楽天市場の送料無料は独占禁止法に当たる?
- 2020/2/14
- 法令コラム
2月10日のNHK NEWS WEB でeコマースの国内大手「楽天市場」を運営する楽天対し、公正取引委員会が立ち入り検査に乗り出したとのニュースがありました。
この件が大きく注目され始めたのは、1月29日に開催された「楽天新春カンファレンス2020」における、楽天の三木谷会長の発言にありました。発言の要旨は次の通り。
- 3月18日に送料無料ラインの導入を行う
- これを実施しなければ、楽天市場の今後の成長は難しい
- 一部の店舗が騒いでいるが、お客さんが買わなくなっては何の意味もない
- だから、公取と対峙しても3月18日には必ず導入を成功させたい
- これによって、流通総額は10数パーセント上がると確信している
これに対し、楽天市場のテナントで構成される楽天ユニオンは反対を表明し、公正取引委員会に独占禁止法の「優越的地位の乱用」に該当するとして、約4000筆の署名を提出し調査を求めていました。
三木谷会長は「売上が上がるのだから出店者にメリットがある」と主張し、出店者は「送料を負担することになるので利益が下がる」と懸念する今回の送料一律無料化に対し、公正取引委員会はどの様な結論を出すのでしょうか。
楽天の送料無料ライン
送料無料ラインとは、原則として注文金額に対するしきい値が一定金額を超える場合に送料が無料となる境界線のことで、楽天の案は次の様になっています。
配送先 | 単品、または合計の注文価格(税込) |
北海道・本州・四国・九州 | 3,980円以上 |
沖縄・離島 | 9,800円以上 |
アマゾンの送料無料化ライン
配送先 | 注文価格(税込) |
本州・四国(離島を除く) | 2,000円以上 |
北海道・九州・沖縄・離島 | 2,000円以上 |
つまり、アマゾンからの通常配送は、2,000円以上の購入で全国一律無料となるのです。
さらに、プライム会員の場合の送料は年間4,900円(税込)または月500円(税込)の会費支払いで、価格に関係なく原則送料無料となるので月に2回も利用すると元が取れ、楽天には大きな脅威になっています。
いずれにしても、一括仕入れをして仕入価格を抑制し、在庫の中から安価な送料または送料無料で販売するアマゾン方式に対する、三木谷会長の危機感は相当なものがあると思われます。
送料無料化は2019年8月8日から始動していた
楽天の三木谷会長は2019年8月8日に開催された2019年度第2四半期決算説明会で、今後楽天が成長するための課題を「送料無料化」にフォーカスしています。
つまり、自社調査の結果で送料に関するユーザーの不満は、第1位「送料をプラスすると他社より高くなる」、第2位「ショップによって送料が異なる」。 これを解決するにはアマゾンの様に送料無料化ラインがなければ競争には勝てないと分析したのです。
独占禁止法の「優越的地位の乱用」とは
楽天が出店者と協議せず一方的に決断した送料無料化ラインは、独占禁止法の優越的地位を利用した不当な要求に当たるとの疑いも出てきました。
独占禁止法上の「優越的地位の濫用」とはどの様な行為が該当するのでしょうか。公正取引委員会は平成29年6月16日の「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」の改定で、該当する行為について次の様に説明しています。
ロ 継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み,取引の相手方から取引に係る 商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,取引の相手方に対し て取引の対価の支払を遅らせ,若しくはその額を減じ,その他取引の相手方に不利 益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施すること。
今回のケースで該当するとしたら、ロ のケースになると思われますが、前提となる「優越的地位」は、次の4つの項目で判断されます。
(1) 出店者の楽天に対する取引依存度
出店者の売上高の中で「楽天市場」を通じて得る割合が大きい場合、楽天に対する依存度が大きく、楽天との取引中断は経営上大きな支障を来す可能性が高くなります。
(2) 楽天の市場(eコマース)における地位
「楽天市場」の市場におけるシェアが大きい場合、又はその順位が高い場合には、楽天と取引することで出店者の取引数量や取引額の増加が期待でき、出店者は楽天と取引を行う必要性が高くなるため、楽天との取引中断は経営上大きな支障を来す可能性が高くなります。
次のスライドは「楽天市場」のウェブサイトで<楽天市場出典のメリット>に掲載されているものです。
(3) 出店者にとっての取引先変更の可能性
出店者が、他の事業者との取引を開始若しくは拡大することが困難である場合、又は楽天との取引に関連して多額の投資を行っている場合には、出店者は楽天と取引を行う必要性が高くなるため、楽天との取引中断は経営上大きな支障を来す可能性が高くなります。
(4) その他楽天と取引することの必要性を示す具体的事実
楽天との取引額が大きい、楽天の事業規模が拡大している、「楽天市場」が強いブランド力を有する、楽天と取引することで出店者の取り扱う商品又は役務の信用が向上する、又は楽天の事業規模が出店者のそれよりも著しく大きい場合には、出店者は楽天と取引を行う必要性が高くなるため、楽天との取引中断は経営上大きな支障を来す可能性が高くなります。
次のスライドは楽天 2019年度第2四半期決算説明会資料から抜粋したものですが、楽天の高いブランド認知度や信頼感を示しています。
ここまで見てくると、少なくとも市場におけるシェアやブランド力において、楽天は優越的地位にあり、楽天との取引中断は出店者にとって経営上大きな支障を来す可能性が高いといえそうです。
送料無料ラインは楽天に対する「経済上の利益」の提供?
送料無料ラインの導入は三木谷会長が考えている様にユーザーの不満を解消し、売上アップにつながる可能性が高いというメリットがありそうです。
しかし、送料を商品代金に上乗せすればライバル企業の価格よりも高額になる可能性があり、その場合、楽天の要請がなくとも出店者が自ら負担せざるを得ない状況に陥るのでは無いか、つまり「経済上の利益」を提供することと同じではないのかという疑問が湧いてきます。
一方、公正取引委員会の見解では、経済上の利益が無償で提供される場合でも、商品価格に反映されているようなときは、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならないとしています。
公正取引委員会の判断が今後の勢力図を変える
今後、公正取引委員会が運営会社の「楽天」を調査し判断することになりますが、送料無料ラインの導入が「送料」の出店者負担を強いることになるのかどうかが最大のポイントになりそうです。
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アマゾン、楽天、ZHD(ヤフー/LINE)と大手プラットフォーマーの戦いが激化する国内マーケットですが、今回の公正取引委員会の判断は今後の勢力図に対し大きな意味を持ち始めてきました。