行政手続のデジタル化で何が変わる?

行政手続のデジタル化

新型コロナウイルス感染拡大に伴う非常事態宣言で外出の抑制が求められる中、自宅や企業内でオンラインにより手続きが完了できる「行政手続きのデジタル化」に対し以前にも増して関心が集まっています。

6月1日、政府の規制改革推進会議が首相に提出した答申では、2025年までに対面での手続きが必要な432種類を除く98%の行政手続きをオンラインに移行することを目標としており、実施計画などについては早期の閣議決定が望まれるところです。

そこで、今回は行政手続きのデジタル化・オンライン化の進捗状況及び今後の見通し、そして私たちの生活がどのように変化するのか詳しく解説します。

行政手続のデジタル化/オンライン化の推移

行政手続のデジタル化・オンライン化は、2001年に内閣に設置された通称「IT戦略本部」が作成した「e-Japan戦略」で2003年までに実質的に全ての行政手続をオンライン化すると定めたことを受け、2002年に「行政手続オンライン化法」等を制定し基盤整備が進められました

その後、IT戦略本部が2011年に策定した「新たなオンライン利用に関する計画」に基づき業務プロセス改革に取り組み、2014年には各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議で決定した「オンライン手続の利便性向上に向けた改善方針」により行政手続の改善が推進されます。

2019年には、2002年に制定された「行政手続オンライン化法」を改正し2019年に通称「デジタル手続法」が施行。同法に基づき策定された「デジタル・ガバメント実行計画」により、行政のあらゆるサービスが最初から最後までデジタルで完結される100%デジタル化の実現に向けた取り組みが進められています

行政手続デジタル化/オンライン化の現状

IT戦略室/総務省が、2019年4月1日〜2020年3月31日に実施された調査をまとめた「行政手続等の棚卸結果等の概要」によると行政手続のオンライン化の現状は以下のようになっています。

現状の概略

  1. 全体のスケール
    手続の種類:約62,000
    手続の件数:年間25億件以上
    ※4.1%の種類で全件数の99%を占めている
  2. オンライン手続への移行状況
    全種類の14%
    全件数の79%
  3. 添付書類の実態
    手続の際に必要な添付書類は「登記事項証明書」「住民票」「戸籍」が多い

オンライン化の進捗と利用状況

オンライン化への移行状況は件数で見ると79%が既に利用可能となっていますが、実際に利用されている件数は61%と下回っています。具体的な手続類型別に見ると「申請等」のオンライン化率【■実施済(全ての機関)+■実施済(一部の機関)】が88%なのに対し利用率は46%と大きく下回っています。

オンライン化率

オンライン化への移行状況
(件数ベース、数値は一万件単位)

オンライン利用率

オンライン利用率
(件数ベース、数値は一万件単位)

行政手続の中でも国民や民間事業者等が地方公共団体等を相手として行う「申請等」はオンライン化率が84%なのに対し利用率は6%と著しく低い割合となっています

※本項で使用した画像の出典:IT戦略室/総務省「行政手続等の棚卸結果等の概要」

行政手続のデジタル化・オンライン化で変わること

デジタル手続法には「デジタル3原則」という基本原則があります。

  1.  デジタルファースト:個々の手続き・サービスが一貫してデジタルで完結
  2. ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
  3. コネクテッド・ワンストップ:複数の手続き・サービスをワンストップで実現

この方針に基づく政策で利用者にとって大きなメリットとなる
1)添付書類の省略
2)利便性の向上
3)ワンストップサービス
の3点について具体的に説明します。

手続きに必要な添付書類の省略

行政手続のデジタル化推進を妨げている要因の一つとして、申請等を行う際に提出を求められる「添付書類」があります。これを、国や地方の行政機関が保有するデータを連携させるなどして省略する取り組みが推進されています。

特に件数の多い添付書類には次のようなものがあります。

  • 登記事項証明書(商業法人):年間1,400万件(※2019年実績、以下同様)
  • 戸籍謄本等:年間4,200万件
  • 住民票の写し等:年間6,000万件
  • 印鑑証明書:年間1,300万件(現在、マイナンバーカードの利用で省略が可能)

手続きにおける利便性の向上

行政手続オンライン化の進捗率に対し利用率が追いついていない理由として、使いづらさがあげられますが、これに対しても様々な利便性向上の取り組みがされています。

  1. スマートフォン等を利用したオンライン手続
    スマートフォンやタブレットによる手続のために専用画面の整備を行う。
  2. 受付時間の拡充
    オンライン手続やヘルプデスク等の受付時間を拡充する。
  3. 本人確認手法の見直し
    「マイナンバーカード」や法人・個人事業主向け認証システム「GビズID」の活用等による本人確認手法の多様化を図る。
  4. 代理申請の容易化
    「本人の電子証明書」及び「代理人の電子証明書」を重ねて提出させることを不要とする。
  5. オンライン手続時の初期設定の簡易化
    専用ソフトのインストール等の不要化や、必要な場合でも一括インストールを可能にするなど、初期設定の簡易化を図る。
  6. 入力の簡易化等
    申請書自動作成機能の導入や入力の簡易化等により分かりやすい申請にする。
  7. 申請画面等のマルチブラウザ対応
    多言語化により外国人利用者の利便性向上を図る。
  8. データ容量の制限緩和
    データ容量制限により、オンライン申請を複数回行う必要が生じないようにする。
  9. データ形式の柔軟化
    利用者の利便性やニーズを踏まえ、標準的データ形式に対応できるようにする。

ワンストップサービスの推進

行政手続の中でも、複数の省庁や地方公共団体へ個別に行なわなければならないものに対しては、行政手続のデジタル化に伴いワンストップ化が推進されています。

  1. 子育てワンストップサービス
    2017年度にマイナポータルを活用し地方公共団体にオンライン申請ができるサービスを開始。さらに、マイナポータルで、保育所入所申請に必要な「就労証明書」のデジタル化対応や「障害児施策」へのワンストップサービスの拡充等を行い、保育や乳幼児健診その他の手続きについても検討を進める。
  2. 介護ワンストップサービス
    時間・場所を問わずWeb サイト上で「介護」や「介護予防」のために必要なサービスの検索から申請までが可能となるワンストップサービスを実現する。
  3. 引越しワンストップサービス
    2019年より引越しを行う者が、民間事業者が提供する引越しポータルサイトを通じ「電気」「ガス」「水道」等の手続等を実施できるサービスの実証実験を実施。2020年以降は「引越しポータルサイト」で手続き申請を行うサービスの検証を行い手続きの拡大を図る。
  4. 死亡・相続ワンストップサービス
    「死亡・相続」に関しては、死亡届、年金手続、不動産名義変更、税務申告といったさまざまな行政手続が必要となるが、遺族の手続を削減し、相続人をオンラインで認証する他、地方公共団体に「死亡・相続」に関する総合窓口の設置などを行う。
  5. 従業員の社会保険・税手続ワンストップ化・ワンス オンリー化の推進
    企業が行う従業員の「社会保険・税手続」について、行政手続のワンストップサービスや、企業と行政機関との間でのデータ連携によりワンスオンリー化を実現する。
  6. 法人向けワンストップサービス
    世界最高水準の起業環境を実現するために「法人設立手続」のオンライン・ワンストップ化を行う。2021年2月からの「定款認証」及び「設立登記」を含めた全手続のワンストップ化、設立登記における「印鑑届出」の任意化、「GビズID」の発行等の開始に取り組む。

カギを握る「マイナンバーカード」と「Gov-Cloud」

行政手続のデジタル化・オンライン化を推進する上で重要となるのは「本人確認」をオンラインで行うことです。それも最高レベルのセキュリティに守られた本人確認ツールを使用しなければならない為、政府の「デジタルガバメント計画」の中でも「マイナンバーカード」の普及拡大が行政手続デジタル化のカギを握るとしています

(出典:総務省 「自治体の行政手続オンライン化について」2021.3.19)

ガバメントクラウド/Gov-Cloud(仮称)とは、中央省庁、地方自治体、独立行政法人などの公的機関に対し、共通的な基盤・機能を提供する複数のクラウドサービス(IaaS、PaaS、SaaS)の利用環境のことです

政府は、2022年度に 自治体の行政手続オンライン化の一部運用開始を目指していますが、実現すれば国と地方の行政サービス全体を包含する巨大なクラウドが誕生することになり、前項で紹介したさまざまな取り組みが一気に現実味を帯びてきます。

まとめ

行政手続のデジタル化・オンライン化は着々と進んでいるようですが、国や地方公共団体がバラバラに構築してきた情報システムが一つの大きなトータルシステムにまとまるのは容易なことではありません。

行政のデジタル化の本当のスタートは、カギを握る「マイナンバーシステム」の普及と「Gov-Cloud」の構築ができてから、つまり2025年以降ではないでしょうか。 そして、この改革は行政だけではなく社会経済全体のデジタル・トランスフォーメーションを強力に推進する原動力となるでしょう

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