笑顔と誠実さで世の中を便利に幸せに -片岡総合法律事務所 片岡義広

片岡義広

2020年は元には戻れないほどモノゴトがデジタル化した年と言っても過言ではありません。しかし「人」が大事であること、「人」が問題解決することに変わりはありません。デジタル化が進んだ世の中だからこそ「人」に着目し、デジタルと寄り添いながら従事する弁護士の内面を伝えたく今回「弁護士の志や生き方」を読者に伝えるためにインタビューを企画しました。

今回インタビューを受けてくださる先生は、片岡総合法律事務所 所長弁護士の片岡義広さんです。

片岡先生のプロフィール

<学歴>
1977年3月 中央大学 法学部 法律学科 卒業

<資格/登録>
1980年4月 弁護士登録

<事務所・沿革>
1982年10月 現メガバンクの抵当証券業務参入の調査・支援業務。
1983年4月 共同事務所で独立。
1984年9月 単独経営の片岡義広法律事務所に。
1986年4月 小林明彦弁護士が弁護士登録と同時に入所。
1990年6月 小林明彦弁護士がパートナーに昇格して、片岡総合法律事務所(英文名:Kataoka & Kobayashi)に改組。
2001年8月 CIを実施。従前からの経営理念を「基本理念」として明文化し、小改訂を重ねつつ、事務所構成員でこれを共有。
2018年4月 弁護士法人片岡総合法律事務所(所属弁護士会:東京弁護士会)を設立。

行動力のある少年時代

小学校3年生までとても真面目な優等生でした。1年生の時から新聞を読んでいて新聞部に入り、授業中先生に「憲法9条に、戦力を保持しないと書いてあるのに、自衛隊があるはどうしてですか?」と質問するような子供でした。

そして、同級生の女子が「片岡君、こんな校則あるけど、廃止してもらえない?」と聞かれた際に「規則は規則」と答えてしまったのですが、その後、規則を所与のものとしてとらえるのはよくないと考え直し、少し「真面目」から距離を置くようになっていきました。

中学に入学すると、友人付き合いの方が楽しくなり、将棋、囲碁、麻雀等、色々な趣味を覚えます。

高校生になると、授業をサボったりして、大人の階段を登りました。そうは言っても根は真面目なこともあり、生徒会長になることは辞退したのに、先生や生徒から頼られました。先生から修学旅行は全員参加か廃止か決めることを迫られ、修学旅行の実行委員会を作って検討し、好きなグループを作って行きたいところに行くという修学旅行を実現させました。また、同級生からは、「国立の当校は制服だけど、都立高校は自由服になっているので、当校も自由服制度にしてほしい。」と言われ、制服に対する全校アンケートを実施しました。そうしたところ、意見が賛成、反対、どちらでもないと完全に3分されたので、標準服制度を提案してそれが採用されました。

教育大学の付属高校で実験校ということもあったのかと思いますが、これらを認めてくれた先生方の器が大きかったと思います。 このように、幼いころから培った考え方や行動力は、弁護士になってからもとても役立っていると実感しています。

司法試験に受かった秘訣は個人憲法等三法の制定

周りは京都大学に行くものだと思っていたようですが、東京にいけるチャンスだと思って中央大学に行くことになります。その際、両親には司法試験に合格する!と約束して京都を出ました。とは言うものの大学できちんと勉強は・・・(笑)大学4年の2月7日から真剣に取り組みました。

その時、片岡義広個人憲法、生活規律法、学習計画法を制定し、それに則って生活と勉強を規律し、そして合格しました。後から振り返ってみると、ISO9001(品質管理の国際標準)のリスクベースド・シンキングと、PDCAサイクルという基本原理に則った合理的なものでした。学習を阻害する12の行為を「阻害行為」として禁止又はコントロールをし、今にして思えば学習もPDCAの原理で管理するというものでした。

実際に制定された憲法を送っていただきました。
(用字用語が公用文と異なってもいるし、恥ずかしいと言われつつ、掲載を承諾いただきました。)

片岡義広憲法 1977年1月24日

 私は、複雑化かつ体制化した社会の中にあって、又、多様化する価値観の谷間にあって、主体的人格態度を将来にわたって維持したいと考える。そのためには、日常の着実な思考と向上心の両者が不可欠と信ずる。
 ここに於いて私は、この憲法を制定し、かかる試みの大なる推進力たらんとするものである。
第1章 総則
第1条 私は、将来に於ける主体的活動の場を確保すべく、法曹を志すべきである。

第2章 生活
第2条 誠実さと人間性を常に心掛けるべきである。
第3条 規則正しい生活を送るべきである。
第4条 物事のけじめをつけるべきである。
第5条 広い社会的視野を持つべきである。
第6条 本憲法の目的及び精神を阻害する行為を謹むべきである。
第7条 私は常に新鮮な心構えで物事に取組むべきである。

第3章 学習
第8条 司法試験最短距離を目指して学習すべきである。
第9条 学習中は常に神経を集中すべきである。
第10条 毎日着実に学習すべきである。
第11条 寸暇を惜しんで学習すべきである。
第12条 長期的展望に立ち、計画的に学習すべきである。
第13条 たとえ怠けた時があろうとも、以後最善を尽くすべきである。

第4章 最高法規
第14条 私は、この憲法を、自己を規律する心の依り所として、強い意志で以って誠実に実行すべきである。

第5章  補則
第15条 この憲法は、1977年1月31日より施行する。

このようなことがびっしりと書かれてあり、更には毎日どれだけ勉強したのか、どのような生活を送ったのかを手帳に記されていました。

片岡先生の手書きの手帳
1977年2月7日よりスタートした司法試験の勉強内容と生活リズムが書かれた手帳。12日の欄には、当時恋人で合格後結婚された「裕子」さんのお名前も見える。週1回は、「阻害行為」で許容された例外のデートの日だったとのこと。

結果、半年後、見事、当時合格率が1.59%という難関の司法試験に合格されました。

弁護士として身を立てるまで

狭い環境下にいると、世界が狭くなってしまうなと考え事務所を設立することにしました。

自分の意志と行動力で弁護士として1人立ちしたいと合理的に考えた結果です。

そうはいうものの、1人の力でできることには限りがあると考え、少数精鋭で、機動力のある組織を作ろうと考えていました。

独立する際は、お金はない、仕事はない、若い、人脈もない。3重苦、4重苦でどうやったら経営が成り立つだろうかと考えたところ、好きなことを研究して文章に書くことは好きだったので、自分の成果を世の中に広く見てもらおうと考えました。その時、ファイナンス・リースに関する事件を手掛けたところ、その法律構成等を詳しく解説した文献がなく、自分で考えた法律構成等を書いて世の中に問おうと思いました。

そこで、リース事業協会に資料提供をお願いしに行ったところ、その構想で機関誌に連載して欲しいと逆オファーをいただきました。6回の連載が終った後に、東京弁護士会で法律研究部が立ち上がり、そこでもその研究報告をしたところ、銀行の抵当証券業務の立上げに関するリサーチの依頼が来ることにつながりました。 そのころまでは刑法が得意科目だったのですが、これが機縁となって、金融実務に携わることとなって、金融を専門分野とする弁護士に変化していきます。

※ファイナンス・リースとは
借手が選んだ物品を借入金で購入するのに代えて、リース会社が借手に代わって購入して貸与するもの。

記憶に残る案件

記憶に残る案件と言われると、色々なものが脳裏をよぎります。

弁護士になっていきなり無罪を争って最高裁まで争った刑事事件その他の案件や、刑事法を含め、各種金融立法に、役所の委員や民間の業界団体で関与したこと等が頭に浮かんできます。

ただ、このファイナンス・リースの研究が今の自分と事務所の金融実務につながったというのが出発点です。当時は、弁護士3年目で28歳でしたので、銀行は、リサーチの委嘱に不安もあったようですが、私のことを推薦していただいた先生に対しての絶大な信頼もあり、また、これを短時間で要求水準に合うように仕上げたことが今の自分の弁護士業務と事務所とにつながったと思っています。

リース→抵当証券→金融の証券化という流れで今の現代型の金融法務業務へつながり、他方で、抵当証券業務で金融機関等の法務に関係したことで、プリペイドカード(クレジットカード・貸金業も)→電子マネー→仮想通貨(暗号資産)→ブロックチェーンという勉強や業務の流れにつながっています。

電子マネーの法制度に関わる仕事は現在も継続して関与をしていますが、皆さんのポケットやハンドバッグに電子マネーやカードが入っていて、皆さんや社会全体の役に立っていると思うと、弁護士としての仕事のやりがいにもつながっています。

日本における暗号資産とブロックチェーン

暗号資産(仮想通貨)については、日本が世界に先駆けて立法を行いました。いわば法がこれを認知したということになります。

ただコインチェックの流出事件が起こったことから、監督官庁の規制が大変厳しくなってしまいました。暗号資産交換業務への信頼は低下してしまいましたが、規制強化で信頼の回復がみられます。そして、暗号資産に関係する業務の安全かつ正しい発展が望まれます。

また、ブロックチェーンの技術自体は堅牢な技術です。そこで、銀行も証券も、また、金融界に限らず幅広い業種でブロックチェーンを利用しようとする動きがあります。ただし、パブリック型ではなく、プライベート型又はコンソーシアム型が普及していくのだろうと考えています。この点に関しては、全国銀行協会で行われたブロックチェーン技術の活用可能性と課題に関する検討会のメンバーにもなって報告書も書きましたので、ご関心のある方はお目通しをいただければと思います。

ブロックチェーン技術の活用可能性と課題に関する検討会報告書(PDF)
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news290346.pdf

法律×技術の未来について

電子契約は便利だと思っています。企業規模や業種毎に契約書のひな型を作成しておいて、かつ、カスタマイズをしたものが他に漏洩しないように保管・管理できるソリューションは、とても仕事が効率化します。今後よりカスタマイズについての利便性が向上すれば、多くの人にとって使いやすい製品になると思います。

法律相談に関しても、コンピュータ関係各社が、1980年代にエキスパートシステムの構築を試み、法律相談の自動化にも挑戦されましたが頓挫しました。複雑でウェットな側面もあって無限大の事実を背景とする法律相談を単にデジタルに置き換えることは難しいとは思います。今後、AI(人工知能)の登場でどの程度対応できるようになってゆくのかは分かりかねますが、限定的な事実関係に限れば、いわゆるディープラーニングをすることで汎用的に回答を出せるようになってゆくのかもしれません。

ただそうは言っても弁護士の存在が脅かされるという話しではなく、依頼者や弁護士を効率よくサポートしてくれる存在になるのではないかと思います。この点、ルールが極めて単純かつ明確な将棋や囲碁のAIソフトとの関係とは異なるところだろうと思います。

コロナ禍での変化

デジタル化が一気に進みました。ただ、リアルとネットの双方で行うというハイブリッド型の講演等は、少し苦労します。リアルかネットのいずれかであれば、そちらに集中すれば良いのですが、どちらにも気を使うことには慣れないですね。

ただ、全体的には非常に便利になりましたし、発信側でなく、受信側としては、移動時間の短縮や気軽に受信できる点のメリットは大きいと思います。

しかし、リアルで会ったほうが情報伝達の深度とコミュニケーションの深度は、格段に勝ると思います。また、ネットの会議や講演では場の空気を感じづらく、やっていて楽しさも半分未満です。この点は、大いなるデメリットだと思います。

弁護士片岡義広として描く未来のカタチ

DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいくことは間違いありません。金融業界も同じです。

その一方、ホモ・サピエンスは、コミュニケーションをすることで生き残ってきましたし、また、リアルで接するからこその喜びもあります。したがって、DXとリアルのコミュニケーションとの調和によって、人間はより進化するのではないかと考えています。

この先の弁護士人生の在り方は、自分がお役に立てる分野で良いと思うことを実践していきたいと思っています。先程電子マネーの話をしましたが、まずは自分が接する人、そして多くの人々の安心安全と利便性の向上に貢献できることが自らの存在価値であると思っています。

好きな言葉と大切にしている信条

仏教用語でいえば、和顔愛語と自利利他という言葉が好きです。

和顔愛語(わげんあいご):笑顔で愛情のこもった言葉で話すこと

自利利他(じりりた):自分が幸せになることは人を幸せにすることであり、人を幸せにすることは自分の幸せになる

ロースクールで教壇に立っていますが、学生から授業中ずっと笑顔ですね、と言われたこともあり、また、通勤途上の自転車でも笑顔ですねと言われたこともあります。

自分で「和顔愛語」が好きと思って、口や活字にしたりしていると、その傾向がより一層強まっていくのだなと思います。良い言葉は、口にしていると自然に人を変えていくものなのですね。(笑)

あと、司法研修所の民事弁護教官時代に多くの司法修習生に言った「勉強・誠実・お付き合い」という3つの私オリジナルのモットーは大事に実践しているつもりでいます。

法律家という知的職業であり、また知的人間である以上は、専門的な知識に限らず、幅広い勉強が必要で、一生が勉強です。そして、何事にも誠実であることが重要と思っています。近時、企業経営でコンプライアンスの上を行く「インテグリティ(誠実性)」について、さる業界団体で講演する機会もありました。そして、様々なお付き合いも重要で、仕事に限らず、お付き合いの中から生まれてくる1つ1つのご縁が自分の人生になっているものと思っています。

終始笑顔で、時にジョークを交えて軽快にインタビューに応じてくれた片岡先生。

和顔愛語の言葉そのまま、常に笑顔で受け答え頂き本当にありがとうございました。インタビューしているこちらもとても楽しい時間でした。

インタビュー日:2021年3月19日

関連記事

ページ上部へ戻る