日産自動車株式会社 車両製造工場における不適切な完成検査の実施における第三者委員会報告書の概要
- 2019/9/18
- 第三者委員会
この記事では、日産自動車の車両製造工場における不適切な完成検査の実施問題(無資格検査問題)を事例に、第三者委員会の活動内容を説明します。
問題の背景
本件は、日産自動車の各製造工場にて、本来その業務を行う資格を持たない作業員が、自動車の完成検査を行っていた問題です。一歩間違えれば私たちの命を脅かしかねない問題であったために、テレビやネットのニュースで大きく取り上げられ話題となりました。
本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント
本件の第三者委員会の役割と委員選定
日産問題を調査した第三者委員会は、国交省の報告徴求命令を受けて、事実の確認や再発防止策を検討する目的で設立されました。
日産自動車の問題を調査した第三者委員会は、同社との利害関係がない西村あさひ法律事務所の弁護士により構成されました。なお委員は合計で12名と、比較的大がかりな規模で調査が進められました。
- 平尾 覚 (弁護士 西村あさひ法律事務所)
- 山田 徹 (同)
- 仁平 隆文 (同)
- 岡本 靖 (同)
- 勝部 純 (同)
- 上島 正道 (同)
- 荒井 喜美 (同)
- 沼田 知之 (同)
- 美崎 貴子 (同)
- 大野 憲太郎 (同)
- 冨谷 治亮 (同)
- 高林 勇斗 (同)
第三者委員会の活動スケジュール
では次に、本件において第三者委員会がどのように活動したかをご説明します。
事の発端は2017年9月18日、日産自動車の工場(日車湘南)を国土交通省が立入検査したことにさかのぼります。この立入検査により、本来の完成検査員ではない者が完成時の検査を行なっていること、またその者が完成検査員から借りた印鑑を用いて検査票に押印していた事実が発覚しました。
同月26日、28日、29日には他の工場に対しても立入検査が行われ、 日車湘南と同様の事態が生じていることが判明しました。相次ぐ不正を踏まえ国交省は日産に対して報告徴求命令を発出し、実態を調査した上で再発防止策を検討し、1ヶ月をめどに報告することを求めました。
報告徴求命令を受けて日産は、第三者委員会を発足して事実調査を始めました。この調査の結果を踏まえ、再発防止に努めるのが一般的な流れですが、本件はそう簡単には終息しませんでした。というのも、第三者委員会の事実調査の過程で、立入検査が行われた19日以降も、日車湘南において通常の作業員が完成検査を実施していたことが判明したのです。この事態を受けて国交省は、 10月13日に再度報告徴求命令を日産に出しました。
驚くべき点は、その後の第三者委員会の調査により、他の工場においても同様の問題(引き続き無資格検査が行われていたこと)が発覚したことです。この事態を受けて日産自動車は同月19日に3度目の報告徴求命令を受けることになりました。
第三者委員会の調査はその後も続き、2017年11月17日に最終報告書が提出されます。調査期間はおよそ2ヶ月前後と比較的短い調査でした。 下記にて、日産自動車の問題発覚から第三者委員会の最終報告書が提出されるまでの経緯をまとめました。
- 2017年9月18日、26日、28日、29日 国土交通省による車両工場への立入検査
- 2017年9月29日 日産に対して報告徴求命令が出される
- 同日 第三者委員会が本件の調査を開始
- 2017年10月13日 日産が業務の改善を行わなかったため、再度報告徴求命令が出される
- 2017年10月19日 3度目の報告徴求命令が出される
- 2017年11月17日 第三者委員会が最終報告書を提出
本件の調査のポイント
日産自動車問題の調査のポイントは、ヒアリング調査を重視した点です。
完成検査に関連する業務に従事していた役職員はもちろん、本社の取締役会長や生産部門の担当役員など、多くの人物からヒアリングを行いました。多様な相手から意見を聞くことで、「なぜ完成検査員でない人物が完成検査を行うに至ったのか?」を根本から究明しようとした努力がうかがえます。
.第三者委員会によって何がわかったのか
第三者委員会の調査により判明した事項
第三者委員会の調査では、大きく分けて3つの重要事項が判明しました。
まず一つ目は、各工場で行われていた完成検査の実態です。本来は「完成検査員」の資格を持ったものが完成検査を行わなくてはいけない決まりでしたが、実際には検査の仕事に習熟していると判断された作業員が業務を担うことが常態化していました。日車湘南に至っては、習熟度の見極めもせずに、完成検査を通常の作業員に任せていたことが判明しています。
二つ目の判明事項は、完成検査員以外の作業員が検査を行うようになった時期です。具体的な時期は工場によりバラバラであるものの、早いところでは1990年前後から無資格検査を行うようになったことがヒアリングで判明しています。
そして三つ目の判明事項は、本件問題に対して日産自動車の役員が抱いていた認識です。第三者委員会は役員の認識を確かめるために、本社の役員12名にヒアリングを行いました。
その結果、どの役員も無資格検査が行われていたことを知らなかったとのことです。保管されていた資料などからも証拠は見つかっていないため、調査の限りでは役員が無資格検査を知っていたとは認められないとのことです。
第三者委員会の調査とその影響で生じた費用
第三者委員会の調査結果は、様々な面に悪影響を及ぼしました。最も大きな影響を与えたのは業績です。完成検査問題で社会からの信頼を失ったことにより、同社は2017年度の決算で1,674億円(22.6%)の減益を記録しました。原材料価格の高騰といった要因も絡んでいるものの、大部分は本件問題が影響していると考えられます。
また日産自動車の本件問題は、同社の株価にも悪影響をもたらしました。最初に問題が発覚する直前(2017年9月15日)の終値は1,129円でしたが、問題が相次いで発覚した結果、同年10月2日には終値が1,084円まで下落しました。人の命に大きく関わる問題であるために、株価の下落につながったと考えられます。
その後ゴーン氏の問題等も発覚したことで、現在では1,000円を割るほど株価が下落しています。無資格検査の問題も含め、同社は少しずつ地道に信頼回復に努める必要があるでしょう。
格付けの評価
第三者委員会報告書格付け委員会は、本件第三者委員会の調査報告書を原因分析の深さなどの基準で、A(良い)〜F(悪い)までの5段階にて格付け評価を行いました。
なお今回は8名の委員が格付けを行いましたが、D評価が6名、残りの2名はF評価と非常に低い評価結果となりました。総じて低評価となった理由としては、日産自動車と第三者委員会の委員(弁護士)の利害関係が不明瞭である点や、内部統制の不備や経営者の認識といった根本的な部分まで踏み込んで調査していない点、問題の再発防止に対する提言が不十分かつ表面的である点などが挙げられています。
とくにヒアリング結果については、「何十ページにも内容が及ぶものの、その中身はほとんど同じである」と非常に厳しい指摘がなされています。
多数の弁護士を使って大々的に調査した点は評価されているものの、その割に調査結果のクオリティが低いと格付け委員会は厳しく指摘しています。
根本的な原因
第三者委員会は、本件問題が生じた根本的な原因を6つあげています。今回はその中でも、特に重要な原因を2つお伝えします。
一つ目は、上層部が完成検査の制度を軽視していた点です。第三者委員会の調査によると、上層部は各工場で必要となる完成検査員の人数を正確に把握していなかったそうです。委員会は、上層部の意識の低さが作業員の規範意識の低下に繋がったのではないかと指摘しています。
二つ目は、基準書に不明確さや不備があったことです。マニュアル内に完成検査員以外が検査を行ってはいけない旨が明記されていなかったことや、具体的な業務フローが盛り込まれていなかったことが、今回の問題につながったと考えられています。
まとめ
今回は、各種メディアで大きく取り上げられた日産自動車の完成検査問題を取り上げました。
本件の第三者委員会は、30年近くも不適切な完成検査が行われていたことについて、根本的な要因を解明することや、再発防止に資する効果的な提言を投げかける役割を期待されていました。しかしヒアリングを重視しすぎるあまり、具体的な改善策の提言や根本的な原因究明まで踏み込めませんでした。
第三者委員会には、単なる事実確認のみならず、原因の究明や効果的な改善策の提言も求められているのです。
【参考文献】
第三者委員会報告書格付け委員会 第15回格付け結果を公表しました
http://www.rating-tpcr.net/result/#15
調査報告書 (車両製造工場における不適切な完成検査の実施について)
https://www.nissan-global.com/PDF/20171117_report01.pdf
日産自動車(株) – Yahoo!ファイナンス
https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=7201.T
平成30年度3月期 決算短信連結日本基準
https://www.nissan-global.com/JP/DOCUMENT/PDF/FINANCIAL/ABSTRACT/2017/2017results_financialresult_833_j.pdf