脱炭素社会に向けての考えや取り組みとは?
- 2021/2/15
- 法令コラム

政府は、2050年までの脱炭素社会の実現に向けて、取り組むべき具体的な数値目標や計画をまとめた「グリーン成長戦略」を、2020年12月に公開しました。グリーン成長戦略では、脱炭素社会を実現する上で重要な3つの産業(14分野)について、それぞれ目標や計画、支援策が示されています。
今回の記事では、3種類の産業(エネルギー、輸送・製造、家庭・オフィス)について、政府が想定している取り組みをご紹介します。
エネルギー関連産業に関する考え・取り組み
エネルギーに関連する産業では、「洋上風力」、「アンモニア」、「水素」、「原子力」という4つの分野が脱炭素に向けた重要分野として指定されています。
特に脱炭素社会を実現する上で切り札と言われているのが「洋上風力」です。事業規模が数千億円と非常に大きいことや、コスト低減の実現、関連産業への経済波及効果が大きさなどが、期待値の高さにつながっています。
目標としては、2040年までに最大4,500万キロワット(原発45基分に相当)の案件創出となっています。そのために政府は、政府主導による風況調査や大型風車の設置・維持管理に必要な地耐力強化などの工事の推進、規格の整備などを積極的に進める予定です。
なお、その他3つの分野に関しても、下記のとおり具体的な目標や取り組みが示されています。
分野 | 目標 | 取り組み |
アンモニア | 2030年までに、石炭火力への20%アンモニア混焼の導入 | 収熱技術の開発や実機によるNOx発生の抑制可否の検証、製造プラントの新設など |
水素 | 2050年までに、2,000万トン程度の供給 | 実機実証による国内商用化の加速、水素の配送・貯蔵が可能となるように技術基準や港湾計画の見直しなど |
原子力 | 国際連携による小型モジュール炉技術の実証や技術の確立など | カーボンフリー水素製造に必要な技術開発の支援、日本の規格基準の普及に向けた他国機関との協力推進など |
輸送・製造関連産業に関する考え・取り組み
自動車に関する産業では、「自動車・蓄電池」、「半導体・情報通信」、「船舶」、「物流」、「食料・農林水産」、「航空機」、「カーボンリサイクル」という7つの分野に重点が置かれています。
たとえば自動車・蓄電池の分野では、2030年代の半ばまでに新車として販売される乗用車のすべてを電動車にすることが、目標として掲げられています。電動車の普及に向けて政府は、技術開発による車両・燃料の価格低減や充電インフラの拡大、自動走行技術の活用などに取り組むとしています。
自動車・蓄電池以外の分野に関しては、以下のような目標・取り組みが示されています。
分野 | 目標 | 取り組み |
半導体・情報通信 | 2030年までDX関連の市場規模で24兆円獲得、省エネ 50%以上のパワー半導体の実用化および普及拡大など | 5Gや光エレクトロニクスの高度化に向けた研究開発や標準化の支援、超高効率の次世代パワー半導体の実用化に向けた支援など |
船舶 | 2050年までに、船舶分野における水素・アンモニア等の代替燃料への転換 | 水素・アンモニア燃料エンジン等の開発および実用化、省エネ・省CO2排出船舶への代替に対するインセンティブの付与など |
物流 | 2050年までに、港湾におけるカーボンニュートラルの実現、インフラ・都市空間等でのゼロエミッション化など | デジタル物流システムによる港湾ゲート前渋滞の緩和、 CO2排出量の少ない輸送システムの導入など |
食料・農林水産 | 2050年までに、農林水産におけるCO2排出量ゼロ | 高層建築物等の木造化に用いる木質建築部材の開発、バイオ液肥の活用推進など |
航空機 | 装備品・推進系の電動化や水素航空機の実現、機体・エンジンの軽量化・効率化など | 国内の産学官連携を通じた国際標準化活動の推進、航空機を製造する海外企業との連携強化など |
カーボンリサイクル | 既存製品並みまでコストの低減を目指す | コスト低減に向けた技術開発の支援、民間部門や海外市場に向けた需要および販路拡大など |
家庭・オフィス関連産業に関する考え・取り組み
家庭・オフィス関連産業に関しては、「住宅」、「資源循環」、「ライフスタイル」という3カテゴリーが重点分野として指定されています。
この中でも、家庭・業務部門のカーボンニュートラルに向けて鍵となる分野とされているのが「住宅」です。住宅の分野では、ライフサイクル全体での二酸化炭素排出量をマイナスにするLCCM住宅・建築物の普及や、30年度までに新築平均で排出量ゼロ、省エネ改修の推進、建築物における木材利用の促進などが目標として掲げられています。
そのために政府は、次世代太陽電池の導入による住宅・建築物での創エネ拡大に向けた支援措置の拡充や、消費者が理解しやすい機器・建材の表示制度や性能評価制度の確立を行っていくとのことです。
資源循環やライフスタイルの分野については、それぞれ次のとおり目標と取り組みが示されています。
分野 | 目標 | 取り組み |
資源循環 | 2050年までに、温室効果ガスの排出を全体でゼロにする | バイオマス素材の高機能化や用途拡大・低コスト化に向けた技術開発および実証、再生利用の市場拡大など |
ライフスタイル | 2050年までに、カーボンニュートラルと再生可能エネルギーによって稼ぐくらしの実現 | 直流給電等による住宅・建築物間のネットワーク化や、EV のカーシェアリングによる脱炭素型交通の促進など |
脱炭素社会に向けての考えや取り組み:まとめ
今回ご紹介したように、脱炭素社会の実現は、エネルギー産業や輸送・製造産業など、あらゆる分野が一体となって取り組んでいくものです。政府は本格的に脱炭素社会を実現するために、具体的な数値目標や期間を定めた目標や行動計画を明らかにしました。
こうした具体案が公表されたことで、日本における脱炭素社会の実現に向けた動きは今後ますます加速すると言えるでしょう。
※参考資料
脱炭素 2050年へ政府計画 日本経済新聞
2050 年カーボンニュートラル に伴うグリーン成長戦略 経済産業省