知らないと損をする特定支出控除とは?

知らないと損をする特定支出控除

サラリーマンでも自営業のように確定申告すれば経費が控除される制度があるのをご存知でしょうか。その制度は「給与所得者の特定支出控除」と言い、1988年度の収入金額から適用されていましたが、適用範囲が狭く条件も厳しかったことから実際の利用者はごくわずかでした。

その後の税制改正によって適用条件などが緩和され、2013年には約1,600人、2018年には約1,700人に増加しましたが、まだまだ普及しているとは言えない状況です。

しかし、2018年度の税制改正により2020年度以降の所得に対してはさらに適用範囲が拡大されたことから、より多くのサラリーマンがこの制度を利用できる可能性が出てきました。

そこで今回は、「給与所得者の特定支出控除」について詳しく解説します。

特定支出控除とは

サラリーマンの給与所得の金額は、その年の給与などの収入金額から給与所得控除額を控除して計算しますが、その年の「特定支出額」が給与所得控除額の1/2相当額を超えるときには、超過する金額を確定申告することによって給与所得からさらに控除できる可能性があります。


収入−{ 給与所得控除額 +( 特定支出額 − 給与所得控除額の1/2 )}
= 給与所得金額

特定支出控除は、サラリーマンが自己負担した会社の業務に必要な費用を対象としますが、全て認められる訳ではありません。次の項で控除対象となる7種類の費用について具体的に説明して行きます。

7種類の特定支出とは

1.通勤費

通勤のために必要な交通機関(※航空機は除く)の利用又は乗り物の使用のための支出で、給与等の支払者(以下「会社」と表記)がその通勤の経路及び方法が最も経済的かつ合理的であると証明した次の費用が対象となります。

a.交通機関を利用する場合

  • 交通機関の利用料、ただし定期乗車券の金額が上限
  • 回数乗車券は利用分のみが対象
  • 特急料金(※グリーン車のような特別車両等の利用料は対象外)

b.自動車その他の乗り物を使用する場合

  • 燃料費、有料道路料金
  • 維持管理のための修理費(※性能UPのための改造費、故意または重大な過失による事故に関する修理費は除く)

c.交通機関と乗り物の併用の場合

  • aとbの合計金額が対象

2.職務上の旅費

勤務する場所を離れて職務を遂行するために直接必要な旅行であると会社によって証明がされたもののうち、会社がその旅行に関する方法などが最も経済的かつ合理的であると証明した次の支出。

  • 旅行に要する運賃及び料金(※グリーン車などの特別車両等の利用料は除く)
  • 旅行に要する自動車その他の乗り物の燃料費、有料道路料金
  • 維持管理のための修理費(※性能UPのための改造費、故意または重大な過失による事故に関する修理費は除く)

3.転居費(転任に伴うもの)

転任に伴う転居のための支出であると会社によって証明がされたもののうち、転任の辞令が出た日から1年以内に行う転居のための自己又はその配偶者その他の親族に関する支出で次にあげる金額に相当するもの。

  • 転居に要する運賃及び料金(※グリーン車などの特別車両等の利用料は除く)
  • 転居に要するに要する自動車その他の乗り物の燃料費、有料道路料金
  • 転居に要する宿泊費(※通常必要とされる金額を大きく超える場合は超過分の料金は除く)
  • 転居に要する家具その他の資産の運送に要した費用(梱包費、保険料も対象)

4.研修費

職務遂行に直接必要な技術又は知識を習得のための研修(資格の取得は除く)であることにつき会社によって証明がされたもの。

<ポイント>
・受講するための交通費も対象となる

5.資格取得費

資格を取得するための支出で、その支出が職務遂行に直接必要なものであることにつき会社によって証明がされたもの。

<ポイント>
・年をまたがる授業に対する支出の場合は、その年の部分だけが対象
・資格が取得できなかった場合も対象となる

6.帰宅旅費(単身赴任に伴うもの)

転任に伴い、次の①の場合に該当すると会社により証明された場合、本人の勤務地又は居住地と親族の居住地との間の旅行で、最も経済的かつ合理的と認められる方法に要する運賃及び料金。

  • 転居に伴い次の状態になった場合
    イ 生計を一にする配偶者との別居が通常の状態となること
    ロ 配偶者と死別・離婚した後、未婚の方や配偶者の生死が明らかでない方が、次に掲げる方との別居が通常の状態となること

    ○ 生計を一にする所得金額の合計額が48万円以下の子
    ○ 生計を一にする特別障害者である子

  • 対象となる運賃及び料金等
    イ 運賃及び料金(※グリーン車などの特別車両等の利用料は除く)
    ロ 自動車その他の乗り物の燃料費、有料道路料金

7.勤務必要経費

次に掲げる支出(※上限65万円)が職務遂行に直接必要なものであると会社によって証明されたもの。

  • 次の図書で職務に関連するものを購入するための支出
    イ 書籍
    ロ 新聞、雑誌その他の定期刊行物
    ハ 上記の他、不特定多数に販売する目的で発行される図書

    <ポイント>
    ・「書籍」とは、専門分野での知識を向上させるための専門書など
    ・「新聞、雑誌その他の定期刊行物」とは、特定分野の専門紙や業界紙など
    ・「一般紙」は、掲載する記事が職務の遂行に直接必要なものは対象となる

  • 勤務場所で着用することが必要とされる次の衣服の購入費
    イ 制服
    ロ 事務服
    ハ 作業服
    ニ 上記の他、会社の定めにより勤務場所で着用することが必要とされる衣服

    <ポイント>
    ・私服の着用が通常である場合、私服の購入費は対象外

  • 交際費、接待費その他の費用で、得意先、仕入先、その他職務上の関係者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為

    <ポイント>
    ・得意先等との親睦等を密にして取引関係の円滑化を図る目的であること
    ・接待、供応、贈答その他これらに類する支出であること

特定支出のケーススタディ

特定支出控除の適用可否に関してより具体的に理解して頂くために、国税庁のサイトで公開されている質疑応答の中からいくつか抜粋してご紹介します。

※国税庁のサイト

職場で着る背広は特定支出になるか


私の勤務先は、社内規定により、職場では背広を着用することとされています。
この場合、背広を購入するための支出は、特定支出となりますか?

(回答)
制服、事務服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入する ための支出で、その支出が本人の職務遂行に直接必要なものとして会社により証明がされたものは特定支出となります。

ご質問の場合、会社により勤務場所において背広を着用することが社内規定で定められていることから、その背広の購入のための支出が本人の職務遂行に直接必要なものとして会社により証明がされたものは特定支出となります。

テレワークで仕事をする場合の特定支出は?


在宅勤務を命じられたことに伴い、職務の遂行に直接必要なものとして、次の費用 を支出しました。

(1) 机・椅子・パソコン等の備品購入のための費用
(2) 文房具等の消耗品の購入のための費用
(3) 電気代等の水道光熱費やインターネット回線使用のための費用
(4) インターネット上に掲載されている有料記事購入のための費用

これらの費用に係る支出は、勤務必要経費として特定支出に該当しますか?

(回答)
勤務必要経費は、
①職務に関連する図書
②勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための支出
③会社の得意先や仕入先などの職務上関係のある方に対する接待等のための支出
のうち、その支出がその方の職務の遂行に直接必要なものとして会社により証明されたものとされています。

ご質問の各費用のうち、「(4)インターネット上に掲載されている有料記事」については、一般的に不特定多数の者に販売することを目的として発行されるものですので、勤務必要経費(図書費)に該当します。

したがって、その支出がその方の職務の遂行上直接必要なものとして会社により証明されたものは特定支出になります。

しかしながら、その他の費用は上記①〜③の勤務必要経費のいずれの支出にも該当 しませんので特定支出とはなりません。

確定申告後に行う特定支出控除


給与所得控除を適用して確定申告書を提出した後、特定支出控除を選択した方が有利になることが判明しました。
この場合、特定支出控除への選択替えはできますか?

(回答)
当初給与所得控除により給与所得の金額を計算して確定申告した後、給与所得控除額の1/2相当額を超える特定支出の支出額があることが判明した場合には、更正の請求により特定支出控除を適用することで、所得税の減額を求めることができます。

知らないと損をする特定支出控除とは?:まとめ

サラリーマンに所得控除が認められる経費は、①通勤費、②職務上の旅費、③転居費、④研修費、⑤資格取得費、⑥帰宅旅費、⑦勤務必要経費の7種類です。まだまだこの制度を利用する人は少ないのですが、適用範囲の拡大によって申請可能な人は従来よりも多数いるはずです。

2020年分の所得税の確定申告は、2021年2月16日(火)から受付がスタートしますが、まだ時間は十分にありますので、昨年1年間に自分が仕事のために支出した費用について調べて見てはいかがでしょうか。

いずれの経費も「勤務している会社の証明」が必要となりますので、担当部署への事前相談を忘れないようにしましょう。

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