パテント・トロール5つの対策

パテント・トロール5つの対策

はじめに

米国に進出している日本企業にとってパテント・トロール対策は大きな課題となっていますが、

国内においては米国と比べるとそれほど活発な活動は見られず、グローバルに事業を行っている大手企業以外は、パテント・トロールをあまり問題視しない傾向があります。

しかし、今日、通信・ソフトウエア・AI・製品等が結合した『IoT技術』の拡大によって、今まで自社とは関係がないと思っていた様々な分野・業種の企業が、パテント・トロールのリスクに晒される可能性が出て来ました。

2016年の特許庁産業財産権制度問題調査報告書のアンケート調査[*]によると、IoT企業が今後3~5年でパテント・トロールが活発になると考える国は次のようになります。

特許庁産業財産権制度問題調査報告書のアンケート調査
IoT等による産業構造の変化に伴い企業等 が直面する知財制度上の新たな課題と NPEの動向に関する 調査研究報告書 P102を編集した図

*「IoT等による産業構造の変化に伴い企業等が直面する知財制度上の新たな課題と、NPEの動向に関する調査報告書」   IoT関連企業156者に対して実施、56者が回答

日本は米国についで第4位となっており、IoT企業は、今後日本においてもパテント・トロールの活動が拡大することを懸念しているようです。

パテント・トロールとは

ここで、パテント・トロールについて簡単に整理して見ましょう。

定義について明確なものはありませんが、一般に次の様に理解されています。

「ある特許について自分ではビジネスに使用せず、その特許を使用している第三者に対し、差し止め請求訴訟などを提起し、高額な賠償金や和解金を得ようとする個人及び法人」

パテント・トロールは1980年代の米国でプロパテント政策(知財強化政策)を導入した結果顕在化しはじめ、1990年代以降から電機・通信業界を標的に活発化しました。

高額な訴訟費用の負担や差止めによって経済的な損失を受けるよりも、和解金等を支払い早期解決させる方が得策と判断する企業があり、パテント・トロールがビジネス化したと考えられています。

その後2011年の米国特許法改正や各企業の対策によってパテント・トロールは抑制傾向にありますが、今後は米国以外の地域に拡大し大企業だけでなく中小企業もターゲットになる可能性があります。

IoT( Internet of Things)とは

通信機能とセンサーを備えた「モノ」をインターネットと繋ぐことによって、離れたところからモニターしたり、コントロールしたり、AIと組み合わせ問題解決したりする仕組みのことで、米国のInternational Data Corporationでは、世界のIoT市場の規模は2020年には1.7兆ドルにもなると予想してます。

この場合の「モノ」とはネットワークとの接続機能を持つ高機能なスマート製品のことで、世界中で最も普及しているスマートフォン以外にも、スマート家電、スマートホーム、スマート工場、スマートモービル、スマート農園など、今までインターネットとはあまり縁のなかった様々な分野・製品も対象となって来ます。 注目しなければならないのは、全ての「モノ」が今までパテント・トロールのメインターゲットとされて来た「通信技術」と組み合わされることです。

パテント・トロールに狙われやすい企業及び業種・業界

先の特許庁産業財産権制度問題調査報告書では、パテント・トロールの標的について次の様にまとめています。

パテント・トロールの狙われやすい企業

  1. 最終製品製造者
  2. ソフトウエア関連技術の利用者
  3. 通信技術の利用者

パテント・トロールに狙われやすい業種・業界

  1. 自動車
  2. 製薬(※今回のパテント・トロールの手法とは異なる)
  3. IT・IoT関連企業

上記の分類で製薬以外はみなIoT関連に含まれるのが分かります。

パテント・トロール5つの対策

現在、国内ではあまり問題視されていないパテント・トロールですが、特にIoT関連事業を行う企業にとっては対応策を検討する時期に入っていると考えられます。

ここでは、パテント・トロールに対する基本的な4つの予防策・対応策をご紹介します。

パテント・ウォッチング

まず、最初にやらなければならないことは、自社の製品等を守り、他社の参入を防ぐための特許出願の特許性を確認するための「先行技術調査」と、自社の製品等が他社の特許の権利範囲に含まれていないかを確認するための「特許侵害予防調査」(パテントクリアランス調査)です。

パテント・プール

複数の企業がメンバーとなり相互に無償ライセンスを行うもので、様々な技術が関わる事業領域に属する企業にとってはパテント・トロール対策だけではなく、複数のライセンス交渉が不要となるので合理的な仕組みといえます。

特に異なる技術領域が複合的に関わるIoT分野では、パテント・プールは有効な手段と考えられます。

特許保険

弁護士費用、その他の訴訟費用が保証される特許保険も有効なパテント・トロール対策の一つです。米国をはじめ知財に関する訴訟の多い国では、さまざまな特許保険がありますので事業を行う国の保険利用は特に有効です。

また、我が国の中小企業を対象にした海外向けの知財保険「知的財産権訴訟費用保険」なども一考です。これは、特許庁の補助金事業でもあり保険料の1/2(2年目以降は1/3)が国から補助されるものです。

確認訴訟

パテント・トロールから提訴されてしまった場合に有効なのは確認訴訟(逆提訴)です。パテント・トロールが保有する知財は自ら開発したものではないので知財に関する知識があまりありません。

そのため、反論が難しく、時間もお金もかかり、最悪は敗訴のリスクもあることなどの理由から、低額の和解金に同意することがあります。

再審査

パテント・トロールにとって再審査は確認訴訟と同様に、特許が無効になるリスクがあります。強力な公知資料の存在が確認できれば、安価な手続費用の再審査も有効な手段と考えられます。

上記の他に、米国では ①NPE(特許不実施主体)への特許売却制限、②特許防衛組織の活用などの対策が行われています。

まとめ

通信・ソフトウエア・AI・製品等の異なる分野が関わる『IoT』は多様な要素技術が関わってくるため、パテント・トロール対策がより複雑になることが予想されます。

将来のリスク回避のためには、自社の事業が『IoT技術』の浸透によってどのように影響されるかを予測し、可能な対策を検討しておくことが重要と思われます。

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