DeNAのキュレーション事業に関する第三者委員会報告書の概要

DeNAのキュレーション事業に関する第三者委員会報告書

今回の記事では、DeNAのキュレーション事業に関する問題を事例にして、第三者委員会の調査内容や報告結果を説明します。

問題の背景

本件は、2016年末にDeNAが運営する複数のキュレーションサイトで、記事の内容が不適切であると相次いで指摘された問題です。具体的には、医薬品医療機器法(薬機法)や著作権法に抵触する記事を公開していた点が問題となりました。

また記事を作成する過程で、専門家でない外注のライターが複数記事の内容を改変(いわゆるコピペ)していた点や倫理や正確さに欠ける記事を公開していた点も大きな問題となりました。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件において第三者委員会は、事実の詳細な確認や原因究明、改善策の提案という役割を担いました。
なお第三者委員会は、DeNAとの利害関係がない下記の弁護士4名により構成されました。

  • 委員長:名取 勝也(元日本アイ・ビー・エム株式会社取締役)
  • 委員:西川 元啓(元新日本製鐵株式会社常務取締役)
  • 委員:岡村 久道(国立情報学研究所客員教授)
  • 委員:沖田 美恵子(元東京地方検察庁特捜部検事)

第三者委員会の活動スケジュール

次に、DeNAのキュレーション事業問題で第三者委員会が設立されるに至ったいきさつをお伝えします。

問題が発覚する以前、DeNAではキュレーション事業(情報をわかりやすくまとめて伝えるサイト運営の事業)として、10個のサイトを運営していました。

その中の一つであるヘルスケア情報を扱うWELQというサイトについて、専門家の監修を得ないまま、根拠のない医療情報を含む記事を公開しているという指摘を外部から受けたことにより、2016年11月29日に同サイトの全記事を非公開としました。

事態はこれで収束せず、同社の運営する他のサイトについても、「法律に抵触する内容を含んでいる」とか「内容が正しくない」、「コピーペーストにより作成されている」といった指摘を相次いで受け、2016年12月7日には同社の展開する全サイトの記事全てが非公開となるに至りました。

テレビやネットのニュースで大きく取り上げられるほど問題が大きくなったことを受けて、DeNAは2016年12月15日の取締役会にて第三者委員会の設置を決定しました。2017年3月11日に第三者委員会は最終報告書を提出したため、調査期間はおよそ3ヶ月となりました。

問題発覚から最終報告書の提出までの活動スケジュールをまとめると、以下のようになります。

【経緯】

  • 2016年11月29日 指摘によりWELQ内の全記事非公開
  • 2016年12月7日 同社運営の全サイトで記事非公開
  • 2016年12月15日 取締役会で第三者委員会を発足
  • 2017年3月11日 最終報告書の提出(調査完了)

本件の調査のポイント

本件調査のポイントは、法律の観点から違法性を確認するにとどまらず、キュレーション事業の実態やベンチャー企業の運営体制など、多面的な視点から事件の概要を精査した点です。

法規制に関する調査に加え、第三者委員会はDeNAがキュレーション事業に参入した経緯や参入後の運営体制までも調べました。また、記事作成を担うライターからの意見も集めることで、本件問題が生じた根本的な要因の究明にあたりました。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査により分かった事項は、主に二つあります。
一つ目は、同社の公開していた記事に法的な問題性があった点です。第三者委員会の調査によると、全記事のうち著作権法違反の可能性が多少なりともある記事はおよそ2%〜9%程度ありました。

また、報道などにより問題を指摘されたWELQの記事19本を調べたところ、薬機法は8本、医療法は1本、健康増進法は1本、それぞれの法律に違反する可能性がある記事が見つかりました。
たとえば、「水素水には筋肉疲労を防ぐ効果がある」という科学的に実証されていない内容を含む記事が公開されていました。

二つ目は、法的に問題がある記事を作成・公開してしまった原因や背景です。記事作成のマニュアルに著作権侵害の指摘を受けないようにコピペする方法を載せていたり、記事内容の正しさを専門家の監修などによりしっかりチェックしていないことが、法的に問題がある記事を作成・公開した原因だと第三者委員会は指摘しています。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

第三者委員会による調査の結果、DeNAによるキュレーション事業の管理体制に大きな問題点が浮き彫りとなりました。その影響により、同社は平成29年度3月期に減損損失を約39.5億円計上しました。

DeNAの問題は、金銭的な損失のみならず社会的信用の面でも大きな損失をもたらしました。問題が明るみとなった前日である2016年11月28日時点の終値は、3,565円ありました。しかし29日に全記事を非公開化して以降は徐々に株価が下落していき、2017年1月4日には終値が2,553円まで下落しました。

その後も株価は下がり続け、2019年9月12日現在の終値は1,983円となりました。1,600円を割った時期よりは回復したものの、未だ問題発覚前の水準までには回復していません。 「記事のパクリ」や「医学分野で根拠のない内容を発信していたこと」など、問題自体がセンシティブであったために、信頼回復に至るには多大な時間と努力が必要であると考えられます。

格付けの評価

第三者委員会報告書格付け委員会は、委員構成の中立性や原因分析の深度等の視点から、DeNA問題に関わる第三者委員会の格付けを評価しました。今回の格付けは、A(良い)〜F(悪い)までの5段階で評価されました。

本件問題における第三者委員会に対しては、8名の委員が格付けを行いました。8名のうち1名がA評価、4名がB評価、他3名がC評価と、全体として高い評価結果となりました。

新しいビジネスモデルである「キュレーション事業」に関して著作権法をはじめとした法的観点から詳細に分析した点や、単なる個別事例の分析に終わらずに、ベンチャー企業に特有の問題点を究明している点などが、高評価につながっています。

一方で、インターネットビジネスに関する倫理面やネット上の情報を利用するユーザー側の視点に立った分析が不十分という指摘もありました。

根本的な原因

DeNA問題の調査を踏まえ、第三者委員会は本件問題が生じた根本的な原因を主に三つ指摘しています。

一つ目は、キュレーション事業に対する十分な理解をせずに事業を進めた点です。DeNAは業績の拡大などを最優先にするあまり、記事の内容が各種法律に違反したり倫理面で批判が出る可能性などを十分理解せずにキュレーション事業を始めました。こうしたリスクに対する対策を講じなかったために、このような大問題に発展したわけです。

二つ目の原因は、記事の質ではなく量を重視しすぎた点です。本来キュレーションサイトは、ユーザーの視点に立って正しい情報が含まれる記事を一つ一つ丁寧に執筆・公開すべきです。しかし同社では、いち早く多くの記事で検索上位を獲得し、スピーディーに業績を伸ばすことを重視していたため、とにかく記事の量を増やすことを重視しました。その結果、各記事に書かれた内容の正当性や法的な妥当性の確認を軽視してしまったと考えられます。

そして三つ目の原因は、スピーディーさを絶対とし、慎重に検討することをおろそかにした点です。他のベンチャー企業と同様に、DeNAではスピーディーな意思決定を重視していました。同社はスピーディーさを重視するあまり、リスクを入念に分析したり、文章の正しさを慎重に確認するといった作業を軽視しました。

まとめ

今回は、DeNAのキュレーション事業問題に携わった第三者委員会を取りあげました。

本件では、法律的な問題点はさることながら、インターネットビジネスやベンチャー企業を取り巻く諸問題も大きな争点となりました。 第三者委員会と聞くと法律面での調査や分析のみを行うイメージを持つ方も少なくありませんが、DeNAの事例のように倫理面や業界自体の問題にメスを入れる役割もときには担います。

【参考文献】

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