収入証紙、今後どうなる?

収入証紙

地方自治体によって異なりますが、運転免許証更新、車庫証明、パスポート、納税証明などの申請に必要な「収入証紙」が、行政手続のオンライン化やキャッシュレス化の推進により将来的に廃止されるかも知れません。

6月7日の日本経済新聞によると、全国の都道府県・政令都市の計67自治体を調査したところ、7自治体では未発行、東京都や大阪府などの10自治体では廃止、残りの50自治体の4割が廃止を検討しているという。

経済産業省でもキャッシュレス推進室を設置し、国をあげて「キャッシュレス化」を推進しています。申請窓口で現金を取り扱う事によるリスク軽減の効果がある一方、利用者にとってはデメリットの多い「収入証紙」は今や不要の長物になってしまったのでしょうか。

そこで、今回は「収入証紙」の現状と今後の見通しについて詳しく解説します。

収入証紙の現状

地方自治法 第231条の2 第1項
普通地方公共団体は、使用料又は手数料の徴収については、条例の定めるところにより、証紙による収入の方法によることができる。

収入証紙は、地方公共団体に対する「使用料」「手数料」の支払方法の一つとして条例によって定めることが可能で、具体的な使用目的には次のようなものがあります。

  • 自動車運転免許証更新手数料
  • 自動車保管場所証明(車庫証明)申請手数料
  • 旅券(パスポート)の交付手数料
  • 県立学校入学試験料
  • 納税証明書交付手数料
  • 教育職員免許手数料
  • 調理師免許手数料
  • 飲食店営業許可申請手数料
  • 宅地建物取引主任者資格試験手数料

収入証紙の種類

2011年に高知県が44都道府県に対し行った調査データでは、1円から10万円まで金額を細かく分けた収入証紙が11〜24種類発行されていることが分かります。

証紙の種類ごとの該当道府県数
(出典:高知県監査委員「行政監査結果報告書」2011)

使用料とは

地方自治法 第225条
普通地方公共団体は、第238条の4第7項の規定による許可を受けてする行政財産の使用又は公の施設の利用につき使用料を徴収することができる。

収入証紙の対象となる「使用料」とは、庁舎、駐車場、消防施設、学校、図書館などの地方自治体が所有する財産・施設の使用料になります。

手数料とは

地方自治法 第227条
普通地方公共団体は、当該普通地方公共団体の事務で特定の者のためにするものにつき、手数料を徴収することができる。

「手数料」は主に各種証明書の発行や申請手続などの事務手数料のことで、上記で紹介したもの以外に個人や企業などを対象としてさまざまなものがあり、証紙収入の大半を占めています。

収入証紙と収入印紙

収入証紙とよく間違われるものに「収入印紙」がありますが、収入証紙は地方自治体に対する支払に使用されるのに対し、「収入印紙」は印紙税や登録免許税などを国に支払う目的で財務省が発行している証票になります。

収入証紙のメリットとデメリット

現在の収入証紙制度は、現金納付が原則であった頃の地方自治体の業務改善を目的に導入されたものです。

しかし、地方自治体にとってはメリットが多くありましたが、利用者にとってはメリットよりもデメリットの方が多い制度となっています。

地方自治体側

メリット

  1. 現金の取扱いに伴う管理責任や計算ミス・紛失・盗難・不正等のリスクがない
  2. 申請時に手数料等が納付されるため未収が発生しない
  3. 現金納付よりも手続の時間や手間が軽減でき、事務作業の効率化が図れる

デメリット

  1. 証紙に係る事務処理(消印及び確認、証紙収入報告書の作成等)が発生する
  2. 証紙販売について販売委託先等の協力が必要となる
  3. 証紙に関する印刷・管理・販売手数料の等の費用が発生する

利用者側

メリット

  1. 証紙の貼付により郵送での申請が可能となる
  2. 窓口での申請に要する時間や待ち時間が短縮できる
  3. 事前に証紙を購入しておけば現金を持ち歩く必要がない

デメリット

  1. 申請とは別の窓口で証紙を事前購入しなければならず手間がかかる
  2. 販売所は地域の中心部に集中していて、他県や遠隔地の居住者にとっては購入が困難かつ不便である
  3. 多額の支払が必要な場合は貼付枚数が大量になり面倒である
  4. 販売所が少なく販売時間の制限や休日などがあり自由に購入できない
  5. 証紙の使用をやめて換金しようとすると手続が煩雑である
  6. 他県では利用できない

行政手続オンライン化で収入証紙は消える?

進む行政手続オンライン化

2019年12月16日に施行された官民データ活用推進基本法では申請、届出、処分の通知その他の手続については「オンライン化」の原則が定められ、2020年に閣議決定されたデジタル・ガバメント実行計画では「国の行政手続の原則オンライン化」と同様に、地方公共団体での行政手続オンライン化を優先して進める必要があるとしています。

翌年1月7日に施行された「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(デジタル手続法)」では、手続オンライン化に必要な情報システムの整備に必要な施策を実施するよう努めなければならないとされ、オンライン化が進むと当然「収入証紙」を購入し申請書に張り付ける代わりにキャッシュレスでの支払となります。 ここで、カードやスマートフォンなどを専用の読み取り機にかざすだけで素早く決済できる電子マネーを導入した2つの自治体を紹介します。

茨城県日立市の事例

日立市では2019年7月1日から、申請窓口で住民票や課税証明などの「交付手数料」を電子マネーで支払うことができるようになりました。使用できるのは、交通系電子マネー( Suica、PASMOなど9種類)、楽天Edy、WAON、iD、nanaco、QUICPayなど。

神奈川県横浜市の事例

横浜市では2020年1月29日から区役所、行政サービスコーナーの戸籍・住民票・税の証明発行窓口で現金及び電子マネーによる支払が可能となりました。使用できるのは、Suica、PASMO、楽天Edy、WAON、nanacoなど。

収入証紙の未来は?

行政手続のオンライン化・キャッシュレス化が実現すると、利用者にとってのデメリットである ①収入証紙購入の手間、②地域間格差、③貼付け作業、④受付時間の制限などの問題が解決されることになります。 政府の方針では「地方公共団体が優先的にオンライン化を推進すべき手続」として次の51手続をリストアップしオンライン化を優先的に進めています。

A. 処理件数が多く、オンライン化の推進による住民等の利便性の向上や業務の効率化 効果が高いと考えられる手続

  1. 図書館の図書貸出予約等
  2. 文化・スポーツ施設等の利用予約
  3. 研修・講習・各種イベント等の申込
  4. 地方税申告手続
  5. 自動車税環境性能割の申告納付

その他、19件

B. 住民のライフイべントに際し、多数存在する手続をワンストップで行うために必要と考えられる手続

ア.子育て関係

  1. 児童手当等の受給資格及び児童手当の額についての認定請求
  2. 児童手当等の額の改定の請求及び届出
  3. 氏名変更/住所変更等の届出
  4. 受給事由消滅の届出
  5. 未支払の児童手当等の請求

その他、10件

イ.介護関係

  1. 要介護・要支援認定の申請
  2. 要介護・要支援更新認定の申請
  3. 要介護・要支援状態区分変更認定の申請
  4. 居宅(介護予防)サービス計画作成(変更)依頼の届出
  5. 介護保険負担割合証の再交付申請

その他、5件

ウ.被災者支援関係

  1. 罹災証明書の発行申請
  2. 応急仮設住宅の入居申請
  3. 応急修理の実施申請
  4. 障害物除去の実施申請
  5. 災害弔慰金の支給申請
  6. 災害障害見舞金の支給申請
  7. 災害援護資金の貸付申請
  8. 被災者生活再建支援金の支給申請

収入証紙、今後どうなる?/まとめ

収入証紙の現状、メリット・デメリット、行政オンライン化の影響などについて説明してきましたが、冒頭で触れた様に、収入証紙について、未発行・廃止・廃止検討を行っている地方自治体は全体の55%にものぼります。

現金主義の時代には地方自治体にとって有用であった「収入証紙」ですが、行政手続のオンライン化・デジタル化という大きな潮流の中では消えてゆく運命にある様です。そのためには、①国と地方のシステム一元化、②国と地方の役割の見直し、③地方自治体のシステム統一などが課題となっています。

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