「打倒GAFA」の掛け声は独禁法の隠蓑?ヤフーとLINEの統合で独禁当局はどう動くのか

打倒GAFA

2019年11月18日にヤフーの親会社であるZホールディングス株式会社(ZHD)がLINE株式会社との経営統合を進めると発表した。背景には、インターネット市場において、米国のGoogle、Amazon、Facebook、Appleの「GAFA」、そして中国のBaidu、Alibaba、Tencentの「BAT」と呼ばれる米中の巨大IT企業の圧倒的優勢に対する危機感がありました。

経営統合の目的は、日本にフォーカスした「AIテックカンパニー」を目指すこと。AIテックカンパニーとは、AIテクノロジーによって新しい価値を創造し、イノベーションを起こし、世の中を変革する企業というところでしょうか。

国内で多くのユーザーと豊富な資産を有するZHDグループとLINEグループがこの経営統合によって、まず、日本国内で革新的モデルを構築し、次にアジア、そして、最終的には世界をリードするAIテックカンパニーを目指すということです。

経営統合の方法は、ソフトバンクとLINEの親会社のNAVERが50%ずつ出資するジョイントベンチャー (現LINE)がZホールディングスの筆頭株主となり、新たに設立する会社(新LINE)にLINE事業を全て承継させ、ヤフーと共にZホールディングスの傘下に置きます。

Zホールディングス
出典:Zホールディングス 2019.11.20記者発表資料

はたして、Yahoo&LINEは米国GAFAや中国BATに次ぐ第三極を担うことになるのでしょうか。又、公正取引委員会はデジタル分野の企業結合に対応すべく2019年12月17日に改定した新たなガイドラインをもとにどのように判断するのでしょうか。

ヤフーとLINEの経営結合で何が変わる?

下のグラフで分かるように世界規模で見ると、ヤフーとLINEを合わせても米国GAFAや中国BATなどとは桁が違う事業規模です。

2018年度のGAFA BATの事業規模
データの出典:Bloomberg、※Yahoo及びLINEは1UDS=109JPY
中国BATは1USD=7CNYとしてドル換算

Zホールディングスの川邊社長によると、この経営統合によって期待されるシナジー効果は次の4つ。

1.マーケティング事業におけるシナジー

ヤフーとLINEの保有するマルチビッグデータを活用することで、ネットと実店舗を連携・併合させるO2OやOMOといった次に到来する新しいマーケティング分野の開拓にいち早く取り組むことで次世代のプラットフォーマーとしてのトップを目指すことが可能になる。

  • ※O2O(Online To Offline):ネットなどのオンラインと実店舗などのオフラインを連携させること
  • ※ OMO(Online Merges with Offline):オンラインとオフラインを融合させること

2.集客におけるシナジー

国内8,200万人のユーザー基盤を有するLINEと、6,743万人のユーザー基盤を有するヤフーが連携することにより、ヤフーショッピング・PayPay モール・ヤフオク!・ZOZOTOWN・一休.com などの「eコマース」サービスを始めとした各種サービスへの集客効果が期待される。

3.フィンテック事業におけるシナジー

累計登録者数が約2000万人のPayPayと、約3,700万人のLINE Payが連携すると、スマホ決済の分野で圧倒的有意に立つことができます。このアプリと銀行、証券、保険、クレジットカードなどを紐付けることによってスマホ決済アプリをフィンテック・プラットフォームとしての「スーパーアプリ」に育てあげることが期待できる。

4.新規事業/システム開発におけるシナジー

開発人員の拡大、両社のシステム開発のノウハウの共有により、ユーザーにとってより魅力的なサービス作りが可能となります。特に、今後さらに重要となるAI 基盤の開発に注力し、全てのサービスの中核となる「AI基盤開発」の更なる強化、加速の推進ができる。

独占禁止法の適用が懸念される理由

独占禁止法は「公正かつ自由な競争を促進し,事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすること」を目的として定められた法律です。市場メカニズムが正しく機能していれば、各事業者が競争しより安価で優れた商品が開発・提供されるので、消費者の利益が確保されることになります。

しかし、企業結合を行った会社・グループが単独で、ある程度自由に市場における価格、供給数量などを左右することができるようになる場合に、消費者は、特定企業の商品しか購入できなくなり、これまでのメリットが失われる可能性もあります。

そこで、独占禁止法では『一定の取引分野』における『競争を実質的に制限する』ことなる場合には、企業結合を禁止しています。

一定の取引分野とは

独占禁止法上の『一定の取引分野』は、取引の対象となる商品・サービス等に関し、需要者にとっての代替性という観点から判断されます。 2019年12月27日に改定された独禁法ガイドラインで、デジタル分野の企業結合の『一定の取引分野』について明記されたポイントは以下の3点です。

1. 需要者層ごとに一定の取引分野を画定するが、プラットフォームが異なる需要者層の連携効果が強く働く場合には、それぞれの需要者層を包含し『一定の取引分野』とする場合がある。

取引分野
出典:Zホールディングス 2019.11.20記者発表資料

2.ある地域において商品の品質等が悪化した場合、又は需要者が負担するコストが上昇した場合に、需要者の「スイッチングコスト」の上昇を考慮することがある。

スイッチングコストとは、現在顧客が使っている商品・サービスを他の商品・サービスに切り替える際のコストのことをいいます。商品代金以外にも、新たなプラットフォームの操作方法を覚える手間や、新しいものに対する不安などの心理的抵抗が含まれます。スイッチングコストが増大すると地域や商品を変更する際のハードルが上昇しロックイン効果が生じ、一旦トップシェアをとってしまうと一人勝ちする確率が高まります。

3.商品の範囲には使用可能言語や使用可能端末等の利便性なども考慮され、地理的範囲はサービスを受けることが可能な範囲や、サービスが普及している範囲などが考慮されます。

ヤフーやLINEのようなインターネットを使用するデジタル・プラットフォーマーの場合、独占禁止法が対象とする範囲は、世界市場をターゲットとしても国内市場にどのような影響があるのかも考慮されることになるでしょう。

今後について

ヤフーとLINEの経営統合は2020年10月に完了する予定で、それまでに改定された新しいガイドラインをもとに独占禁止法の審査があります。

経営統合
出典:Zホールディングス 2019.11.20記者発表資料

Zホールディングスの2019年11月20日の記者発表によれば、YAHOO JAPANの月間利用者数6743万人、LINEの月間利用者数8200万人、PayPayの累計登録者数2000万人、LINE Payの累計登録者数3690万人、インターネット広告市場のシェアは両社合わせると30%、それに伴う膨大なデータの集積が可能となります。

世界市場を視野に入れたこの経営統合に対し、公正取引委員会は新しい独占禁止法のガイドラインをもとにどのように判断するのか今後も目が離せません。

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