神戸製鋼所のデータ改ざん問題における第三者委員会報告書の概要

日本大学アメリカンフットボール部 反則行為問題における第三者委員会報告書の概要

この記事では、神戸製鋼所のデータ改ざん問題を事例として取り上げて、第三者委員会の活動内容をご説明します。

問題の背景

本件は、製造した製品が顧客仕様や公的規格を満たしていないにも関わらず、検査結果の改ざんやねつ造を行い、通常通り製品を顧客に販売していた問題です。

顧客の安全を脅かす問題であったために、顧客からの批判はもちろん、ニュース等で大きく取り上げられ、大きな話題となりました。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

第三者委員会は、本件の事実確認および原因究明を目的に行った自主点検や緊急監査の適正性・妥当性の再検証などを行う役割を担いました。
また、単なる事実確認にとどまらず、組織の運営体制や企業風土といった要因の分析や再発防止の提言も担いました。

なお本件の第三者委員会は、同社と利害関係を有しない下記3名により構成されました。

  • 委員長:松井 巌(弁護士 元福岡高検検事長)
  • 委員 :山崎 恒(弁護士 元札幌高裁長官 元公正取引委員会委員)
  • 委員 :和田 衛(弁護士 元検事)

第三者委員会の活動スケジュール

では次に、本件問題の発端から第三者委員会の活動までの経緯をお伝えします。

本件問題の発端は、2016年6月9日、21日にグループ子会社によるJIS法違反が発覚したことでした。JIS法違反を受けて神戸製鋼所は、2017年4月以降製品の品質に関する自主点検を開始しました。

自主点検の過程で顧客仕様や公的規格を満たさない製品について、検査結果のデータ改ざんが行われていたことが発覚し、2017年10月8日に同社は本件問題を公表しました。

2017年10月25日には一通り自主点検や緊急監査は完了しましたが、点検の過程で複数の事業所でデータ改ざんが行われていたことが発覚、また品質の自主点検について一部の工場で妨害行為が確認されました。

これを受けて同社では、2017年10月26日に第三者委員会を設置し、事実確認や原因究明に向けて調査を開始しました。2018年3月6日に、第三者委員会の調査結果を同社がまとめた「当社グループにおける不適切行為に関する報告書」が公表されたことで、ひとまず本件問題は収束を迎えました。本件の調査には、およそ5ヶ月弱かかったと考えられます。

本件問題における第三者委員会の動向をまとめると、以下のようになります。

  • 2016年6月9日、21日 グループ子会社によるJIS法違反を公表
  • 2017年4月以降 品質の自主点検を開始
  • 2017年10月8日 データ改ざん問題を公表
  • 2017年10月25日 自主点検・緊急監査、事実関係の調査が完了
  • 2017年10月26日 第三者委員会が設置される
  • 2018年3月6日 第三者委員会の調査報告書をまとめた「報告書」が公表される

本件の調査のポイント

本件調査のポイントは、事実確認や原因究明に加えて、同社が行なった品質の自主点検についても検証している点です。

通常であれば第三者委員会は、事実確認や原因究明を行い、その上で再発防止策を提言するまでの役割を担います。ですが本件では、同社の希望により前もって行なっていた自主点検が妥当であったかどうかについても検証しています。
自主点検についても検証することで、同社は主体的に問題解決を行なっていた旨を対外的にアピールしたかったのだと考えられます。

第三者委員会の調査によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査では、不適切なデータ改ざんが行われていた事業領域や、問題に対する役員の認識が判明しています。

まず不適切なデータ改ざんについては、アルミ・銅事業部門を担う工場全体、アルミ・銅以外の事業分野では汎用圧縮機の製造部門や産業機械事業部にて行為が発覚しました。また、株式会社コベルコや神鋼メタルプロダクツ株式会社といったグループ関連会社でも、同様のデータ改ざんが行われていました。

次に問題に対する役員の認識ですが、少なくとも調査報告書によると、一部の役員は本件問題を認識していたにもかかわらず、調査を指示したり、問題行為をやめさせるように措置を講じたりはしなかったとのことです。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

大手新聞各社によると、データ改ざんによる影響で生じる費用は合計で約100億円かかるとのことです。その大半は第三者委員会による調査費用、顧客への補償費用が占めていると考えられています。

実際に神戸製鋼所の決算短信を見てみると、顧客補償への対応費用として2017年度は43億円、2018年度は25億円をそれぞれ特別損失として計上しています。

また本件問題は、社会的な評価という面にも大きな影響を与えています。データ改ざんが公表される直前(2017年10月6日)の終値は1,368円でした。しかし問題が発覚した直後の10月10日には終値が1,068円、その次の日には878円と急激に株価が下落しています。

また第三者委員会の調査結果をまとめた報告書を公表した2018年3月6日の終値は1,110円でしたが、その次の日には1,028円まで下落しています。2019年9月20日現在の終値は582円となっており、同社は信頼回復どころか、日に日に社会的信用度を落としてしまっている状況です。 同社が社会的な信頼を回復するには、長い年月と多大な努力が必要であると考えられます。

格付けの評価

本件第三者委員会の調査結果については、第三者委員会報告書格付け委員会によって、A(良い)〜F(悪い)までの5つの段階で評価されました。

9名の委員が格付け評価を行いましたが、D評価3名、F評価6名と、他の第三者委員会の格付けと比べても、圧倒的に低い評価となりました。

9名中6名が評価に値しない報告書を意味するF評価を下した最たる理由は、この調査報告書自体が第三者委員会の提出した最終報告書ではない点にあります。

神戸製鋼所は顧客の個人情報や営業秘密の保護を理由に、第三者委員会が提出した最終報告書を非公開とし、その内容を自社でまとめたものが本報告書となっています。

格付け委員会は、非公表とした理由が不十分である点や、第三者委員会の調査結果から都合の良い部分だけを利用している疑惑がある点などを「著しい欠陥」であるとして痛烈に批判しています。また肝心の報告書についても、ガバナンスの問題や役員の関与について調査不足であるとの評価を受けています。

第三者委員会が提出した報告書を非公開とした点に加え、肝心の報告書も内容に不備があるなど、企業不祥事の報告書としては大きな課題が残ったと言えます。

根本的な原因

第三者委員会の調査と同社自身が行なった原因究明の調査によると、本件問題が生じた根本的な原因は3つあると考えられます。

まず一つ目の原因は、収益に偏重した経営と不十分な組織体制です。同社は1999年からカンパニー制を導入し、各事業部門が事業の運営について大幅な権限を持つようにしました。これにより意思決定が迅速となる等のメリットを得られたものの、各部門は利益目標の達成を重視しすぎるようになり、品質の確保は軽視されることとなったのです。

二つ目の原因は、バランスに欠けた工場運営と社員の品質に対するコンプライアンス意識の低下です。データ改ざんが行われていた生産拠点の多くでは、自社の生産能力を超える案件でさえもどんどん受注していました。そのため、顧客の要求通りの製品を生産すると、納期を守れずに利益目標を達成できなくなる状況に陥っていました。そこで同社は、利益目標を達成できない事態を回避するために、データを改ざんしてでも納期遵守や利益の確保を優先していました。

そして三つ目の原因は、不十分な品質管理の手続きです。本件問題が生じた生産拠点では、検査後でも検査記録を自由に書き換え可能となっていました。また、各検査員が単独で業務を行なっているために、データ改ざんを他の人が発見することが困難な状況となっていました。

まとめ

本件の第三者委員会は、神戸製鋼所のデータ改ざん問題について、事実確認や再発防止策の提言を行いました。

本件に限らず第三者委員会には、単なる事実確認のみならず、会社のガバナンス体制や組織構造といった根本的な部分から原因を究明し、再発防止策を提言する役割も求められます。 第三者委員会で職務を担う弁護士には、公平な立場で問題解決に向けて尽力することが不可欠なのです。

参考文献

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