いに傷つき、幸せの総量を減らし合うのは、やはりもったいないと思ってしまいます。

紛争の中で、もちろん勝敗がつくこともありますが、それを乗り越えて、お互いが、新しい前向きな人生、新しい前向きな業務に進めるような、解決に至る選択肢を提示していきたいです。

先ほどの例でも、勝ちすぎた結果、相手の恨みや妬みを買い、回り回って幸せの総量を減らしてしまっては、不幸なように思います。

他人への攻撃に向けるエネルギーを、その人やその組織が本来持っている、前向きな推進力に変えられればと思っています。

この仕事の中で、少しでも幸せの総量が増える支援を続けていきたいです。

インタビュー中に何度も「人」をキーワードとしてお話される山路先生が印象的でした。

同じ事務所に所属し続け、環境に大きな変化があった訳ではありませんが、お会いする方たちが努力されている姿に影響を受けてきました。出会いによって生まれる化学反応を楽しんで、これからも大切にしていきたい。

そう答えた先生の誠実さ、相手を常に尊重する言葉遣い、依頼者に寄り添いサポートする献身性。大切にしている言葉をそのまま体現している姿そのものでした。

インタビュー日:2021年2月22日

関連記事

ページ上部へ戻る