弁護士選びが難しいのはなぜか?

弁護士選びが 難しいのはなぜか?

離婚や交通事故、犯罪事件、多額の借金・・・、一般の人が弁護士の力を借りたいと感じるシーンは、「人生の今後を決めかねない重大な出来事」に直面した場合が多いといえます。企業絡みのケースでも、常設の法務部などがある大企業はともかくとして、中小企業の場合であれば、会社の将来を左右しかねない重要な局面だからこそ弁護士に依頼したいと考える場合の方が圧倒的に多いといえるでしょう。

それだけに、「できるだけ良い弁護士に依頼したい」と考えるのは、依頼人としては素朴な思いといえます。

しかし、いざ弁護士を選ぶ段階になると、「誰に依頼したら良いのかわからない」と困ってしまう人の方が多いのではないでしょうか。

実は、「弁護士を選ぶのは難しい」と感じることは、仕方のないことといえます。現状では、「一般的な消費者がよい弁護士を(簡単に)見つけることのできる仕組み」が用意されていないからです。

そのような現状を前提にすれば、むしろ、「弁護士を正しく選ぶことは難しい」ということを知ることが、「弁護士選びで間違えない」ために最も重要な要素であるということもできます。

結論から先に示しておけば、いまの時代において弁護士選びが難しい理由は、次の3点に集約できるといえます。

  • 消費者自身が「良い弁護士」を見極められるモノサシをもっていない
  • 弁護士の業務広告には限界がある
  • 「優れた弁護士」の定義はケースによって異なる

以下では、それぞれのポイントについて、簡単に解説を加えていきます。

消費者自身が「良い弁護士」を見極めるためのモノサシをもっていない

消費者自身が「良い弁護士」を見極めるモノサシ(評価基準)をもっていないことは、ほとんどの消費者が「これまでに弁護士と接点をもったことがない」ことに関係しています。

たとえば、「今日の昼ご飯はどこで何を食べようか」という選択であれば、「好みの味」、「予算」、「時間」、「立地」といった諸条件に照らして、その場面にふさわしい(それなりの)選択をすることが可能です。なぜなら、「昼ご飯を食べる(昼休みの間に限られた予算で食事をする)」ということは、多くの人がそれまでの生活の中で何度も経験していることだからです。

しかし、弁護士に業務を依頼する場合には、「弁護士に業務を依頼することがはじめて」であるだけでなく、「そのトラブル(離婚・借金・ビジネス上のトラブル)に遭遇する」こと自体もはじめてである場合が少なくありません。
そのため、「弁護士に依頼すれば何をしてもらえるのか(弁護士によってどのような違いがあるのか)」、「弁護士から受けられるサービスに対して見合ったコストはどれくらいか」といった弁護士が提供できるサービスを評価するモノサシを持ち合わせていないだけでなく、「そのトラブルを解決するためにどのような対応が必要か」、「そのトラブルを解決するための適正コスト」についてもモノサシをもっていないというわけです。

たとえば、食事をする店を選ぶ場合であれば、「この店で出てくる商品の味」は、初めて入るお店であっても、店やメニューの名称などからある程度推測することができますし、その場のTPOに合わせた適正価格も自分なりのモノサシで判断できることと比較すれば、一般の消費者が弁護士サービスを評価することが難しいということは、わかってもらえるのではないかと思います。

行列のできるラーメン屋が必ずしもオイシイとは限らない(他の消費者もモノサシをもっていない)

自分自身でそのサービスを評価できない場合に参考にしたくなるのは、「他の消費者の評価」です。

特に、弁護士へのアクセスを考える場面では、「重大なトラブルをすぐに解決したい」状況に陥っていることで、「他の人が評価しているから安心」と考えてしまいがちになります。

このことは、食事をするのに適当な店が見つからないときに、行列ができている店をみつけて、「おいしい店だから並んでいるのだろう」と、その行列に並んでみる場合と同じといえます。

もちろん、当初の予想どおり良い店だったということもありますが、多くの人が経験しているように、「並んでみた割には・・・」というリスクもあることは、弁護士選びの場合でも同じであるわけです。

あなた自身が評価のモノサシをもっていないのと同じように、他の消費者も評価のモノサシをもっていませんし、必ずしも他の消費者があなたと同じサービスを受けているとも限りませんし、同じサービスを求めていないという場合もあり得るからです。

他のサービス・商品についての口コミと同様に、弁護士の場合も「実際に自分で相談・依頼してみないと自分自身の満足度はわからない」ということは常に頭の中に入れておくべきでしょう。

弁護士広告の限界

広告・宣伝は、消費者がサービスや商品を選択するきっかけとして重要なものです。しかし、弁護士の業務広告には、かなりハッキリした限界があります。そもそも弁護士が業務広告を行うことは、「職業倫理」との関係で問題があると理解されてきたことから、制度の上では解禁となった今でも「自由に広告・宣伝できる」というわけではないからです。

弁護士が行う業務広告については、日本弁護士連合会(弁護士が必ず加入しなければならない強制会)は、「業務広告の指針」というものを定めています。

【参照】日本弁護士会策定「業務広告に関する指針」(PDFファイル)

この指針では、次のような表現を業務広告で用いることを禁止しています。

  • 「○○事務所より豊富なスタッフが揃っています」
  • 「○○を宣伝文句にしている事務所とは異なり、当事務所は○○で優れています。」
  • 「当事務所ではどんな事件でも解決してみせます。」
  • 「当事務所にご依頼いただければトラブルはすぐに解決できます。」
  • 「○○地検での保釈ならお任せ下さい、元○○地検検事正」
  • 「保釈の実績○○件、保釈なら当事務所へ」

この指針で記されている禁止事項からは、(誇大広告の類いが許されないことはもちろんのこと)「弁護士が広告を用いて集客争いをすべきでない」という日弁連の基本的な方針が見え隠れしています。

そもそも、弁護士が「法的救済を必要としている弱者の保護(社会正義と基本的人権の実現:弁護士法1条)」を使命とする専門職能であることを考えると、弁護士にとっての業務広告というのは、「他の弁護士との違いを強調するためのツール」ではなく、「弁護士にアクセスするための最低限の基本情報(連絡先)を世の中に知らしめる」ための公的なインフラ(選挙における掲示板ポスターのようなもの)に近い位置づけと考えるべきなのかもしれません。

すべての弁護士事務所が広告宣伝に積極的なわけではない

弁護士の業務広告を考えるときには、「すべての弁護士事務所が積極的に広告・宣伝活動を行っているわけではない」ということにも注意しておく必要があるでしょう。

日本弁護士連合会『弁護士白書2018年度版』70頁より引用

上は、事務所の規模(所属事務所の人数)別の事務所数の割合を示したグラフですが、見ての通り、わが国にある弁護士事務所の半分以上は1人事務所であり、90%以上が所属弁護士5人以内の事務所です。

個人商店と大手チェーン店とでは、営業戦略が違ってくるのと同じように、弁護士事務所の規模が変われば、仕事を受ける基本的な仕組みそれ自体が変わってきます。たとえば、飲食店にも「メディアにも取り上げられる超有名店」がある一方で「メディア取材お断りの隠れた名店」があるように、テレビなどのメディア媒体で目にすることのない弁護士(事務所)にも優れた事務所はたくさんある(広告を用いる必要のない事務所もたくさんある)と考えておいた方がよさそうです。

また、マスメディアに広告をうつためには、弁護士側にも一定の負担が生じます。たとえば、弁護士事務所のウェブサイトを用意するだけでも、相当の費用と手間がかかります。弁護士の貴重なリソースが広告のために必要以上に割かれることは、弁護士にとっても、依頼人にとっても不幸な結末です。広告費の負担が重くのしかかっているために弁護士報酬を値上げしなければならないというのでは、本末転倒といえますし、広告に割くリソースを、依頼人のため、社会のために当てるのが、弁護士の本来的な職責との関係では理想的な状況といえるでしょう。

「よい弁護士」の定義はケースによって異なる

「良い弁護士」を選ぶことが難しい最も本質的な要因は、「良い弁護士」、「優れた弁護士」の基準・定義それ自体が、それぞれのケースで異なり得るということにあります。

たとえば、弁護士に持ち込まれるすべての案件が訴訟で処理されるわけではありません。事案によっては、勝訴判決を勝ち取るための技量よりも、相手方と穏便・迅速に話し合いのできる弁護士の方が優秀と考えることもできます。そもそも勝訴判決率というのは、受任している事案の難易度にも大きく左右されるので、弁護士の力量を判断する指標としてふさわしくありません。実際にも勝訴判決率を前面に押し出して自己の事務所をPRしている弁護士もいないと思います。

また、知識・経験が豊富だから対応のできる案件があるのと同様に、固定観念がないからこそ克服できる事案、若くて体力があるから対応しきれる案件があることも事実です。また、経験が足りなくても、その弁護士の熱意によって十分な結果を残せる事案もあるでしょうし、勝ち負けよりも自分の声を相手に届けることが大事と考える依頼人や、どうにもこうにもならない状況を受け入れるために弁護士に寄り添ってもらいたいと考える依頼人もいます。
実際の事件・困りごとを抱える依頼人のニーズが多様である以上、弁護士の評価基準も多様にならざるを得ないのです。

ところで、個々の弁護士の業務専門性については、医師における学会認定専門医制度(認定医・専門医・指導医の区分)のような客観的な評価基準がないことにも注意する必要があります。
何の根拠もなしに「〇〇が専門」と広告に謳うことは(懲戒処分の対象となるので)あり得ないことだとは思いますが、上で紹介した「業務広告の指針」においても、「客観性が担保されないまま専門家、専門分野等の表示を許すことは、誤導のおそれがあり、国民の利益を害し、ひいては弁護士等に対する国民の信頼を損なうおそれがあるものであり、表示を控えるのが望ましい」と記されていることは頭に入れておいてもよいかもしれません。

「依頼人にとって良い弁護士の条件」というテーマは、とても難しい問題ですので、別の機会を設けて改めて詳しくお話ししたいと思っています。

弁護士選びが 難しいのはなぜか?:まとめ

重大な法的トラブルを抱えたときには、「できるだけ良い弁護士に相談・依頼したい」と考えることは、ごく自然な想いといえるでしょう。

しかしながら、「よい弁護士」と評価できる基準が、それぞれのケースにおける依頼人のニーズによって異なる以上は、自分自身で弁護士と会うこともなく良い弁護士を見つけることは、簡単なことではありません。

実際に弁護士を選ぶ際には、現時点で集めることのできる情報の長所・短所を見極め、参考にしながら、直接弁護士と話してみることが何よりも大切です。

近年では、無料相談、夜間・土日の相談にも応じてくれる法律事務所も増えていますので、これらの仕組みを上手に活用することが、現状における弁護士選びの最善の方法といえるでしょう。

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