クラウド会計ソフトの特許侵害について、マネーフォワードがFreeeに勝訴した判決の概要

スモールビジネス向けに会計ソフトの開発を行うFreee(フリー株式会社)が、法人・個人向けに会計ソフトの開発を行う株式会社マネーフォワードを、特許権侵害を理由に訴えました。

会計ソフトの分野を代表する二つのベンチャーによるこの訴訟は大きな話題となりました。2017年に下された判決の内容を解説していきます。

請求の内容

Freeeは、クラウド会計ソフトに関する特許(以下「本件特許」といいます。)を取得していたところ、マネーフォワードが展開する「MFクラウド会計」が特許を侵害していると主張して、「MFクラウド会計」のサービスを停止するように請求しました。

本件特許の内容

本件特許は、特許番号JP5503795B、2014年3月20日に登録されたものです。

その内容は、取引の内容から自動的に勘定科目に振り分けるというものです。たとえば、ANAの飛行機に乗って移動したとします。飛行機のチケットの代金について、取引内容の欄に「ANA」と記載された場合、自動的に「旅費交通費」に分類されます。この、「ANA」と勘定科目の「旅費交通費」の対応づけを行うアルゴリズムについて、特許が登録されていました。

もっとも、実際の取引内容はこれほど単純ではなく、複数のキーワードが含まれる場合が多くあります。たとえば、取引内容が「モロゾフ JR大阪三越伊勢丹店」となっていたとします。この場合、モロゾフで贈答品を購入した可能性が高いため、「接待費」に分類されるべきです。しかし、この取引内容からは、「モロゾフ」、「JR」、「三越伊勢丹」の3つのキーワードが検出されてしまうため、「旅費交通費」に振り分けられてしまうかもしれません。

そこで、本件特許の内容として、キーワードに優先順位を割り当てることで、現実に即した自動割り振りができるようにされています。キーワードの優先順位は、①品目、②取引先、③ビジネスカテゴリー、④グループ名、⑤商業施設名とされています。そのため、「モロゾフ」は②、「JR」は④、「三越伊勢丹」は⑤となり、最も優先順位の高い「モロゾフ」を基準として、勘定項目は「接待費」に振り分けられます。

Freeeの主張

マネーフォワードの「MFクラウド会計」も、取引概要に対応して自動で勘定項目が入力されるもので、一見すると同様の機能を有しています。そのため、Freeeは、「MFクラウド会計」が本件特許のアルゴリズムと一致しているとして、「MFクラウド会計」の生産を止めることなどを請求しました。

マネーフォワードの反論

マネーフォワードは、キーワードへの対応ではなく、機械学習のアルゴリズムを用いて自動仕分けをしているから、問題はないと反論しました。もっとも、アルゴリズムを公開することは企業秘密の公開になるので、以下の説明によりアルゴリズムが異なることを示しました。

優先順位について

商品、店舗、チケットの三つのキーワードを組み合わせて、「MFクラウド会計」に入力すると以下の通りに仕分けされました。

 概要仕分け先
商品備品・消耗品費
店舗福利厚生費
チケット短期借入金
商品店舗備品・消耗品費
商品チケット備品・消耗品費
店舗チケット旅費交通費
商品店舗チケット仕入高

もし、優先順位を用いていた場合には、キーワードと仕分けが一対一対応になっているから、④〜⑦の仕分け先は、①〜③のいずれかの仕分け先になるはずです。しかし、⑥や⑦は①〜③のいずれの仕入先とも異なるためキーワードに分けて紐付けがされていないことが分かります。

存在しない日本語について

もし、対応テーブルが用いられていた場合には、存在しない単語を入力すると仕分けがされないはずです。そこで、「MFクラウド会計」に「鴻働葡賃」という単語を入力したところ、以下のように金額、サービスカテゴリに応じて異なる仕分けがされました。

 概要出金額サービスカテゴリ仕分け先
鴻働葡賃5000円カード備品・消耗品費
鴻働葡賃500万円カード福利厚生費
鴻働葡賃5000円銀行短期借入金
鴻働葡賃500万円銀行備品・消耗品費

そうすると、本件特許と異なり、キーワードによる仕分けではなく、出金額やサービスカテゴリを考慮した仕分けがされていることが分かります。

裁判所の認定

両者の主張を受けて、裁判所は、マネーフォワード側の主張を受け入れて、Freeeによる請求を棄却しました。

(この他にも、均等侵害の有無、インカメラ手続の可否などが争点になりましたが、いずれもFreeeの請求はみとめられませんでした。)

まとめ

今回は、有名な企業の真っ向勝負であり、世間の注目を集めました。この事件を通じて、訴訟でどのように勝つのかだけでなく、特許を取得して自社の製品を守ること、知らぬ間に他者の特許を侵害することがないように気をつけることが大切だと分かります。

無料で特許検索を行えるTokkyo.Aiなどを活用して、自社のサービスに関連する特許についてキャッチアップしておくとよいでしょう。

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