東芝の不適切会計問題における第三者委員会報告書の概要

東芝の不適切会計問題の場合

この記事では、東芝の不適切会計問題を事例に用いて、第三者委員会の活動内容について解説します。

問題の背景

本件は、東芝の行なったインフラ関連の工事進行基準や映像事業の経費計上などにおいて不適切な会計処理が見つかった問題です。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件において第三者委員会は、会計不正の問題を徹底的に調査し、調査結果の信頼性をより高める役割を担いました。

なお本件第三者委員会は、東芝との利害関係を有しない下記の専門家によって構成されました。

  • 委員長:上田 廣一 (弁護士 元東京高等検察庁検事長)
  • 委員 :松井 秀樹(弁護士 丸の内総合法律事務所)
  • 委員 :伊藤 大義 (公認会計士 元日本公認会計士協会副会長)
  • 委員 :山田 和保(公認会計士)

第三者委員会の活動スケジュール

では次に、本件問題の発覚から第三者委員会の調査が完了するまでの経緯を見てみましょう。

本件の発端となったのは、東芝関係者による証券取引等監視委員会への内部通報です。この内部通報を受けた証券取引等監査委員会は、2015年2月12日に東芝に対して金融商品取引法第26条に基づく報告命令を行い、工事進行基準案件に関する会計の開示検査を実施しました。

この開示検査を受けて東芝は、工事進行基準に関する自己調査を行なっていましたが、同年3月下旬に一部のインフラ関連の会計処理について調査を必要とする事項が判明しました。

問題を調査する目的で東芝は、4月3日に取締役会長や社外の弁護士や公認会計士を委員とする特別調査委員会を設置し、事実関係の調査をはじめました。調査の結果何もなければ良かったのですが、なんとインフラ関連の工事において、工事原価の総額が過小に見積もられていることが発覚しました。

より詳細な調査やステークホルダーからの信頼性を得る必要性を感じた東芝は、2015年5月8日に第三者委員会の設置を決定し、本格的に本件の調査を開始しました。

第三者委員会の調査はおよそ2ヶ月におよびましたが、同年7月21日に調査結果をまとめた最終報告書が公表されました。 本件の経緯をまとめると以下のようになります。

  • 2015年2月12日 金融商品取引法第26条に基づいた報告命令を受ける
  • 2015年3月下旬 一部工事の会計処理にて調査を必要とする事項が判明
  • 2015年4月3日 特別調査委員会を設置
  • 2015年5月8日 第三者委員会の設置を決定
  • 2015年7月21日 最終報告書が公表される

本件の調査のポイント

本件調査のポイントは、工事進行基準の案件のみならず、映像事業の経費計上やパソコン事業の部品取引に関する会計処理などについても調査が行われた点です。

第三者委員会は、特別調査委員会から引き継いだ資料の精査のみならず、役職員からのヒアリングやPC内の電子データ調査なども行うことで、複数の会計不正について慎重に調査を進めたことが見て取れます。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査では、各問題における不適切会計の具体的な内容が明らかとなりました。専門的な会計の話をするとややこしくなるので、今回は要点をかいつまんで解説します。

まずインフラ事業の工事進行基準案件についてですが、こちらは原価の総額を少なく見積もることで、売上高を前倒しして計上する不正が行われていました。次に映像事業の経費問題についてですが、取引先に請求書の発行等を遅らせてもらうことで、利益を水増しする不正行為が行われていました。そして半導体事業の在庫評価に関する会計処理では、原価計算のミスにより棚卸資産(在庫の金額)が本来よりも多く計上されていたとのことです。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

今回の不正会計問題は、東芝の業績に大きな影響を与えました。具体的には、金融庁から73億円を超える課徴金の納付命令を受けたり、前年比(2014年度)と比べて営業損益が約8,971億円も減少しました。

直接的に第三者委員会の調査費用や影響額を公表しているわけではないものの、東芝の決算情報を見るだけでも本件問題の影響が大きかったことは容易にわかるでしょう。

また東芝の不正会計問題は、株価にも大きな悪影響を及ぼしました。第三者委員会の設置が決定した5月8日時点の終値は483円でしたが、その事実が明るみとなった直後(5月11日)には終値が403円まで下落しました。
その後株価は若干回復の兆しを見せましたが、第三者委員会の最終報告書が公表された翌日から株価が再度下落し、同年7月30日には終値が369円まで下落してしまいました。

以上のことから同社は、会計不正問題により社会的信用を著しく失ったと考えられます。

ただし現在(2019年10月)は終値が3,000円を超えており、少なくとも本件による社会的信用力への影響は過ぎ去ったと考えられるでしょう。

格付けの評価

東芝問題を調査した第三者委員会の調査報告書は、調査スコープや原因究明などの観点から格付けが実施されました。今回は8名の格付け委員がA(良い)〜F(悪い)までの5段階により格付け評価を実施しました。その結果は、C評価4名、D評価1名、そして残り3名がF評価となりました。

全体的に低い評価となった最たる理由は、本件第三者委員会の調査が東芝のためだけに行われたと調査報告書内に明記されている点です。本来第三者委員会の調査報告書は、株主や従業員といった利害関係者に事実を伝える目的で作成されるものです。本来の意味での第三者委員会とは言えない点から、最低評価のF評価を下す委員も少なくありませんでした。

また、不正会計に関与した経営陣に関する事実認定が不足している点や、監査法人を調査対象に含めなかった点もマイナス評価の一因となっています。

根本的な原因

第三者委員会は本件問題の根本的な原因を報告書にていくつか述べています。今回はその中でも、とくに重要な二つの原因をお伝えします。

まず一つ目の原因は、利益至上主義によるプレッシャーが大きかったことです。当時の東芝では、定期的に社長から各部門の責任者に対して、「チャレンジ」と称して設定した収益目標の達成が強く迫られていました。
目標を達成できなければその事業部から撤退することが示唆されており、事業部の責任者にとっては大きなプレッシャーだったとのことです。収益目標の達成が第一目標となっていたために、不正会計が行われるに至ったと考えられます。

二つ目の原因は、内部統制が機能していなかったことです。第三者委員会の調査によると、東芝の社内全体的に内部統制が機能していなかったことも、本件問題の原因として考えられるとのことです。
本来ならば内部監査を行うべき経営監査部で監査の業務が行われていなかったり、リスクマネジメント部で財務報告に関する内部統制のチェックが行われていなかったりと、企業全体で内部統制の仕組みが機能していなかったことが判明しています。

まとめ

東芝の事例からわかるように、内部統制の欠如や利益至上主義の徹底は、不適切な会計処理をもたらす根本的な原因となりえます。不適切な会計処理は、単なるミスでは許されず、株主や取引先といった利害関係者にネガティブな影響を与えます。

そのため、こうした会計不正を調査する第三者委員会には、単純な事実認定のみならず、二度と同じことが起きないような再発防止策の提言が求められます。

参考文献

第三者委員会報告書格付け委員会 第7回格付け結果を公表しました
http://www.rating-tpcr.net/result/#07

第三者委員会の調査報告書全文の公表及び当社の今後の対応並びに経営責任の明確化についてのお知らせ
https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150721_1.pdf

東芝「不適切会計」とは、何だったのか
https://toyokeizai.net/articles/-/78801

(訂正・数値データ訂正) 「平成28年3月期決算短信〔米国基準〕(連結)」の一部訂正について
https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/library/er/er2015/q4/ter2015q4_ca.pdf

(株)東芝 –Yahoo!ファイナンス
https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=6502.T

関連記事

ページ上部へ戻る