YouTubeが源泉徴収するとどうなる?
- 2021/6/21
- 法令コラム
グーグルは、動画投稿サイト「YouTube」のクリエイター(ユーチューバー)に対して源泉徴収を始めることを公表しました。今回の記事では、YouTubeが源泉徴収を行う場合、各国のユーチューバーにどのような影響を及ぼすかについて解説します。
今回発表されたYouTubeの源泉徴収の仕組み
まずは、どのような形で源泉徴収が行われるかを確認しましょう。
YouTubeによる収益化の流れ
これまでユーチューバーは、以下の流れでYouTubeによる収益を獲得することができました。
- YouTubeで作成した動画を公開する
- 動画の視聴数などに応じて広告収入が発生する
- グーグルから発生した広告収入を受け取る
「米国外に在住するユーチューバー」が公開した動画のうち、「アメリカの視聴者による視聴で発生した収益」が源泉徴収の対象
源泉徴収の対象者となるのは、アメリカに在住していないユーチューバーです。
ただし、動画から発生したすべての広告収入が源泉徴収の対象となるわけではありません。あくまで、「アメリカの視聴者経由で発生した収益」のみが源泉徴収されます。つまり、たとえばアメリカの視聴者が一切いない場合には、源泉徴収は行われないと判断できます。
Googleは、早ければ2021年6月から源泉徴収を行うとしています。
日本に在住しているユーチューバーは租税条約により影響を受けない
日本に在住しているユーチューバーは、日本国がアメリカと締結している租税条約によって免税となります。したがって、今後も源泉徴収によって手取り額が減少する心配はありません。
ただし、2021年5月31日までに広告プラットフォームである「Google Adsense」から税務情報を提出していない場合、全世界における収益合計の最大24%が源泉徴収される可能性があります。
条約未締結のブラジルや免税とならないインドなど、一部の国では受け取る金額が減る可能性が高い
日本では免税となる一方で、一部の国では源泉徴収が通常どおり行われます。具体的には、条約を締結していないブラジルや、条約があるものの免税の対象となっていないインドなどに在住するユーチューバーは、源泉徴収の対象となります。
したがって、アメリカの視聴者数しだいでは手取り額が約2割強も減少する可能性があります。そのためインド国内のユーチューバーからは、「税金はGoogleから徴収すべきだ。」という抗議の声もあがっています。
源泉徴収が行われるようになる理由
YouTubeで源泉徴収が行われるようになった理由は、「YouTubeからの収益が米国税法の観点でロイヤルティであるとみなされるように、グーグルが利用規約を更新したこと」です。簡単にいうと、ユーチューバーが著作物である動画をYouTubeに提供し、その対価としてグーグルがロイヤルティ(使用料)を支払う仕組みとみなされるのです。
ではなぜ、このタイミングでグーグルは利用規約や税務処理を変更したのでしょうか?日本経済新聞によると、「グーグルがアメリカの内国歳入庁(IRS)からの指導を受けた」または「グーグルが自主的に変更した」といういずれかの理由が背景にあるとしています。
グーグルによる源泉徴収が始まることで、IRSは効率的に税金を集めることが可能となる
源泉徴収の開始は、手取りが減少する可能性のあるユーチューバーのみならず、源泉徴収を行うグーグルにとってもマイナスの影響を及ぼす可能性があります。なぜなら、源泉徴収するお金は納税する分であり、収入が増えるわけではないためです。むしろ、源泉徴収の実施に事務コストがかかり、グーグルの利益が減少する可能性も考えられます。
一方、日本でいう国税庁にあたるIRSは、YouTubeによる源泉徴収で得をすると言われています。なぜなら、各ユーチューバーから個別に税金を集めなくても、グーグルからまとめて税金を回収できるからです。
また、これまで納税の義務がなかった対象から税金を集めることができるため、税収を増やす効果も期待できるでしょう。
世界中で議論となっているデジタル課税の流れを大きく変える可能性も
YouTubeによる源泉徴収の開始は、世界的に議論を呼んでいるデジタル課税の流れを大きく変える可能性があります。
インターネットの普及により、たとえば日本にいながらアメリカの顧客から収益を得るなど、各国に拠点を持たなくても世界中で利益を得られるようになりました。既存の税制は事務所などの拠点を通じてマネタイズするビジネスを想定しているため、拠点がないビジネスで生じた利益には十分に課税できていないという指摘があります。
そのような中でYouTubeは、「サービスが消費された地域で得られた利益に対しては、その国で課税を行う」という方針を明確に打ち立てました。世界的なサービスがデジタル課税に対する方針を明確にしたことで、後に続くサービスも同じ方式で課税を行うことが想定されます。
まだまだ発展途上のデジタル税制は、今回のYouTubeによる源泉徴収の開始で大きく発展を遂げるかもしれません。
まとめ
日本に在住するユーチューバーにとって、YouTubeによる源泉徴収で不利益を被ることは基本的にありません。ただし他国在住のユーチューバーには、手取りの減少という影響が生じる可能性があります。
またYouTubeによる源泉徴収は、デジタル課税の議論を加速させる大きな一歩となる可能性があります。ご自身に直接影響がないにしても、世界的にどのような影響が生じるかは知っておいて損はないでしょう。