トラブルを抱える前に知っておきたい弁護士費用の基礎知識~弁護士費用は「弁護士選びの基準」となるのか?

トラブルを抱える前に知っておきたい弁護士費用の基礎知識

弁護士は、トラブルを抱えてしまった際にとても頼りになる存在ですが、いざ弁護士に依頼をしようと思っても、「費用(報酬)がいくらかかるかわからない」ことが原因で躊躇してしまう人も少なくないようです。

そこで今回は、弁護士費用について、弁護士に依頼する前に理解しておいてもらいたい重要なポイントをまとめてみました。

弁護士費用の基本的な仕組み

まずは、弁護士費用の基本的な仕組みについて確認しておきましょう。弁護士費用について正しく知るためには、基本的な料金体系について理解をすることが必須だからです。

弁護士費用はさまざまな報酬の積み重ね

「弁護士費用」といわれるものは、正確には、「弁護士に業務を依頼した場合に発生する報酬」を指します。この弁護士の業務報酬は、実は、ひとつの項目だけで算出されるのではなく、複数の報酬費目を合算したものとして、依頼人に請求されます。

弁護士の業務報酬は、一般的に次のような費目に分類することができます。

着手金依頼業務に成功不成功がある場合に、その結果の成否にかかわらず受任時に受けるべき委任事務処理の対価
報酬金依頼業務が成功に終わった場合に、その成功の程度に応じて受ける委任事務処理の対価
日当弁護士が、委任事務処理のために事務所所在地を離れ、移動によってその事件等のために拘束されることの対価をいう。わかりやすく言えば、出張する必要が生じた場合の手当(および交通費)
手数料原則として一回程度の手続又は委任事務処理で終了する事件等についての委任事務処理の対価(内容証明郵便送付・返済金の管理(振込)事務など)

※上記に加え、一定の実費(印紙代など)の負担が必要な場合があります。

弁護士費用について(日本弁護士連合会ウェブサイト)

このように弁護士業費用が細分化されているのは、その方が依頼人にとっても弁護士にとっても公平な報酬体系となるからです。「成功報酬だけで十分ではないか」と考える依頼人もいるかもしれませんが、弁護士報酬が成功報酬のみになれば、「負けることが確実な案件」や「報酬額の低い案件」を引き受ける弁護士がいなくなってしまいます。
また、弁護士への業務依頼は、請負契約(成果物を納品するような業務)ではなく、委任契約(労務提供それ自体が目的となる契約)である点でも着手金という報酬は理にかなっています。「着手金=給与」、「報酬金=ボーナス」と整理しておくとわかりやすいかも知れません。

しかしながら、弁護士に慣れていない人にとっては、「たくさんの費目がある」ということ自体が「弁護士費用がわかりづらい」と感じる要因になっていることは否めないともいえます。

弁護士費用は費目ごとに支払い時期も異なる

弁護士費用は、それぞれの費目によって支払い時期も異なります。

弁護士報酬の基本となる着手金は、「弁護士に業務を依頼するとき」の支払い(前払い)が原則となります。着手金は「弁護士に業務をしてもらうこと」に対して発生する報酬だからです。

成功報酬金は、「業務の成否」が確定しなければ、報酬が発生するかどうかも確定しませんので、当然「後払い」が原則となる報酬です。

日当・手数料などの支払い時期は、ケースに応じて弁護士と依頼人との間で協議をして決めることになります(その都度払いが一般的だと思います)。

他の一般的なサービスは、前払いか後払いの「1回払い」がほとんどです。また、「支払いのときまで価格がわからない」というケースも多くはありません。その点で、弁護士費用は、何度も費用を支払う必要がある上に、最終的にいくらになるかハッキリしないという点で、なじみづらい、高そうといった警戒心を与えてしまう費用体系になっていることは否定できないかもしれません。

弁護士費用の「相場」がわかりづらいのはなぜか?

さまざまなサービスの料金には「相場」とよばれる価格があるのと同様に、弁護士費用にも一定の相場のようなものは存在します。しかし、弁護士費用の相場は、一般の人には上手く知れ渡っていないと感じることが少なくありません。

一般の人にとって、弁護士費用の相場がわかりづらい原因としては、次のような事情を挙げることができます。

業務報酬の自由化

かつては、弁護士報酬は、日弁連が定めていた「業務報酬基準」を確認することで、事前に弁護士費用(の算出基準)を把握することが可能でした。すべての弁護士事務所はこの業務報酬基準に従わなければなかったからです。

しかし、独占禁止法との兼ね合いから、この業務報酬基準が廃止されたことをうけて、現在では、それぞれの弁護士(事務所)が独自に報酬額を定めることになっています(任意整理業務の一部報酬費目を除きます)。

この業務報酬の自由化を受けて、実際にもさまざまな料金体系を用意する弁護士事務所も増えてきました。 つまり、これまで一律料金であったものが、完全自由化されたために、市民にとっては逆にわかりづらくなったというわけです。法曹人口が拡大し弁護士の業務それ自体が変わり(拡がり)つつあることも、費用体系がわかりづらい要因の一つになっているのかもしれません。

「弁護士報酬」を目にする機会がないこと

それぞれの事業者が料金を自由に定めることは、特段珍しいことではありません。社会に存在するほとんどの商品・サービスは自由に価格が定められたものだからです。しかし、他の商品・サービスと弁護士(専門家)費用には「その価格を普段の生活で目にするか否か」という点で大きな違いがあります。

たとえば、ペットボトル飲料や、パン・お菓子・おにぎり・ガソリンといったものであれば、普段の生活の中でそれぞれの価格を目にしているので、その提供を受けるために必要な価格がいくらかということをあらかじめ知ることができます。

「料金の比較」は普段の生活の中で基礎知識が与えられることで可能となります。しかし、私たちの生活の中で弁護士費用を目にする機会はほとんどありません。弁護士事務所の看板に「訴訟1件〇〇円」というような表記がなされることは、現実的なことではありませんし、テレビCMで目にすることのできる弁護士はごく一部に限られるので「比較できる」というほどの情報がないからです。

とはいえ、実際には上で述べたように、弁護士費用にも相場といえる金額は存在します。すでに廃止されたとはいえ、旧業務報酬基準は、いまでも相場としての一応の機能を果たしているからです。

しかし、一般の人がこの旧報酬基準規程を目にすることもまずありません。すでに廃止されている規程ということで、弁護士会のウェブサイトなどでも公開されていませんし、「弁護士費用」とGoogleなど検索してみても旧報酬基準規程にたどり着くことは簡単ではありません。

このような事情も、一般の人にとって「弁護士費用の相場がわかりづらい」と感じる要因になっているのかもしれません。

なお、弁護士費用の相場額を調べる上で、誰もが簡単にアクセスできる最もオーソリティの高い資料は、日弁連が発行している「市民のための弁護士報酬ガイド」という冊子です。 ただし、この冊子は2009年に発行されているものですから、情報が古いという点で限界があることは念頭においておくべきでしょう。今後弁護士費用はますます多様化していく可能性が十分にあるからです。

市民のための弁護士報酬ガイド(PDFファイル)

価格を示されても「評価できない」

一般的な消費者にとって弁護士費用についての一番難しい問題は、「費用がわからない」とことよりも、「報酬額を評価できるモノサシを持っていない」ということです。

たとえば、おにぎりやハンバーガーのようなものであれば、「低価格の割においしかった」、「高かった割にはおいしくなかった」という評価が可能です。しかし、弁護士の業務については、多くの人が「弁護士への依頼が初めての経験」であるだけでなく、「依頼業務自体にも接したことがない(食べ物とかであればそれを作るのにどの程度の手間暇がかかるかは何となくわかる)」ため、評価それ自体が難しいわけです。

たとえば、上の報酬ガイドに示された金額をみたところで、「それが(自分の案件にとって)適正な金額」であるかどうかを判断できる人はほとんどいないのではないでしょうか。

そもそも弁護士費用というのは「価格だけ」をみることにはあまり意味がないので、評価できないのはもっともなことなのですが、この点については、下で別に述べることにします。

弁護士費用を正しく評価ために注意すべき5つのポイント

「弁護士費用の評価は難しい」ということを前提にしても、弁護士に業務を依頼する側としては、「その費用が適正かどうか」を何とか判断したいと考えるのは、当然の感覚といえます。

そこで、以下では、弁護士費用を評価する際に注意すべき5つのポイントについて解説していきます。

簡単にアクセスできる情報には限りがある(量的な限界)

弁護士費用を調査する手段として最も多く用いられるのはウェブ上の情報でしょう。しかし、ウェブ上にある弁護士(費用)の情報には次のような限界があることに注意する必要があります。

  • ウェブ上で弁護士事務所の情報を載せている事務所は必ずしも多くないこと
  • ウェブ上でアクセスできる弁護士事務所でも弁護士費用の詳細を表示していない事務所も少なくないこと

いまの社会では、あらゆる商品・サービスがウェブを通じて広告・宣伝されていますが、弁護士にとってウェブ広告は必ずしも一般的なものではありません。数だけの比較をすれば、ウェブ広告に積極的な事務所は圧倒的に少数派といえます。また、広告出稿の必要すら感じていないという事務所も少なくないでしょう。

また、ウェブ上にある弁護士情報を比較してみても、数の上では弁護士費用について明記のないもの方が圧倒的に多数です。たとえば、日本弁護士連合会の検索システムを使えば、登録されているすべての弁護士の基本情報を検索することが可能ですが、弁護士費用については公開情報に含まれていません。
これらのシステムは、弁護士事務所の広告宣伝ではなく、公的資格者の情報公開(最低限のアクセス保障)の一貫として行われているものにすぎないからです。Googleなどで自分の住まいの周辺の弁護士事務所を検索しても弁護士費用までアクセスできるケースは決して多くないといえます。

弁護士検索ひまわりサーチ(日本弁護士連合会)

バイアスの強い情報に接する可能性(質的な限界)

私たちがウェブで目にする弁護士情報の多くは、弁護士以外の第三者による加工を経た情報です。当然、それらには一定のバイアスが生じてしまうことは避けられません。

たとえば、「弁護士相場の比較」を謳ったサイトであっても、有意といえるサンプルを抽出できているか疑わしいサイトも少なくありません。全国には約17000の弁護士事務所(弁護士数は約4万人)がありますので、たとえば50程度の事務所を比較したという程度では、全体の0.3%程度しか抽出できていないので、ランキング・相場という言葉を用いるにはあまりにも不十分で、「サンプルに偏りがある可能性」も否定できないわけです。

また、弁護士費用の公開の有無と、弁護士費用の高低にも相関関係がないことにも注意しておく必要があります。つまり、「宣伝広告のない事務所は費用が高い」という推論は正しくないということです。むしろ、広告宣伝に高いコストを掛けずに、最低限の経費で事務所を経営することで「安い費用体系を維持できている」事務所も少なくありません。

よい弁護士を選ぶという観点でいえば、簡単にアクセスできる情報だけにとらわれるのではなく、幅広くさまざまな弁護士事務所を「フラットに比較する」ことが大事といえるでしょう。

『〇〇無料』というフレーズを鵜呑みにしない

弁護士事務所の広告などを見ていると、「着手金無料」、「成功報酬無料」といったコピーを見かけることが増えました。

しかしながら、「〇〇無料」というフレーズは、必ずしも「報酬額が安い」こととイコールではありません。冒頭でも説明したように、弁護士費用は、着手金・成功報酬・日当などの報酬費目の合計で決まるからです。

たとえば、(必ずしもすべての事務所がそうではないのですが)「着手金(成功報酬)無料」と謳っている事務所には、「成功報酬(着手金)が他事務所よりも高い事務所」も少なくありませんし、着手金・成功報酬が共に安くても、「日当が高い」ことで最終的な費用総額が高くなるということもあり得ます。また、これとは逆に、着手金・成功報酬・日当のすべてが安いという事務所がある可能性も否定できません。

「金額だけ」で弁護士を比較することは危険

弁護士費用は「その額面だけを横並びで比較すべきではない」ものといえます。ガソリン1リットルあたりの価格やコーラ1本の価格を比較するのと同じように弁護士費用を考えることは適切ではないからです。なぜなら、同じ依頼事件であっても、弁護士によって提供されるサービス(業務内容)に違いが生じうるからです。

また、弁護士の業務報酬は、弁護士事務所の個別事情(事務所維持に必要な経費など)や、その弁護士自身のポリシー・パーソナリティに左右される場合も少なくありません。つまり、「費用が安い弁護士だから経験が浅い(能力が劣る)」、「費用が高いから優秀(業務に自信がある)」という推論も当てはまらない場合が多いのです。

実際にも「自分が受任したくない」と考える事件類型の報酬額を相場より高い金額に設定している弁護士も少なくありませんし、逆に、「他の弁護士よりも効率よく業務できる自信があるから報酬も安い」という弁護士もいるわけです。こればかりは、その弁護士に接してみなければわからないことです。

弁護士選びに失敗しないという観点では、弁護士費用を比較する際には、「金額」だけではなく、「その報酬額の対価(弁護士が提供してくれる労務の詳細・クオリティ)」と、「その報酬額の設定根拠」にも注目すべきといえます。

弁護士には費用について丁寧に説明する義務がある

弁護士には、依頼人に対して報酬額について説明を果たす職務上の義務があります。「お金の話しは苦手」という人も多いと思いますが、後のトラブルを避けるためにも、不安なこと、わからないことは率直に尋ねるべきです。むしろ、弁護士費用についての弁護士とのやりとりから見えてくることに、弁護士選びの決め手となる要素が隠されていることも多いといえます。その意味では、依頼前の相談の機会を上手に活用することが、弁護士選びで失敗しない一番の方法といえるのではないでしょうか。

弁護士費用は「弁護士選びの基準」となるのか?のまとめ

いまの私たちの社会においては、「理想とする弁護士に簡単にアクセスできるインフラ」は整備されていません。そのような中で、「すぐに、簡単にアクセスできる情報だけ」で弁護士を選ぶことは、メリットよりもリスクの方が大きくなる可能性があります。実際にも、債務整理や刑事弁護といった緊急性が高く依頼人側に弁護士を選択する余裕のない案件では、いわゆる「ぼったくり」や「業務放置・怠慢業務」にあったという依頼人の声に接することも少なくありませんし、そのような弁護士懲戒事例も少なからず存在します。

弁護士費用は、あくまでも「弁護士を選ぶためのファクターのひとつ」に過ぎません、それぞれの事務所で設定された費用の向こう側に見える「弁護士の本当の姿」を意識することが、依頼人にとっての最良の弁護士にたどり着く一番の近道といえるのではないでしょうか。

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