朝日新聞社の慰安婦報道問題における第三者委員会報告書の概要

朝日新聞社の慰安婦報道問題

今回の記事では、朝日新聞社の慰安婦報道問題を事例に、第三者委員会の活動内容についてくわしく解説します。

問題の背景

本件は、慰安婦問題に関して朝日新聞社が行った取材や報道のあり方について、報道の自由の範囲内であるかどうか争点となった問題です。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件において第三者委員会は、朝日新聞者の記事作成や公開のあり方をめぐる事実関係や同社の報道姿勢、同社の抱える問題などを調査する役割を担いました。

本件を調査した第三者委員会は、下記7名の委員によって構成されています。

  • 委員長:中込 秀樹 (弁護士 元名古屋高裁長官)
  • 委員 :岡本 行夫 (外交評論家)
  • 委員 :北岡 伸一 (国際大学学長)
  • 委員 :田原 総一朗 (ジャーナリスト)
  • 委員 :波多野 澄雄 (筑波大学名誉教授)
  • 委員 :林 香里 (東京大学大学院情報学環教授)
  • 委員 : 保阪 正康 (ノンフィクション作家)

第三者委員会の活動スケジュール

本件の発端となったのは、1982年に朝日新聞内の記事にて、「慰安婦問題は暴行を加えて無理やり行われた」という内容(吉田証言)が紹介されたことです。

これ以来朝日新聞では、度々慰安婦問題に関する内容が取り上げられましたが、1992年4月30日と5月1日に歴史学者の秦氏が現地調査を根拠に、吉田証言を疑わしいと指摘しました。秦氏による指摘があった後も、朝日新聞では慰安婦問題(吉田証言)に関連した記事を掲載し続けました。

外部からの指摘を受けて、1997年3月31日には吉田証言について「真偽は確認でいない」と記載した記事を公表したものの、過去の記事については訂正や取り消しを行いませんでした。

事態が大きく動いたのは2014年です。当時の同社は、毎月1回池上彰氏の執筆するコラムを新聞に掲載していました。2014年8月29日に掲載予定のコラムにて、池上氏が朝日新聞による慰安婦報道の検証が不十分であると批判的に取り上げたところ、朝日新聞はコラムの掲載を拒否しました。俗に「池上コラム問題」とも呼ばれるこの問題は、同社の記者がツイッターで朝日新聞側の対応を批判するなど、大きな騒動に発展しました。

これが決定打となり、同社は他の報道機関や読者からネガティブな意見を受けるようになりました。事態の深刻化を受けて同社は、同年10月9日に第三者委員会を設置し、これまでの慰安婦報道の正当性を調査し始めました。調査はおよそ2ヶ月半に渡り、同年12月22日に最終報告書が提出されました。 本件問題と第三者委員会の活動をまとめると下記のようになります。

  • 1982年9月2日 朝日新聞社の記事にて「吉田証言」を初めて紹介
  • 1992年4月30日、5月1日 歴史学者の秦氏が吉田証言を疑わしいと指摘
  • 1997年3月31日 同社の記事にて吉田証言について「真偽は確認できない」と記載
  • 2014年8月29日 池上コラム問題が発生
  • 2014年10月9日 第三者委員会が設置される
  • 2014年12月22日 最終報告書が提出される

本件の調査のポイント

本件調査のポイントは、慰安婦問題に関する記事が作成された経緯のみならず、池上彰氏のコラム原稿の掲載を見送った経緯や、朝日新聞が行った慰安婦報道が国際関係に与えた影響にまで調査の範囲を広げている点です。

調査範囲を単に記事が掲載された経緯に限定しないことで、本件問題の構造を多面的に分析しようとした第三者委員会の意向が伺えます。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査では、吉田証言を記事で取り扱った経緯が判明しました。朝日新聞社は何度も慰安婦問題に関する吉田証言を取り扱いましたが、第三者委員会の調査によると十分な裏付け調査を行わずに記事を公開していたことが判明しました。
また慰安婦問題が政治的に重要な課題となるように、わざと首相が訪韓するタイミングで記事を公表した可能性が高いことも判明しました。

また第三者委員会の報告書では、本件問題が国際社会に与えた影響も記されています。第三者委員会の調査によると、朝日新聞が吉田証言を取り上げたことにより、米国や中国をはじめとして「日本軍は暴力的に女性を拉致して強制的に慰安婦にした」というイメージを持つ人が増えたとのことです。

以上のことより、朝日新聞が裏付け調査を十分に行わなかったり、訂正等の対応を行わないなど、ジャーナリズムとしてあるまじき行為を行なったために、海外諸国から日本に対する否定的なイメージが定着したと考えられます。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

朝日新聞社は第三者委員会の調査に要した費用や、その影響を直接的には公表していません。また非上場企業であるため、株価への影響も分かりません。

しかしながら、同社の業績を見てみると本件問題はとても深刻な影響を与えたと推測できます。本件問題が発覚した2014年の売上高は4,695億円でした。
しかし2015年には4,361億円、2016年には4,201億円、2017年には4,010億円と年々減少しています。
問題が大きくなった時期から業績が悪化しているため、本件の影響はとても大きいものであったと推測できます。 日本国内のみならず海外諸国との関係にも大きな傷を与えたこともあり、同社の信用性回復には大きな苦難が伴うと考えられます。

格付けの評価

本件第三者委員会の調査報告書は、第三者委員会報告書格付け委員会によってA(良い)〜F(悪い)の5段階で評価が行われました。

本件では8名の委員が格付け評価を行いましたが、3名がD評価、のこりの5名がF評価と全体として非常に低い評価結果となりました。おおむね低評価となった理由としては、内部統制やマネジメントなどの組織的要因に関する事実調査が行われていないことや、経営陣の独裁的体制にまで踏み込んだ分析が行われていない点、調査体制に関する情報が提示されていないために独立性が見られない点などが挙げられています。

格付け委員会の評価をまとめると、調査結果や再発防止策の提言が全体的に浅い報告書であったと結論づけることができます。

根本的な原因

第三者委員会の調査報告書に基づくと、本件の根本的な原因は二つあると考えられます。

まず一点目は事実確認が不十分であったことです。「戦争」や「女性の人権」といったセンシティブなキーワードと関連する問題なだけに、より一層裏付けなどの確認を行う必要があったでしょう。

二点目は、記事に対して重い責任を負っていなかった点です。新聞社が公表した記事は、事実として国際社会全般に影響を与えます。にもかかわらず第三者委員会によるヒアリングによると、何人かの朝日社員は、事実のみならず朝日新聞としての立場を示すことで読まれる記事となる、という風な考えを持っていました。こうした自社の立場を重視しすぎるあまり、記事の公共性という認識が欠如し、本件問題に発展したと考えられます。

まとめ

朝日新聞社による慰安婦報道は、日本のみならず国際社会にも大きな影響を与えました。昨今の日韓関係がますます悪化していることを踏まえると、同社の裏付けのない報道は取り返しのつかない問題に発展していると言えます。

本件のような影響力の大きい問題を調査する第三者委員会には、単なる事実確認のみならず、組織的な要因や内部統制といった根本的部分にまで調査を広げ、中身のある改善策を提示することが求められるのです。

参考文献

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