コンビニ24時間強制は「独禁法違反」はどうして?

コンビニ24時間強制

我が国のコンビニエンスストアは、人口が年々減少しているのに反し店舗数は逆に増加を続けています。その結果、新規出店により業界全体の売上規模は拡大しましたが、既存店の売り上げは伸び悩み倒産や休業は2000年以降の10年間で約3.5倍にもなっています。

厳しい環境で生き抜くために、24時間営業のコンビニエンスストアのオーナーが行った営業時間の短縮は業界内でも注目されましたが、公正取引委員会が行ったコンビニエンスストア8社を対象とした調査報告書の中で、本部が営業時間短縮の協議を一方的に拒絶した場合には、独占禁止法が禁止している「優越的地位の濫用に該当し得る」との指摘がありました。

24時間営業を売りに事業拡大をしてきたコンビニエンスストアが、24時間営業を加盟店に求めることがなぜ独占禁止法違反となるのか、その理由を詳しく説明します。

フランチャイズ・システムとは

フランチャイズ・システムとは、本部が加盟店に対し商標や商号等の使用許諾、経営ノウハウなどの提供・指導、店舗運営のサポートなどを行い、これらの対価として加盟店が本部に金銭を支払うビジネスモデルのことです。

本部にとっては自己の資本や人材を投入せずに多店舗化が可能となり、加盟店にとっては知名度の高いブランドと確立した店舗運営のノウハウやサポートが利用できることでスムーズに事業を開始できるメリットがあります。

フランチャイズ・システムでは「フランチャイズ契約」によって本部と加盟店の間の役割分担や義務などが定められており、重要なのは次の4項目になります。

  1. 加盟店に対する、本部の「商標、商号等」の使用許諾に関する事項
  2. 顧客に対し統一イメージを確保し営業を行うための加盟店の統制、指導等に関する事項
  3. 加盟店の本部に対する対価の支払に関する事項
  4. フランチャイズ契約の終了に関する事項

独占禁止法とは

独占禁止法は「公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすること」を目的として定められた法律です。

フランチャイズ・システムでは、本部と加盟店が契約に基づき本・支店のような関係を構築していますが、法律的には加盟店は本部から独立した事業者であり両者の取引関係については独占禁止法が適用されます。

24時間営業の強制に関しては独占禁止法で禁止している「優越的地位の濫用」が焦点となりますが、適用されるには本部が優越的地位にあるかどうかが第一のポイントとなります。

優越的地位の判断

フランチャイズ・システムにおいて本部が加盟店に対し取引上優越的な地位にある場合とは、公正取引委員会が作成したガイドライン「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」の中で次のように定義しています。

加盟店にとって本部との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、本部の要請が自己にとって著しく不利益なものであっても、これを受け入れざるを得ないような場合。

本部が優越的地位にあるかどうかの判断は、次の4項目を中心に総合的に判断されます。

1.加盟店の本部に対する取引依存度

加盟店の本部に対する取引依存度とは、本部による経営指導等への依存度、商品及び原材料等の本部又は本部推奨先からの仕入割合等で判断されます。

<コンビニエンスストアの場合>
加盟者は集客に必要な商標を本部から借りている上、小売業を営むために必要な機能の大半を本部に依存しているほか、大多数のオーナーは店舗を本部に準備してもらっている状況が認められることから、本部との取引が無くなればコンビニエンスストア事業を継続することができないオーナーも多いと考えられます。(注1)

(注1) 公正取引委員会が作成した「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」(2020年9月)より抜粋。

2.本部の市場における地位

本部の市場における地位とは、本部の市場における売上シェア、ブランド力、顧客好感度などで判断されます。

3.加盟店にとっての取引先変更の可能性

加盟店の取引先の変更可能性とは、初期投資の金額、中途解約権の有無、中途解約した場合の違約金、契約期間等などによって加盟店が容易に取引先を変更できるかどうかで判断されます。

<コンビニエンスストアの場合>
コンビニエンスストア業界では他の業態に比べて契約期間が長い傾向にあるほか、オーナーの大半は資金力の無い個人か中小企業であり、現在の経営状況等を考慮すると様々な要求をされるなどして本部との取引に不満を感じても、解約金や別のチェーンに対する再度の加盟金を負担してまで取引先を変更する余裕がない場合も多いと考えられます。

4.その他本部と取引することの必要性を示す具体的事実

本部と取引することの必要性を示す具体的事実とは、取引額の大きさ、本部の成長可能性、ブランド力、取引することによる加盟店の信用の確保、本部と加盟店の事業規模の相違等で判断されます。

上記で紹介した公正取引委員会の報告書によれば、本部が加盟者に対して優越的な地位にあると認められる場合は多いのではないかと考えられると結論づけています。

優越的地位の濫用について

次に24時間営業の強制が、優越的地位の濫用のどの条項に該当するのか見てゆきましょう。

独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)

自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。

ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること

公正取引委員会が作成したガイドラインの中で、フランチャイズにおける優越的地位の濫用の具体例は次のように示されています。

取引先の制限

本部が加盟店に対して、本部又は本部の指定する事業者とのみ取引させ、良質廉価で商品又は役務を提供する他の事業者と取引させないようにすること。

仕入数量の強制

本部が加盟店に対して、返品が認められないにもかかわらず、必要以上の商品又は使用する原材料の仕入数量を指示し、仕入れを余儀なくさせること。

見切り販売の制限

廃棄ロス原価を含む売上総利益に対しロイヤリティを算定する場合、本部が加盟店に対して、正当な理由なく品質の低下が早い商品等の見切り販売を制限し、廃棄を余儀なくさせること。

フランチャイズ契約締結後の契約内容の変更

当初の契約にはない新規事業の導入で、加盟店の費用負担があるのにもかかわらず、本部が加盟店に対して、新規事業の導入を拒否すれば不利益な取扱いをする等を示唆し、新規事業の導入を余儀なくさせること。

契約終了後の競業禁止

本部が加盟店に対して、特定地域で成立している本部の商権の維持やノウハウの保護等に必要な範囲を超えるような地域、期間又は内容の競業禁止義務を課すこと。

上記の中には、営業時間の強制に関する事例は含まれていませんので、24時間営業の強制がなぜ優越的地位の濫用に当たるのかに絞り、次項でその理由をまとめました。

24時間強制はなぜ優越的地位の濫用に当たるのか

公正取引委員会の調査では2020年1月時点で、時短営業を容認している本部に24時間営業をやめたい旨を伝えたオーナーの8.7%が「本部が交渉に応じない、あるいは交渉自体を拒絶している」と回答していますが、調査対象となった8チェーンではいずれも本部と加盟店が合意すれば時間短縮が認められています。

一般に、フランチャイズ契約で定める「営業時間」を含む各種の条項は、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度にとどまるものであれば、直ちに独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、合意があれば時短営業への移行が認められてるにもかかわらず、本部がその優越的地位を利用して協議を拒絶し、加盟店に不当に不利益を与える場合には、独占禁止法第2条第9項第5号(ロ)に定める「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。」(優越的地位の濫用)に該当し得ると考えられます。

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