営業秘密と不正競争防止法違反とは?-楽天モバイル従業員逮捕から考える

営業秘密と不正競争防止法違反

2021年1月12日、楽天モバイルの社員が不正競争防止法違反の疑いで逮捕されました。有名企業の社員が逮捕されたことで、不正競争防止法や営業秘密に大きな関心が寄せられています。

参考URL
従業員の逮捕について | 楽天株式会社

そこで今回は、楽天モバイルの従業員が逮捕された事例をもとに、営業秘密や不正競争防止法について解説します。

不正競争防止法における営業秘密とは

はじめに、不正競争防止法における営業秘密について解説します。

不正競争防止法とは

不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争を促し、経済の健全な発展を実現する目的で作られた法律です。不正競争防止法では、信用毀損行為や周知な商品等表示の混同惹起などを不正競争行為として定め、差止請求や損害賠償請求といった措置を認めています。

今回取り上げる「営業秘密の侵害」も、不正競争行為の一つに含まれています。営業秘密の侵害とは、不正な手段(窃取など)で取得した営業秘密を利用または開示する行為を指します。

営業秘密の3要件

経済産業省によると、不正競争防止法における営業秘密の要件として下記3つを定めています。

  • 秘密管理性:秘密にしたい情報として従業員等が分かる形で保管されていること(アクセス制限が設けられているなど)
  • 有用性:利用することで経営効率の改善や経費削減といったメリットを得られること
  • 非公知性:保有者の管理下以外では入手できないこと(刊行物に掲載されていないなど)

営業秘密の侵害に対する法定刑

営業秘密の侵害に関しては、不正競争防止法によって下記の民事的措置が定められています。

  • 差止の請求(営業秘密の利用をやめるように請求すること)
  • 損害賠償の請求

また、営業秘密を侵害した場合には刑事罰が課される可能性もあります。具体的な内容は、「10年以下の懲役」または「2000万円以下の罰金(海外での使用の場合は3,000万円)」となっています。

楽天モバイル従業員による不正競争防止法違反の概要

本件では、ソフトバンクから楽天モバイルに転職した従業員が、不正競争防止法違反の疑いで逮捕されました。

逮捕された原因は、高速通信規格の5Gに関する技術情報を不正な手段で持ち出したことです。5Gに関する情報は、事業で応用した場合は大きな利益を生む可能性がある上に、外部からは容易に知ることができないものでした。つまり5Gの情報は紛れもなく営業秘密であり、それを不正な手段で持ち出したことが、営業秘密の侵害に当たるとみなされ逮捕されたわけです。

なお逮捕された楽天モバイルの従業員は、社内サーバーに接続し、メールの添付ファイルとして自身のメールアドレスに送信する形で営業秘密を持ち出したとのことです。

またソフトバンクは、楽天モバイルにすでに持ち出された営業秘密の情報を業務で利用している可能性があると指摘しました。楽天モバイル側は否定していますが、モバイル通信のインフラ整備を急ピッチで進めている時期であることから、利用された可能性は低くないと考えるのが自然でしょう。

営業秘密の不正利用や持ち出しを防ぐには

実際のところは定かではありませんが、仮に本件でソフトバンクの営業秘密が楽天モバイル側に利用されていた場合、ソフトバンク側は大きな損害をこうむる恐れがあります。

そのような事態を避けるためにも、以下にあげた方法で営業秘密の不正利用や持ち出しを防ぐことが重要です。

セキュリティを強化する

営業秘密の漏洩・不正利用を防ぐ上で、もっとも大切なのはセキュリティの強化です。

今回の事件では、メールの添付という簡単な方法によって重要情報が外部に持ち出されており、ソフトバンク側のセキュリティ管理の甘さが露呈しました。たとえば営業秘密のメール添付を上長の許可制にしたり、特定のファイルをメールに添付できなくする仕組みを作るなどの対策を施していれば、今回のような事態は防げたでしょう。

また、あらかじめ業務で用いるデバイスを監視するシステムの導入や、全社員向けのセキュリティ研修を行っておくことも効果的です。

退職する従業員に対してアクセス制限を設ける

今回の事件でもう一つ大きく問題視されたのが、ソフトバンクに在籍する最終日というタイミングで営業秘密にアクセスできた点です。

競合他社に転職予定の従業員が営業秘密へ容易にアクセスできるというのは、セキュリティ上好ましくありません。競合他社への情報漏洩のリスクを考慮し、退職する従業員に対しては重要情報へのアクセス制限を設けておくのが好ましいでしょう。

営業秘密だと一目でわかるように情報を管理する

今回の件に限った話ではありませんが、そもそも営業秘密だと一目で分からない情報だと、故意でないにしろ外部(自身のプライベート用デバイスなど)に持ち出す可能性があります。

営業秘密に該当する情報に「マル秘」や「持ち出し禁止」などの文言を付け加えて、従業員に対して持ち出すこと自体がダメであることを認識させるようにしましょう。

営業秘密と不正競争防止法違反とは:まとめ

今回の事件は、競合他社に重要な営業秘密を持ち出し、利用した疑いがあるというものでした。実際に使用したと仮定するとソフトバンク側にとっては大きな損失となり得るため、不正競争防止法の違反に問われるのは妥当な措置と言えます。

ただし、退職直前に営業秘密にアクセスできた点や情報をメールで添付・送信できた点など、セキュリティの甘さにも問題があったと言えます。

営業秘密の侵害に向けた対策は、「法令遵守に対する従業員の意識向上」と「セキュリティの強化」という両輪で行う必要があるでしょう。

参考 URL
不正競争防止法テキスト 経済産業省
営業秘密~営業秘密を守り活用する~ 経済産業省
楽天「転職元の機密流出で社員逮捕」仰天の弁明 東洋経済オンライン

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