株式会社みずほ銀行・反社会的勢力との取引に関する第三者委員会報告書の概要

株式会社みずほ銀行 第三者委員会報告書の概要

背景及び調査委員会設置に至る経緯

平成25年9月27日、金融庁は、みずほ銀行に対して、提携ローンにおいて反社会的勢力との取引が多数存在していることを認識しているにも拘わらず、抜本的な対応をしなかったとして、業務改善命令を行った[1]。これを受け、同年10月8日、再発防止及び信頼回復のため、本件に関する事実確認、原因の究明、再発防止策の検証及び提言等のため、第三者委員会を設置し、調査を委託した。20日間の調査を経て、同年10月28日に、第三者委員会による調査結果が公表された[2]

調査手法

本調査では、20日間という短い調査期間の中で、
①関係者のメール及び電子ファイル(一定のキーワードを用いて抽出したもの)並びに関連資料の内容確認及び
②延べ85名に亘る関係者に対する事情聴取が行われた。

判明事実の概要

調査の結果、株式会社オリエンタルコーポレーション(「オリコ」)を保証会社とする販売提携ローン(「キャプティブローン」と呼ばれる)について、オリコの関連会社化に伴うチェック体制の検討において、反社会的勢力に対して当該ローンが提供されていることを認識するに至ったこと、これらの反社会的勢力との取引に係るチェック体制の強化について継続して検討をしていたものの、情報共有における制約や他に優先的に解決すべき案件が発生したことなどにより、反社対応の抜本的な改善ができずにいたことを認定している。

キャプティブローンの特殊性

キャプティブローンとは、金融機関、信販会社、商品・役務を提供する加盟店及び当該商品・役務を購入する顧客の4者間で行われるローンである。

本件のキャプティブローンでは、下図にあるとおり、顧客が加盟店経由でオリコに対してローンの申し込みを行い、同社が審査の上承諾をした場合、同社から加盟店に対して支払いがなされ、一定期間に集積した大量の取引についてオリコが顧客を代理してみずほ銀行から融資金をまとめて受領し、同行と顧客との間で直接金銭消費貸借契約が成立し、オリコが連帯保証人となる。

キャプティブローンの仕組み
本件のキャプティブローンの仕組み[3]  

本件を検討する上でのポイントは、
①顧客の与信判断、回収等顧客窓口業務を行うのはオリコであり、みずほ銀行と顧客との間で直接の接点がないにも拘わらず契約はみずほ銀行と各顧客との間で締結され、自行の債権となる(したがって反社会的勢力に係るチェック等について自行基準を適用しなければならないが、直接の接点がないことにより様々な制約が存在する)点、及び
②資金使途が具体的な商品・サービスの代金への充当に限定される(したがってマネロン等のリスクが相対的に低い)点などが挙げられる。

オリコ関連会社化及びそれに伴う反社会勢力排除体制の整備

本キャプティブローンにおける反社会勢力排除体制については、上記(1)の特性を踏まえ、窓口となるオリコが独自の属性チェックを行うことを前提に、みずほ銀行による属性チェックは行わないという整理がなされていた。

平成22年に入り、オリコをみずほグループの関連会社化する際、本キャプティブローンに係る反社会勢力に係るチェックをみずほグループとして実施する必要性があると判断し、まずは本キャプティブローンの事後的な反社チェックを行うこととした。当該チェックの結果、反社に該当する取引先を含む、みずほ銀行の基準では取引をすべきでない取引先[4]が多数発見された。この結果を踏まえ、オリコに対してこれら取引先との取引を解消し、今後取引を行わないように求めたが、両社間の情報共有に係る法的問題や、なるべく取引解消の対象となる取引先の範囲を狭めたいオリコ側からの反発等があり、思うように進まなかった。

平成23年3月のシステム障害後の対応と人事異動

こうした中、平成23年3月、みずほ銀行が大規模なシステム障害を起こし、その対応に追われ、本キャプティブローンに係る反社会勢力対応の優先度が低くなってしまった。当初は同問題の対応について、取締役会に対して定期的な報告がなされていたが、次第に重要性の認識が薄れ、取締役会への報告も行われなくなっていった。
また、システム障害等に起因した抜本的な改革の一環として大規模な人事異動が行われ、本キャプティブローンの反社会的勢力に係る問題の所在、これまでの経緯を理解している役職員の大半が同問題の対応からはずれることとなった。

金融庁検査

金融庁は、平成24年12月から平成25年3月にかけてみずほ銀行に対して金融検査を実施し、その中で、上記問題が発覚し、業務改善命令が出されるに至った[5]

原因究明及び再発防止策

本件の主要な原因として第三者委員会が認定したもの及び再発防止策は以下のとおり。

原因

本キャプティブローンが自行債権であることの意識の希薄さ
反社会的勢力との関係遮断の重要性に対する認識不足
役職員の異動等による課題認識の断絶/組織として課題取組みの継続性を担保するための制度の機能不全
反社会的勢力の問題に関する経営陣への報告ルールの形骸化
会社が提言した再発防止策第三者委員会による追加の提言
① 4 者提携ローンの反社取引排除にかかる改善対応策
② 商品・サービス等における反社取引排除態勢の強化
③ 役職員の反社会的勢力との関係遮断に対する更なる意識の向上
④ 企業風土の改善-「みずほの企業行動規範」の見直しによる意識向上
⑤ 変化を見据えた反社会的勢力との関係遮断に向けた体制の強化
⑥ 企業風土の改善-「One MIZUHO 推進 PT」と連携した継続的な取組みの推進
⑦ 金融庁検査等におけるチェック態勢の整備
⑧ 内部監査機能の充実・強化策
⑨ 執行部門の再発防止等のモニタリング等の実施
・コンプライアンス委員会への報告事項(審議・調整事項)の明確化
・コンプライアンス委員会や反社排除取引委員会における実質的な審議を確保 するための方策の設定
・コンプライアンスプログラム、業務計画等のフォローアップの仕組みの実効化
・内部監査に対する協力姿勢の浸透
・本キャプティブローン契約への暴排条項の導入

格付委員会による評価

格付委員会では、C評価4名、D評価4名(A-Eの5段階評価)という厳しい内容となった[6]。格付けが全体的に低くなった理由として、
①調査スコープについて、問題発覚後のみずほ側の危機管理体制に問題があったか否か[7]、という点も含めるべきであった(國廣委員)
②原因究明が「表面的指摘に止まり、それがなぜ起きたかという根源的な原因究明に至っていない」(久保利委員)
③調査対象が広範であるのに比して20日間という調査期間が短すぎる(複数委員)、などといった指摘がなされている。

最後に

本件は、社会的耳目を集めた事件の第三者委員会報告書であり、注目が集まる中20日間という短期間で極めて広範囲な調査を行い、事実認定を行っている点は積極的に評価すべきであろう。しかしながら、期間が短かったことにより本件が起こった根本原因までメスを入れられなかったとの指摘は的を射ていると思われ、今後このように大規模かつ注目される第三者委員会調査を行う上での参考となるケースであろう。

注釈

[1] https://www.fsa.go.jp/news/25/ginkou/20130927-3.html

[2] https://www.mizuhobank.co.jp/release/2013/pdf/news131028.pdf

[3] 調査報告書26頁より抜粋

[4] みずほ銀行では、当時、反社に該当する取引先のみならず、同グループとの取引にふさわしくない取引先を「不芳属性先」として管理していた。

[5] なお、金融庁による本件問題に関する報告徴求に対して、誤った情報を提供していたが、これについては意図的な隠ぺいではなかったと認定されている。

[6] http://www.rating-tpcr.net/wp-content/uploads/fccfdeac65688725d484784e82ca152d2.pdf

[7] 問題発覚後、1回目の記者会見では「本件の認識は担当役員止まり」としながら数日後には「頭取も認識していた(認識し得た)」と訂正の記者会見を行うなど、危機管理対応が不適切だったのではないかと指摘されている

三浦法律事務所 パートナー弁護士 渥美雅之

投稿者プロフィール

略 歴
2006年 神戸大学法科大学院卒業
2006年 公正取引委員会(~2008年)
2009年 森・濱田松本法律事務所(~2017年)
2015年 University of Chicago Law School (LL.M.)修了
2015年 Covington & Burling LLP
2016年 U.S. Federal Trade Commission
2017年 株式会社LIXIL コンプライアンス調査部長(~2018年)

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