AI契約書レビューは違法?弁護士法72条との関係を解説

2022年6月6日と10月14日、AI契約書レビューに関するグレーゾーン解消制度を用いた照会に対して、法務省は「違法の可能性がある」と回答しました。

今回は、どのようなサービスがどのような法律に違反する可能性があるのか、またグレーゾーン解消制度とは何かなどについて解説します。

何が問題となっているのか?

法務省は、AI契約書レビューシステムについて弁護士法72条違反の可能性があると回答しました。弁護士法72条に違反した場合、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます(弁護士法 77 条 3 号)。

AI契約書レビューとは?

AI契約書レビューとは、契約書の内容について条文の抜け落ちがないかなどを自動的にチェックするするサービスです。近年需要が高まっており、このサービスを使うことによって正確な契約書を迅速に作成することができるため、時間短縮や人的コストの削減を図ることができます。

利用者は主に大企業の法務部門や法律事務所で、2022年12月現在2500社以上が最大手「リーガルフォース」のAI契約書レビューを導入しています。

弁護士法72条とは?

弁護士法とは、弁護士の使命・職務・資格・登録・権利義務などのほか、弁護士会および懲戒に関する事項を規定している法律です。

弁護士法72条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

問題となる弁護士法72条は、弁護士や弁護士法人以外が行うことのできない業務(いわゆる非弁行為)を規定しています。具体的には、報酬を得る目的で法的な紛争に関して他人と交渉したり法律相談に応じたりすることを禁止しています。弁護士法72条に違反するとみられる例としては、賃貸物件の敷金返還交渉や退職代行サービスが挙げられます。

つまり今回の問題は、AIによる契約書のレビューは弁護士(弁護士法人)以外が行うことを禁止されている業務(非弁行為)に当たるかどうかであるといえます。

AI契約書レビューが弁護士法72条違反となり得る理由

では、弁護士法72条が禁止する非弁行為に当たるかどうかの具体的な判断はどのように行うのでしょうか。

弁護士法72条は、①弁護士又は弁護士法人ではない者が②報酬を得る目的で③訴訟事件、非訴訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して、④鑑定、代理、仲裁、若しくは和解その他の法律事務を取扱い、又は周旋することを⑤業とすることを禁止してます。

①~⑤のすべてを満たす場合には、非弁行為に当たるとして弁護士法72条に違反します。このうち今回の争点となるのは、③と④であると考えられます。

③の「その他一般の法律事件に関して」とは

「その他一般の法律事件に関して」に当たるには、訴訟事件や審査請求など弁護士法72条に列挙された行為に準ずる程度に法律上の権利義務に争いがあり、あるいは疑義を有するものであることが必要です。

実際にAI契約書レビューがこの要件に当たるかどうかは、それぞれのサービス内容について個別の事案ごとに判断されるとみられます。

④の「鑑定」とは

法律上の専門知識に基づいて法律的見解を述べる行為は「鑑定」に当たる場合があります。

AI契約書レビューには様々な機能があり、そのうち契約の法的リスク判定やそのリスクに関する解説、修正例などは「鑑定」に当たる可能性があるといわれます。

また、単なる言語的な意味内容の類似性を超えて法的効果の類似性・相違点を表示するものと評価される場合にも「鑑定」に当たる場合があります。

契約書の自社ひな形との比較結果や解説、類似度判定結果を表示するなどの機能は、法的効果の類似性・相違点を表示するものと評価される場合に「鑑定」に当たるといえます。

AI契約書レビュー以外のリーガルテックと弁護士法72条の関係についてはこちらの記事を参照してください。

参照記事:『リーガルテックと弁護士法72条の関係』

電子契約との違い

AI契約書レビューと混同されることのある電子契約は、書面契約との対比で、契約内容を電子データにより保存・管理するものです。

グレーゾーン解消制度とは?

今回の問題は、弁護士ドットコムが「グレーゾーン解消制度」を用いて、経済産業省にAI契約書レビューの適法性を照会したことが契機となっています。

グレーゾーン解消制度とは、新たな事業を開始しようとしている事業者が、具体的な事業計画を示すことで、その事業計画が現行の規制の適用を受けるかどうかをあらかじめ関係省庁に確認できる制度です。

この制度は、現行の規制の適用範囲が不明確である場合に、事業者が安心して新たな事業を始められることを目的とします。

海外との比較

日本では違法の可能性があると法務省が回答していますが、海外での状況はどのようになっているのでしょうか。

米国でも弁護士法72条と同様の法律は存在しますが、国内ほど制約は厳しくなく、弁護士以外がサービスを提供するのは違法だが、ソフトウェアを主体として行う場合は問題がないという見解が主流であるといいます。

今後の見通しは?

AI契約書レビューは弁護士法72条に違反する可能性があるとの法務省の回答は、今後の動きにどのような影響を与えるのでしょうか。

ルールの策定

原状の問題は、どのような基準で適法性を判断するのか、具体的にどのような機能が違法となるのかなどのルールがなく、グレーゾーンとなってしまっている点にあると考えられます。

そのため、法規制やガイドラインなどを策定する動きが強まると考えられます。11月11日、内閣府による規制改革推進会議で「契約書の自動レビューと弁護士法」について議論され、AI・契約レビューテクノロジー協会や弁護士ドットコム、有識者などが意見を述べました。

サービスの無償化

また、弁護士法72条は「報酬を得る目的で」という要件があるため、AI契約書レビューのサービスを無償化する企業も出ています。

LawFlow株式会社のAI契約書審査サービス「LawFlow」は、2022年12月1日からサービスを全面無償化しました。法人利用の場合、年額330,000円が無料に変更されます。

法務省の回答前ですが、2021年4月5日、GVA TECH株式会社のAI契約書チェックサービス「AI-CON」は、16種類の契約類型に対応していたものをNDA(秘密保持契約書)のみに特化したものに変更し、完全無償化しました。

まとめ

・AI契約書レビューはAIにより自動的に契約書のチェックができる便利なサービスですが、法務省は弁護士法72条違反の可能性があると回答しています。

・弁護士法72条は、弁護士や弁護士法人以外が行うことができない業務を規定しており、実際にAI契約書レビューが違法となるかは個別具体的に判断されるといわれます。

・今後は、AI契約書レビューに関する規制の策定が進められ、またサービスの無償化が行われることが予想されます。

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