仕事・生活に影響しそうな2021年4月から変わったこと
- 2021/4/21
- 法令コラム
コロナ禍の混乱が続く2021年ですが、この4月には、生活に直結する様々な制度が変更されました。中でも、「同一労働同一賃金」や「70歳までの就業機会の確保」といった働き方に関する法律改正は、私達の将来設計に大きく関わってくる問題です。また消費税の表示方法についても、総額表示が義務化されました。この記事では、これらの改正によって、具体的に何が変わるのかを解説します。
2021年4月から変わったものとは
年度替わりとなる4月は、例年制度が変わる節目となりますが、2021年4月も、私達の生活に直結する様々な制度が変更されました。たとえば、労働条件に関することでは、次のような変更がありました。
- 中小企業にも「同一労働同一賃金」の適用
- 70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となる
また、生活に関することでは、次のような変更がありました。
- 消費税込みの総額表示が義務に
- 公的年金0.1%下げ
- 介護報酬を0.7%引き上げ
- 自動車損害賠償責任〈自賠責〉の保険料を平均6.7%下げ
- 公立小学校の2年生が35人学級に
これらの変更が私達の生活にどのような影響を及ぼすのか、今回は、この中から、労働と消費税に関する事柄について探っていきましょう。
同一労働同一賃金
「同一労働同一賃金」とは、「正社員」と「パート」といった雇用形態の違いによる待遇差を解消し、労働者の処遇を適正にする制度です。大企業では、既に適用されていた制度ですが、2021年4月から、中小企業でも適用されるようになりました。
この制度は、ひとつの企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇格差を解消するために、どのような雇用形態を選択しても不利益が生じない処遇を確保することを目指しています。これにより、労働者が、多様な働き方を自由に選択できる可能性が広がります。 具体的にどのような待遇が是正の対象になるのか紹介していきましょう。
給与・各種⼿当
給与の格差を是正するために、非正社員の時給額は、同じ事業所で働く正社員の給与と比較して、合理的な説明がつく金額とすることが求められます。
非正社員の生産性や経験、成果、勤続年数などが正社員との実態に差がないのであれば、同一額を基本給とする必要があります。ボーナスも、企業への業績貢献度に応じて正社員に支給するのであれば、同一の貢献をした非正社員にも同一に支給する必要があります。
さらに、作業環境に応じて支給される特殊作業手当をはじめ通勤手当などの各種手当も、平等な支給をすることが求められます。
休暇
休暇や福利厚生についても正社員と同様の待遇が求められます。
勤続期間に応じて労働者に与えられる法定外の有給休暇やその他の休暇は、勤続期間が同じ非正規労働者にも同一に付与する必要があります。
病気による休職についても、無期雇用の短時間労働者にも正社員と同一の扱いが求められるのをはじめ、有期雇用労働者についても、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて同一に付与することが求められています。
福利厚生
社員食堂や更衣室などの福利厚生施設の利用や慶弔休暇の取得、健康診断に伴う勤務免除などは、同じ利用権限を付与しなくてはなりません。また、病気休職や法定外の有給休暇についても、同じように付与する必要があります。
社員教育
職務に必要な知識・スキルを習得するために実施される教育訓練については、同一の職務内容であれば同じ教育機会を与えなくてはなりません。
70歳まで就労確保
働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、「高年齢者雇用安定法」が改正され、2021年4月1日から施行されています。
強制的な義務ではなく努力義務の範囲ですが、企業には、高年齢者の就業を確保するために、次のいずれかの措置を講じて、希望する労働者に70歳まで就労の機会を与えることが求められます。
- 定年を70歳に引き上げる
- 70歳まで継続雇用する制度の導入する
- 定年制を廃止する
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度を導入する
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度を導入する
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
1~3については、従来の雇用ですが、4は業務委託契約であり、5は社会貢献事業への参画なので、雇用保険の失業給付が支払われないケースが出ることも想定されます。このため労働者の半数を超える労働組合などとの同意を事前に必要としています。
この改正によって、国は企業に対して必要な指導や助言が行えるようになりました。この指導や助言があった場合、その後待遇の改善が見られないときは、高年齢者就業確保措置に関する計画の作成について、文書で勧告がなされることがあります。
商品の総額表示義務
商品の値札や広告における価格表示に、消費税相当額を含んだ支払総額の表示をすることを義務付けた「総額表示方式」が、2021年4月1日から実施されています。
これまで主流だった「税抜価格表示」では、レジで金額が表示されるまで、確実な支払金額が分かりにくいという難点がありました。また、同じ商品なのに、店によって「税抜価格表示」と「税込価格表示」が混在していたために、容易に価格の比較ができない状況が生じていました。総額表示の義務化により、こうした煩わしさが解消されることになったのです。
総額表示の義務付けは、商品やサービスを販売する課税事業者が行う価格表示を対象としたもので、単に商品の値札だけでなく、様々な表示媒体が対象になります。具体的には、次のようなものに対して総額表示が義務付けられています。
- 値札、商品陳列棚、店内表示、商品カタログ等への価格表示
- 商品のパッケージなどへ印字、あるいは貼付した価格表示
- 新聞折込広告、ダイレクトメールなどにより配布するチラシ
- 新聞、雑誌、テレビ、インターネットホームページ、電子メール等の媒体を利用した広告、ポスター
ただし、総額表示の義務付けは、価格表示を行う場合を対象とするものであって、価格表示自体を行っていないものまで、表示を強制するものではありません。
価格表示の方法は、商品やサービスによって、あるいは事業者によってさまざまな方法があると考えられますが、たとえば、税抜価格10,000円の商品であれば、値札等に消費税(10%)相当額を含めた「11,000円」を明確に表示することが大きなポイントになります。
まとめ
雇用形態が多様になった現代社会において、同一労働同一賃金は、働き方を自由に選択できる大きな後押しとなります。
企業は、パートタイム労働者等から待遇の格差について説明を求められた場合、きちんと説明をする義務があるのは当然のことですが、説明を求めた労働者に対して、解雇や減給、契約更新拒否といった不利益な対応をすることも禁じられています。
努力義務とはいえ、70歳までの就業確保の機会も保証されることになりました。こうした働き方に対する改正によって、これまで以上の暮らしの安定が期待できます。
また、今回記事の中では触れませんでしたが、行政関係の手続きで、2021年4月から押印を廃止する動きが現実化しています。たとえば、建設業許可申請書や建築確認申請書では、申請者欄に押印をすることなく申請が可能になりました。
その他の各種許認可申請においても、押印を不要とすることを基本形としたものが主流になっています。