毎月勤労統計調査を巡る不適切な取り扱いにおける第三者委員会報告書の概要

毎月勤労統計調査を巡る不適切な取り扱いにおける第三者委員会報告書の概要

この記事では、毎月勤労統計調査を巡る不適切な取り扱い問題を事例に、第三者委員会の調査内容をご説明します。

問題の背景

本件は、日本国内における毎月の雇用や給与、労働時間の変動を明らかにする目的で作成される「毎月勤労統計調査」について、不適切な処理が行われていた問題です。

具体的には、本来全数調査を行うべき事業所について、その一部のみが調査された上に、抽出調査で必要な統計処理が行われていなかったがために、間違ったデータが公表されていました。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件の第三者委員会は、不適切なデータ処理に関する事実確認や責任の所在の解明を行いつつ、統計の正確性や信頼性を再び取り戻す方法を考案する役割を担いました。

なお本件の第三者委員会は、下記8名の委員と、より中立性を高めるために設置された事務局によって構成されました。

  • 委員長:樋口 美雄(労働政策研究・研修機構理事長)
  • 委員長代理:荒井 史男(弁護士 元名古屋高等裁判所長官)
  • 委員:井出 健二郎(和光大学学長)
  • 委員:玄田 有史(東京大学社会科学研究所教授)
  • 委員:篠原 榮一(公認会計士 元日本公認会計士協会公会計委員会委員長)
  • 委員:萩尾 保繁(弁護士 元静岡地方裁判所長)
  • 委員:廣松 毅(東京大学名誉教授)
  • 委員:柳 志郎(弁護士元日本弁護士連合会常務理事)
  • 事務局長:名取 俊也(弁護士 元最高検察庁検事)
  • 事務局員:五十嵐 康之(弁護士 元日本弁護士連合会事務局長)
  • 事務局員:沖田 美恵子(弁護士 元東京地方検察庁検事)

第三者委員会の活動スケジュール

では次に、第三者委員会が発足した経緯を見てみましょう。

問題の発端となったのは、2018年12月10日に、総務省が厚生労働省に対して、2017年と2018年の調査結果との間に、本来ならば見られないデータの不連続があるとの指摘を行なったことです。

説明を求められた厚生労働省は、同月13日に総務省や統計委員会委員長との打ち合わせの際に、本来のルールとは異なる方法で調査を行なっていた旨を報告しました。これにより、厚生労働省が毎月勤労統計調査に関して、統計法違反等を含む不適切な取り扱いを行なっていたことが判明しました。

何よりも信用できるはずの国の統計に間違いがあったとして、この問題は報道番組などで大きな話題となりました。また本件問題により、過去の雇用保険や労災保険などの給付が過少となっていたことが判明し、その追加給付の必要が生じる事態となりました。

国民生活を脅かすほどの大問題となったことを受けて、2019年1月16日には第三者委員会が設立され、事実確認の調査が本格的にスタートしました。一週間弱に渡る調査を経て、第三者委員会は最終報告書を提出しました。

ここで一件落着と思いきや、公表した最終報告書の内容や調査の中立性に対して、多方面から指摘がなされたため、問題は終息しませんでした。そこで第三者委員会はさらなる調査を行い、同年2月27日に追加報告書を提出しました。この追加報告書に対してもさまざまな批判があったものの、ひとまず調査は完了の運びとなりました。

以上をまとめると、第三者委員会の調査はおよそ1ヶ月におよびました。問題発覚から第三者委員会の調査完了までの流れをまとめると下記になります。

  • 2018年12月10日 総務省から厚生労働省に対して、不適切な調査結果に対する指摘が行われる
  • 2018年12月13日 データの不適切な取り扱いが明らかになる
  • 2019年1月16日 第三者委員会が設置される
  • 2019年1月22日 第三者委員会が最終報告書を提出
  • 2019年2月27日 第三者委員会が追加報告書を提出

本件の調査のポイント

本件調査のポイントは、厚生労働省という国の機関に関する調査であったために、より公平性や中立性が問われた点です。

前述したように、第三者委員会が当初提出した最終報告書は、厚生労働省職員のみによるヒアリングに基づいて作成されたため、中立性が欠けているとして批判を受けました。 そこで本件第三者委員会は、外部の弁護士によるヒアリングを実施し、追加報告書を提出する運びになりました。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査により、本件の詳細な事実関係が判明しました。

本来の毎月勤労統計調査では、事業所の従業員数に応じてデータの調査方法が異なります。500人以上の従業員がいる事業所では、すべてのデータを集める全数調査が義務となっていました。しかし東京都の一部の産業については、平成16年以降から全数調査ではなく、一部の事業所のみを調査する抽出調査が行われていました。

また抽出調査を行う場合には、統計上必要な処理を施す必要があるにもかかわらず、上記一部の産業についてはその処理が行われていなかったことも判明しました。この結果、雇用保険や労災保険の給付が本来必要な額よりも少なくなっていました。

なお第三者委員会の調査では、「都道府県などから寄せられていた回答の負担軽減の要望に配慮するため」等の理由により、本来の決まりとは異なり抽出調査が行われたと判明しました。一方で適切な統計処理が行われなかった理由については、関係者の記憶があいまいである点や、客観的な資料が残されていない点などを理由に判明しませんでした。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

厚生労働省は第三者委員会の調査費用を公表していないため、どの程度の費用がかかったかは判明していません。また一般企業でもないため、株価への影響も考えられません。

しかし国の公的機関に対する国民の信頼性が低下した点を踏まえると、今回の問題は多方面に影響が及ぶ可能性があります。現時点でも労災保険等の追加給付が発生したりと、本件問題の影響は計り知れません。

厚生労働省は、保険の追加給付をはじめとして、国民からの信頼を回復するために真摯な態度で対応する必要があるでしょう。

格付けの評価

第三者委員会報告書格付け委員会は、委員構成の中立性や事実認定の正確性といった観点により、本件に携わった第三者委員会の格付けを評価しました。なお格付けは、A(良い)〜F(悪い)までの5段階で評価が下されました。

今回は9名の委員が格付け評価を行いましたが、なんと9名全員がF評価を下す事態となりました。つまり格付け委員会全体が、本件第三者委員会の調査書に対して「評価するに値しない」という評価を下したのです。

圧倒的な低評価が下された理由としては、第三者委員会の独立性が欠けている点や、原因究明が全く行われていない点、事実認定の調査が不十分である点などが挙げられています。

格付け委員会のメンバーが述べている通り、調査書では「言語道断」や「覚悟が問われる」といった大げさな文言ばかりが用いられているものの、総じて中身のない調査結果であったと言えるでしょう。

根本的な原因

第三者委員会の調査結果をまとめると、本件問題が生じた根本的な要因は「組織のガバナンス欠如」と「関係者が統計を軽視していたこと」の二点に集約されます。

毎月勤労統計調査のデータは、雇用保険や労災保険の支払いなど、私たちの生活のさまざまな場面で活用されています。重大なデータを取り扱っているという認識が関係者の間で強く持たれていなかったために、本件問題が生じたと考えられます。

また、統計が適切に行われているかどうかを監視する機能が備わっておらず、管理者が現場の仕事を下の者に任せきりにしていた点などは、組織のガバナンスが欠如していたと言わざるを得ないでしょう。

まとめ

今回は、毎月勤労統計調査の不適切なデータ公表問題を事例として取り上げました。

国の公的データの信頼性を覆す問題であったため、調査に取り掛かる第三者委員会には、問題解決や原因究明に向けて大きな期待が寄せられていました。しかし実際には、具体性や説得力のない調査結果となり、格付け委員会からも酷評を得ることとなりました。

本件に限らず第三者委員会には、どの相手にも忖度せずに、根本的な原因究明や事実の認定を行うことが求められています。そのため、大げさな文言で文章を取り繕うのではなく、論理的で事実に基づいた説明や、その前提として忌憚のない調査を行う必要があります。

参考文献

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