東レの安全認証の不正取得に関する第三者委員会報告書の概要

日本を代表する化学製品や情報関連素材を取り扱う大手化学企業の東レですが、安全認証を不正に取得していたことが発覚しました。化学製品の安全認証は信用性に大きく影響するため、この一連の騒動は話題となりました。

安全認証の不正取得の実態はどのようなものだったのでしょうか。第三者委員会報告書から読み解いていきます。

第三者委員会の概要

経緯

2021年11月、東レが毎年行なっている社内アンケートに対する回答で、過去数十年にわたり、Underwriters Laboratories Inc.(米国の第三者安全化学機関。以下「UL」といいます。)が策定するUL認証の試験において不適切な行為が行われているという申告を受けました。そのため、東レの品質保証本部はこの問題を確認したところ、ABS樹脂並びにエンジニアリング・プラスチック(以下「エンプラ」といいます。)の一部について、実際に問題が存在するという報告がなされました。

そこで、東レは、問題の存在についてプレスリリースにより公表するとともに、第三者委員会を設置して本格的な調査を開始しました。

構成

委員長藤田 昇三(弁護士 藤田昇三法律事務所、元名古屋高等検察庁)
委員松尾 眞(弁護士 桃尾・松尾・難波法律事務所、元東レ社外監査役)
委員永井 敏雄(弁護士 卓照綜合法律事務所、東レ社外監査役、元大阪高等裁判所長官)

この他に、桃尾・松尾・難波法律事務所の弁護士7名が補助者に選任され、委員会の事務局担当者として補助にあたりました。

調査実施期間

2022年1月31日から同年4月8日まで

調査実施方法

  • 関係資料の検証
  • 関係者に対するヒヤリング
  • フォレンジック調査
  • アンケート調査
  • 現地調査

調査結果

UL認証について

UL規格とは、ULが策定する安全性に関する規格で、それ自体には法的拘束力はありません。しかし、米国で製品を販売するためには、UL認証を取得しておくことが必要になることが多いため、東レの顧客は、東レの製品がUL認証を取得していることを前提としている場合があると考えられます。

そして、今回不正が行われたのは、UL規格のうちのUL94規格であり、プラスチック材料の難燃性を示す規格です。

不適正行為

・Follow-Up Service(FUS)について

ULは、UL認定品について、定期的に抜き打ちで製造工場を訪問し、製造されている製品が性能を維持しているか確認します。手順は以下の通りです。

  • 抜き打ちで訪問したULの検査員が、一つのロット番号を指定して、そのロット番号のペレットでFUS試験用の樹脂を成形し、ULまで送付することを指示する。
  • ULは、送付された樹脂の燃焼実験を行い、難燃性を満たしているかどうか、認証を受けたときと同一のものであるかどうか確認する。
  • 不適合となった場合には、問題解消を図るか、2回目の試験を受ける。

・不正の件数

ABS樹脂、エンプラのFUSで不正がそれぞれ66回、56回確認されました。

・ABS樹脂の不正の内容

UL規格を満たすように難燃剤を足すと、コストの上昇や物性の低下という問題が生じることから、ULの審査に提出するものと実際に生産するものを分けることにしました。そのため、ULの検査員に指定されたペレットと異なるもので成形されたものをULに送付していたことになり、FUSの手順の①に違反していました。

なお、このような不適正行為は、遅くとも1992年1月から始まっていたことが確認されました。

さらに、生産本部の管理監督者や組織レベルでの関与も、一部期間について認められました。

・エンプラの不正の内容

エンプラにおいても、ABS樹脂と同様に、難燃剤を足したものをULの審査に提出していたことが発覚しました。

エンプラについても、一部期間において管理監督者や組織レベルでの関与が認められました。

東レの対応に対する評価

今回のUL認証に関する問題は1980年代後半から発生し、その後も長期間にわたり組織的に行われていた不適正行為であったため、このような行為は許容されるものだと理解する者が相当数いました。しかし、時代の流れとともにコンプライアンス意識が向上し、特に子会社の東レハイブリッドコード株式会社における品質保証検査データ書換問題以降、不適正行為解消に向けて取組みを進めていました。

もっとも、そのような取組みは不十分であり、不適正行為中止の指示も徹底されていなかったため、不適正行為が継続されることになったと、委員会は非難しました。

原因分析

委員会は、UL問題の原因を以下の通りだと認定しました。そして、これらの原因に対応する再発防止策を提言しました。

  • 樹脂関連部署におけるコンプライアンス意識の不足
  • UL認証制度に関する知識・教育体制の不足
  • 樹脂技術関連部署の閉鎖的な組織風土
  • 実質的にみて技術部門のみでUL対応が完結していたこと
  • 不適正行為の報告体制の不足

まとめ

安全認証などには詳細な基準が定められていることが多いですが、そのような綿密な基準ゆえに安全認証の信用性が担保されています。そのため、もう一度、社内で基準を満たしているかどうか、適当に処理することを黙認するような雰囲気がないかを確認し、コンプライアンス意識を高めることが大切でしょう。

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