AIとは?5分でわかるAIの仕組みと法的課題
- 2022/3/9
- 法令コラム
2012年に世界的な画像認識コンテストであるILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)において初参加のトロント大学が圧倒的な勝利を収めてから、現在のAI(人工知能)ブームが始まりました。最近では、AIという言葉を目にしない日はありません。
これだけ頻繁に見聞きするAIですが、その中身やこれに関連する法律についてはよくわかっていないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、AIの基本的な仕組みと、その仕組みに由来する法的課題について解説していきます。
AIの仕組み
AIの定義については専門家の間でも意見が分かれており、統一的な見解はありません。本記事では、ひとまず「AI=機械学習を活用した情報処理の仕組み」と定義しておきます。
「情報処理の仕組み」という部分についてもう少し具体的に説明すると、AIは「なんらかのデータ(x)を入力すると、それを分析して結果(y)を出力する」性質をもっています。
たとえば、ある画像データ(x)を入力すると「この画像は猫の画像である」あるいは「この画像は猫の画像ではない」といった結果(y)を出力する、といったイメージです。
この仕組みの中では、「猫か猫でないか」を判断するための基準が必要となります。この基準の核となるのが「学習済みパラメータ」です。
学習済みパラメータとは、「学習」の結果得られた係数のことであり、入力(x)に対して学習済みパラメータを適用することで一定の結果(y)を出力する仕組みのことを「学習済みモデル」といいます。
「学習」という言葉が登場しましたが、学習とは、ある入力(x)に対して適切な結果(y)を出力できるようにパラメータ(係数)を調整することをいいます。たとえば、仮に「y=ax1+bx2」というモデルがあり、(x1, x2)=(1,2)という入力に対して正しい出力が「y=5」であるとすると、パラメータ(a,b)としては、(1,2)(2,1.5)(3,1)などがありうるということになります。そして、入力と正しい出力の組み合わせを変えてこのような操作を繰り返すことで最適なパラメータを見つけ出す、というのが学習のイメージです。
上記では単純化してご説明しましたが、実際の学習(パラメータの調整)は極めて専門性の高いプロセスであり、いかにして効率的に学習を行うかについて日々研究が行われています。現在主流の学習方法は「機械学習」と呼ばれる手法であり、さらにその中の「ディープラーニング」という技術が注目を集めています。
以上を前提にAIが生成物を出力するまでのプロセスを整理すると、以下のようになります。
AIによる生成プロセス
①生データを選択・加工して学習用データセットを作成する
②学習用データセットを用いてAIプログラムを学習させ、学習済みパラメータが組み込まれた学習済みモデルを生成する
③学習済みモデルに指示やデータを入力し、学習済みモデルが生成物を出力する
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AIの法的課題
AIは、その仕組みに由来する法的課題を数多く抱えています。
以下では、AIを活用したビジネスを行うにあたり、どのような観点で法的リスクを検討する必要があるかをご説明します。
生データ・学習用データセットに関する法的課題
学習用データセットの基となる生データに第三者のデータが存在する場合、そのデータを保護している法令に違反しないよう注意しなければなりません。
第三者のデータが法令によって保護される場合の具体例としては、
そのデータが、
- 著作権法上の「著作物」を含む場合
- 個人情報保護法上の「個人情報」を含む場合
- 電気通信事業法上の「通信の秘密」を含む場合
- 不正競争防止法上の「営業秘密」や「限定提供データ」を含む場合
などが挙げられます。
なお、近年はデータの利活用を促進するための法改正が進められており(2018年改正により創設された著作権法30条の4など)、第三者のデータであっても一定の要件の下で利用できるケースが拡大しつつあります。
また、上記とは逆に、自らデータを選択・加工して作成した学習用データセットが法的に保護されるかどうかも留意すべきです。具体的には、当該データセットが著作権法上の「データベースの著作物」や特許法上の「発明」などに該当するかどうかが検討の対象となります。
AIプログラム・学習済みパラメータ・学習済みモデルに関する法的課題
AIプログラムや学習済みパラメータ、学習済みモデルについても、それぞれが法的にどのように保護されるのかを検討しなければなりません。
学習済みモデルは「AIプログラムとパラメータの組み合わせとして表現される関数」であり、これを分析する際は「AIプログラム」と「パラメータ」とを分けて考えることが有益です。
AIプログラムについては、著作権法上の「プログラムの著作物」や不正競争防止法上の「営業秘密」、特許法上の「発明」などに該当するかどうかが検討の対象となります。
なお、仮に「プログラムの著作物」に該当するとしても、保護されるのはあくまで「表現」であり、その著作物を作成するために用いるプログラム言語や規約(プロトコル)、解法(アルゴリズム)が保護されるわけではないことには注意が必要です(著作権法10条3項)。
学習済みパラメータについては、創作性がないため著作権法上の保護は受けられないとする見方が優勢です。他方で、パラメータはAIの処理を規定する点でプログラムに似た性質を有するため特許法上の「発明」に該当しうるとする見解があります。
生成物に関する法的課題
AIの生成物に対する法的保護についても慎重な検討が必要です。
まず、生成物を「発明」とする特許権が認められるかという問題があります。
一般に日本の特許法における発明者は自然人に限られると解釈されているため、AI自身を発明者とする特許を取得ことは極めて困難です(なお、海外ではAIを発明者とする特許が認められたケースがあります)。
そのため、生成物について特許を取得したい場合は人間を発明者として出願することになりますが、人間の関与が小さい場合は、その生成物を人間の「技術的思想の創作」としての「発明」と評価することができず、特許が認められないということになると考えられます。
生成物を「発明」とする特許の取得が難しい場合は、生成物を活用したサービスの提供方法を「ビジネス関連発明」として特許出願することを検討するとよいでしょう。
また、AIの生成物は著作権法上の「著作物」に該当するかという問題もあります。
一般に、著作物は人が思想や感情を創作的に表現したものと解釈されているため、AIを著作者とする著作物性は否定されると考えられます。
これに対して、人を著作者とする著作物性は認められる可能性があると言えますが、AIによる生成プロセスには多くの関係者が存在するため、その著作権が具体的に誰に帰属するのかは難しい問題です。
以上のほか、AIの生成物が第三者の著作権等を侵害していないか、もし侵害している場合は誰がその責任を負うのか、といった点も問題となりえます。
まとめ
AIの仕組みに由来する法的課題は多岐にわたり、しかもその課題の大半については明確な答えがないというのが現状です。そのため、AIを活用したビジネスを行う際は、将来どのようなリスクが生じる可能性があるかを事前に幅広く想定しておくことが重要といえます。
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