任天堂vsコロプラ特許侵害訴訟の経緯を分かりやすく解説

任天堂vsコロプラ特許侵害訴訟の経緯を分かりやすく解説

現代社会では、様々な技術が日々進化しています。いまでは「10年ひと昔」という言葉はもはや死語なのかもしれません。

技術革新のサイクルが早くなれば、自分では新しいアイデアと思っていたものが、すでに他社(者)によって開発されていたものであったということも珍しくなくなります。そもそも、技術それ自体が精緻化されていけば、新しい技術と既存の技術との垣根も曖昧になっていくため、権利侵害の有無をめぐるトラブルは発生しやすくなるといえます。

大ヒットゲームである白猫プロジェクトが舞台となったことで話題になった任天堂とコロプラ社との訴訟もそのような背景を抱える事件です。

任天堂VSコロプラ(白猫プロジェクト)訴訟の経緯

任天堂 VS コロプラ訴訟は、ゲームメーカー最大手の任天堂が、株式会社コロプラを相手取り、特許権の侵害を原因に44億円の損害賠償の支払いを求めて提訴されたものです。

請求された賠償額が桁違いに大きいことだけでなく、争いとなった舞台が大ヒットゲーム「白猫プロジェクト」であったことからも大きな話題となりました。

訴訟の争点

本件訴訟の争点は、白猫プロジェクトで用いられているキャラクター操作の技術(画面内に現れるバーチャルパッドをタッチすることでキャラクターを操るプログラム(ぷにコン操作システム))が、任天堂が保有しているプログラム特許を侵害しているという点が最も大きな争点となっています。

ぷにコン操作システム については下記の動画をご確認ください

訴え提起前の準備における任天堂の用意周到さ

本件訴訟は、2017年12月に任天堂が訴えを提起したことにはじまり、現在も審理は係属しています。今年(2019年)9月には、第9回口頭弁論期日が開催されることになっています。

本件訴訟については、実は、訴訟中の攻防よりも、本件訴訟の提起前である2016年6月に、任天堂社が保有するプログラム特許の訂正を申請していることに注目する必要があります。

この訂正の申請は、「任天堂が保有する特許権の範囲をより明確にする」ことに目的があります。わかりやすくいえば、ぷにコン操作システムをターゲットにしやすくするために、特許権の範囲を事後に変更したということです。

この特許の訂正は、特許訴訟における攻防テクニックと大きく関係しています。

特許権の侵害を主張する際に最も注意すべきは、「特許無効化の抗弁」とよばれる相手方からの反論です。

特許無効化の抗弁とは、簡単にいえば、原告が主張している特許権は、「すでに類似の技術がたくさんある(新規性の欠如)」、「誰でも簡単に考え出すことができるものである(進捗性の欠如)」などの事情があるから無効であるという反論のことをいいます。

特許のことに詳しくない人がイメージしやすいように例えるのであれば、「鈴木一郎」という名前は、どこにでもありうる一般的な名前なのですから、「すずきいちろう」、「スズキイチロウ」といった類似の名称を用いても権利の侵害にはならないのですが、元メジャーリーガーの鈴木一郎(イチロー)といえば、他に変わりのない存在となるので、問題の商品(この場合には名称)が類似しているということが問題であると主張しやすくなるわけです。

さらに、特許権それ自体の範囲を狭められることで、新規性、進捗性が曖昧である部分を先に打ち消す(コロプロが特許の無効化を主張しづらくする)ことも可能となります。

本件訴訟の経緯と今後の見通し

実際にも、本件訴訟においてコロプラ側は、任天堂の特許が無効であると主張する様々な資料を提出していますが、いずれも裁判所に採用されるには至っていません。無効化抗弁に関する攻防に関しては、任天堂の圧勝といった様相であることから、仮に判決までもつれるのであれば、任天堂が勝つであろうと予測している人が圧倒的多数のようです。

ただし、判決となれば、コロプラ側には現状の企業体力を超える賠償額の負担がのしかかる可能性もあるので、どこかで和解で決着させるのではと考えるのが、法律家の観点としては最も妥当なところです。

ところで、任天堂は、コロプラ社以外にも、いわゆる「マリカー訴訟」がよく知られているように、知的財産権に関する訴訟を数多く行っています。

たとえば、Legal Searchでキーワードに「任天堂」といれて検索してみれば、過去にも、多くのライバル企業を相手に訴訟を起こしていることがわかります。

今回の訴訟は、まさにそれらの経験の集大成ともいえるでしょう。最近では、任天堂法務部を世界最強の法務部のひとつと評価する人も少なくありません。

同様の訴訟を起こされないために注意すべき3つのポイント

今回の訴訟は、コロプラ社側にとってはかなりの大打撃です。損害賠償だけでなく、訴えられたことによる会社のイメージダウンを原因としたユーザー離れも懸念されます。

このような事態に陥らないためには、どのような点に注意しておくべきなのでしょうか。

自己の権利を正しく把握し速やかに保全する

現代のビジネスにおいては、「法への意識」を高めることが特に重要です。

法への意識というのは、法令遵守(コンプライアンス)・内部統制(ガバナンス)という側面だけではなく、経済活動の中で発生する自他の権利義務への目配りも忘れてはならないということです。

特に、技術革新のサイクルが早い業種では、自らが保有する権利を正しく把握し、必要な保全措置を速やかに講じることが大切です。

法について詳しくない人にとっては、「権利は当然に守られるもの」と考えてしまいがちですが、実際には必要な手続きをとらなければ守ってもらえない権利もたくさんあります。

特許権などの知的財産権や不動産の所有権はその典型です。

他者(社)が保有する権利状況を正しく把握する

私たちの社会では、日々数え切れない数の新しい権利が発生しています。

たとえば、特許庁が公表している特許出願統計速報(最新版(令和元年8月公表))によると、今年の6月だけでも21,747件の特許が出願されています。そのすべてが認められるわけではないとしてもかなりの数です。

つまり、新しい技術(商品)を開発するという過程では、「知らないうちに他社(者)の権利を侵害している」というリスクを常に抱えることになるのです。

その意味では、特に何かしらの知的財産権にかかわる事業を行っている企業の場合には、事業規模の大小を問わず、自社の権利保全だけでなく、他社の権利状況にも細心の注意を払っておく必要があります。

しかしながら、新興の会社・中小企業では、「新しい商品を開発する」ということばかりに目が向きがちです。

企業体力的に「他社の権利」に目配りすることに十分なリソースを割けないという事情があることも多いかもしれませんが、「商品がヒットした結果会社が倒産した」、「商品はヒットしたが利益の全部が賠償金で消えてしまった」というのでは意味がありません。

商品がヒットしたからこそ、特許権の侵害を問題となる(狙い撃ちされる)ということも十分に考えられるからです。

現状分析に基づいて最適な選択肢を模索できる体制を整える

コロプラ社は、2008年に法人化された新興のゲーム会社ですが、知的財産権に無関心だったというわけではありません。

実際にも、本件訴訟で問題となっている「ぷにコンシステム」に関するプログラムについては2015年に特許の出願をしていますし、その他にも多数のプログラム特許を保有しています。

上でも書いたように、技術は精緻化するほど、他の既存技術との重複は不可避となります。その意味では、個別の技術・プログラム(特許出願)だけを意識していたのでは足らず、既存のすべての技術・プログラムの相関をきちんと鳥瞰した上で、正しい対応戦略(自社保有特許の優位性の客観的評価)を立てることが、企業を守る、商品を守るという意味では重要といえます。

本件訴訟は、権利を戦略的に用いることのできるノウハウに大きな差があり、その隙を任天堂に上手に突かれたという印象を強く持ちます。

とはいえ、新興のゲーム会社が、ゲーム業界の大巨人である任天堂と同等のノウハウを自社の努力のみで蓄積することも一朝一夕でできるものではありません。 その意味では

  • 常に最新の法情報を取得できるよう外部のデータベースを活用する
  • 情報を正しく分析できる外部の専門家(弁理士、知財に詳しい弁護士など)を活用する

ことのできる体制を整えていくことが現実的な対処方法といえます。

まとめ

本件のケースでは、コロプラ社側には、「任天堂の特許権を侵害している」という認識はなかった可能性もあります。

任天堂側にも、本件訴訟には損害賠償とは違った狙いがあるのかもしれません。

実際にも、2018年には、本件係争中であるにもかかわらず、Nintendo Switchに白猫プロジェクトの新シリーズをリリースすることで両者は同意しています。

白猫プロジェクトが大人気のゲームであることを考えれば「これはこれ、それはそれ」という判断なのかもしれませんが、Swich参入などの契約交渉を有利に進めるために任天堂が本件訴訟を提起したと考えることも、必ずしも邪推とはいえないでしょう。

しかし、コロプラ社にとっては、仮に賠償金の面で任天堂から大きな譲歩を得られたとしても、今後の経営戦略における優位性を失うことになれば、大きな損失といえます。

ビジネスの世界では「法を正しくかつ上手に用いる」ことがとても重要です。

本件訴訟は、まさに任天堂が自社に有利な状況を作るために法を戦略的に用いたひとつのケースとして位置づけることもできるのではないでしょうか。

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