星野源さん「うちで踊ろう」と著作権

うちで踊ろう

『うちで踊ろう』ブーム

Instagram、Youtubeでコラボ続々

InstagramやYoutubeに投稿された星野源さんの「うちで踊ろう」がブームになりました。口ずさみやすいながらもフックのある大変素敵な曲ですし、これがいろいろな方とコラボしているのだからもう見るしかない、というわけで社会現象化しています。

しかし、今回のように突発的に不特定多数の人とコラボをすること、実は法律上は当たり前にできるものではありません。

該当する動画は下記になります。
星野源 – うちで踊ろう Dancing On The Inside

コラボができる理由

通常、楽曲などは著作権で保護されており、作者以外が自由に使用することはできません。では、今回星野さんの許可を得ていないコラボはすべて著作権法違反なのかというと、当然そうではありません。これがなぜかを理解するためにはまず、著作権とはどのような権利なのかを理解する必要があります。

著作権とは

知的財産権の一つ

日本を含む多くの国では、技術や音楽、ロゴなど、“物体こそないが財産的価値のあるもの”を法律で保護しています。発明を保護する特許法、創作物を保護する著作権法などのこれらの法律をまとめて知的財産法といいます。

知的財産法は、発明や創作物などに法的な権利を付与し、権利者でない者がその発明等を勝手に使うことを制限しています。

こうして権利者が保護されれば、発明等が促進され、技術の進歩や文化の発展につながっていくという考え方のもと、特許法や商標法などの法律により発明等の性質に応じた各権利が与えられています。

著作権法はこの知的財産法のうち、文化的創作物を保護する法律です。

※以下特に断りがない限り、この記事内の条文は著作権法のものです。また、話を単純化するために「うちで踊ろう」の動画の著作権が完全に星野源さんに帰属していると仮定して話を進めます。

権利の性質

著作権は著作物(「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(2条1項1号)」)に付与されます。こうして付与された著作権は以下のような特徴を持ちます。

独占利用できる

著作者は、法律で列挙された範囲において著作物を独占利用できます。公表、複製、翻訳などをはじめとして著作権法は多岐にわたる権利を保護しており、これらの権利を著作者に独占させることで、著作物の文化的価値の維持が図られています。

申請不要

著作権は、特許権や商標権と異なり、権利を主張するにあたって事前に申請が不要という特徴があります(17条2項)。今回の動画についても星野さんが何らかの申請や届出をする必要はなく、創作した時点で星野さんに著作権が認められます。

違反には罰則がある

著作権法違反をした場合、利用の差し止め(112条)や発生した損害の賠償(114条など)が課せられることになります。さらに場合によっては著作権等侵害罪(119条)をはじめとする刑事罰の対象にもなります。

このように強い罰則を設けることで権利の保護を図っているのですね。

権利の内容

著作者人格権

1. 公表権:「まだ公表されていない」著作物を「公衆に提供し、又は提示する権利(18条1項前段)」のことをいいます。今回で言えば、星野さんが動画の投稿のタイミングや(いつ)、Instagramに投稿すること(どこで)などを自由に決定できる権利が公表権に当たります。

2. 氏名表示権:「著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利(19条1項)」のことをいいます。少し難しく感じますが、今回で言えば、星野さんは動画に「星野源」という自分の名前を表示してもいいし、別の芸名を使ってもいいし、あるいは「星野源」という名前は出さないと決めてもいいということです。

3.同一性保持権:「その著作物及びその題号の同一性を保持する権利(20条1項)」です。これまた少し難しいですが、改変や切り取りなどをされない権利のことです。

著作財産権

著作物は、権利者であれば発表、流通、改変などが自由に行えます。したがって、権利者のこれらの行動を保護することを目的としている著作財産権は、様々な種類に分かれます。(なお、著作権法の中ではこの著作財産権のみを「著作権(17条1項)」といいますが、わかりにくくなってしまうので、本稿では著作者人格権と著作財産権を合わせて著作権と呼びます。)

今回は、その中から特に本件との関係で問題となりそうな権利を一部選んで説明します。

1.複製権:文字通り「著作物を複製する権利(21条)」です。今回で言えば、アップロードに際して元データとは別にアップロード用のデータが作成されているはずですから、これが複製に当たると考えられます。

2.上演権・演奏権:著作物を、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」「上演し、又は演奏する権利」です。これによって、楽曲を公に演奏したり、録音した楽曲を流すことができなくなります。

3.公衆送信権:「著作物について、公衆送信」を「行う権利(23条1項)」をいいます。公衆送信とは、法律上難しい定義がされていますが、テレビやラジオやインターネットで放送したりその準備をすることです。データのアップロードなんかもここに含まれます。

web上などで動画をそのまま転載してしまった場合などは、上演権ではなくこちらの権利を侵害することになります。

このように、星野さんの動画は著作権によってあらゆる角度から保護されており、コラボ動画などはとても出せないようにも思えます。

今回許可が不要になる法的な理由

しかし、他人の著作物であっても一定の要件を満たせば適法に利用することができます。いわゆる「私的使用のための複製(30条)」や「引用(31条)」などはその最たるものですが、今回の動画はそのいずれにもあたりません。

では、なぜ利用が可能なのか。

星野源さんは、動画を投稿する際、この曲にパフォーマンスを付けてほしいという趣旨の発言をされています。これは著作権者が「他人に対し、その著作物の利用を許諾すること(63条1項)」にあたると考えられ、許諾を受けた人は、その許諾の範囲で著作物を利用できるようになります(63条2項)。

このような理由から、今回は様々な人たちが「うちで踊ろう」のコラボ動画を発信することが可能になっていると考えられます。本人があらかじめ利用に許可を出しているというのは、わかってしまえば当たり前な話ではあります。しかし、裏を返せば本人の許可がなければ利用できないということですから、実はきちんと考えなければならない話でもあるのです。

SNS全盛期の知的財産権との付き合い方

web戦略において知的財産権は重要

今回星野さんが動画を投稿したInstagramやYoutubeをはじめとするSNSが普及し、情報のアップロードへのハードルが下がった昨今、個人の投稿はもちろん、企業による投稿に際しても知的財産権を理解することがさらに重要になってきました。

特に著作権は、営利目的と非営利目的で利用可能な範囲を分けていますから、Webにおける広告戦略においては、無許可利用できる素材、許可が必要な素材、使用できない素材などを著作権法等に則って正確に判別する必要性が前にも増して高まっています。

前述の通り、違反に対しては多額の賠償や刑事罰が待っていることもありますから、個人としても企業としてもなるべく侵害を避けるべきなのは言うまでもありません。

知財部以外でも知財に理解が必要

では、「広告に関してだけ法務部や知財部を通してリーガルチェックを行えば十分」とか、「法務部や知財部以外で知的財産を気にする必要がない」かというとそうではありません。

例えば社内のプレゼン資料を作る場合でも、「私的使用のための複製」には当たらない場合が多いですから、著作権法違反を避ける必要があります。このように、日常業務においても著作権を意識した著作物の利用をしなければなりません。

著作物や商標、特許の対象となるものが身近にあふれている以上、知的財産に気を配るのは知財部だけの仕事にとどまらず、もはや社会人にとっての必須スキルの一つになっているのです。

星野源さん「うちで踊ろう」と著作権:まとめ

ここまで、著作権について、ごく一部ではありますが解説をしてきました。これを読んだ方が少しでも著作権をはじめとする知的財産権に興味を持ってくだされば幸いです。

今は、月額制の法令判例検索サービスや、専門書購読のサブスクリプションなどのサービスが多数リリースされており、法律を学ぶには事欠かない時代です。

こんなご時世ですから、「うちで踊ろう」を堪能した後に「うちで知的財産について調べよう」なんていうのも悪くはないのかもしれません。

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