社外取締役制度の メリット、デメリットを徹底解説!

社外取締役制度のメリットとデメリット

社外取締役制度の普及を大きく後押ししたのは、2019年12月4成立した「会社法の一部を改正する法律」で、上場会社等に対して社外取締役を置くことを義務付けたことでした。

(社外取締役の設置義務)
第327条の2 監査役会設置会社 (公開会社で、大会社※に限る) であって、金融商品取引法第24条第1項の規定により、その発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならない。

※会社法における大会社:資本金の額が5億円以上、または負債合計額が200億円以上の会社

尚、上記の規定に違反して社外取締役を選任しなければ、取締役等は100万円以下の過料に処されることになります。

この法律改正に先駆け、金融庁と東京証券取引所が取りまとめた上場企業が行う企業統治のガイドライン「コーポレートガバナンス・コード」が、2015年6月から東京証券取引所で適用が開始されました。

2018年改訂版:コーポレートガバナンス・コード

その中で、上場企業の社外取締役は最低2名、グローバル事業を展開する大企業は取締役の1/3が望ましいとされています。

データの出典:日本取引所グループ https://www.jpx.co.jp/listing/others/ind-executive/index.html

東証第1部で社外取締役を2名以上選任している上場企業は、2018年以降90%を超えています。今や、上場企業においての社外取締役の存在は、コーポレートガバナンス(企業統治)におけるグローバルスタンダードなのです。

そこで、社外取締役の選任を検討している企業の担当者のために、社外取締役制度についてのメリットとデメリットを詳しく解説します。

社外取締役制度とは

社外取締役制度とは、一般には利害関係の無い外部の人材を取締役に加え、客観的な視点で、ガバナンスの状況や経営が適正になされているかを監視・監督する制度のことです。

しかし、経営の監査機能に重点を置く従来の考え方に対し、現在では会社の株主やステークホルダーの利益拡大を目的として、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を推進するための制度とも考えられています。

社外取締役に求められる役割

社外取締役に期待されている役割は大きく分けて4つあります。

  1. 経営の監督
    経営陣幹部の選任及び解任、取締役会の重要な意思決定などが適正に行われているかを監督する。
  2. 経営方針や経営改善に対する助言
    会社の持続的成長や企業価値の向上などの観点で、自らの経験や知識に基づき助言する。
  3. 利益相反の監督
    会社と経営陣及び支配株主などとの間の取引が、利益相反に当たらないかを審査する。
  4. ステークホルダーの意見を反映させる
    株主をはじめとする利害関係者の意見を、取締役会に適切に反映させる。

社外取締役の要件

社外取締役の要件は、会社法2条15号で5項目にわたって詳しく定められていますが、要約すると、その会社、及びその会社の親会社・子会社・兄弟会社の、現在及び過去において利害関係が無い人材であることです。

一般の取締役から独立した存在であって、客観的な立場で自由・活発に発言するためには、利害関係に関する厳格な基準をクリアする必要があります。

社外取締役のメリット

ここからは、社外取締役制度の導入によって期待できるメリットについて、具体的に説明します。

コーポレートガバナンスが強化される

コーポレートガバナンス(企業統治)とは、企業経営を監視する仕組みのことで、会社の組織的な不正行為や経営者の暴走などを阻止する効果が期待できます。

しかし、前述したコーポレートガバナンス・コードにおいては「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する」と定義されています。

これは、従来の解釈に加え、株主などの利益最大化や、企業価値向上に関する企業経営を監視・強化するという視点も含めているからです。

経営判断のミスを防げる

会社の重要な経営判断には、経営戦略、組織改革、M&Aなどさまざまなものがありますが、社外取締役の客観的な視点や独自の知見・経験などに基づく指摘は、経営幹部の誤った意思決定を防ぐ効果が期待できます。

外部の知見、ノウハウ、取引チャネルなどを取り込める

会社の経営方針の転換や新規事業の立ち上げなどの重要な意思決定の際に、外部の会社経営の経験が豊富な社外取締役の経営参加は、難局での対処方法や、新規分野での知見、ノウハウなどの情報や助言が期待できます。

旧泰然とした社内常識を一新できる

業務執行懈怠、形式的な議論、社長への忖度、馴れ合い、事なかれ主義、しがらみ、権力争い、かばいあい、過剰な仲間意識、縄張り意識、自社だけの常識、過信・慢心、などの悪弊を持たない社外取締役の参加は、取締役会の議論を正し活性化させる効果が期待できます。

会社の信用が向上する?

著名人、カリスマ経営者、財界人、大物官僚OBなどが社外取締役に就任すると、彼らの信用により自社の信用が向上するなどの効果が期待できます。しかし、信用が多少上がっても業績が向上するとは限りません。

社外取締役のデメリット

今までの説明で社外取締役を加えると良いことばかりのようですが、実際には業績が悪化する会社も少なくありません。そこで、考えられるデメリットについてご説明します。

コスト負担が増える

朝日新聞と東京商工リサーチの調査(2018.4末時点)では、東京証券取引所の第1部上場企業の社外取締役の報酬は、年平均は663万円、800万円以上が3割、最高金額は日立製作所の3,944万円でした。

上場している大会社は、グローバルな事業展開を行っているところが多く、その場合、東京証券取引所では1/3が社外取締役であることが望ましいとされていますから、コスト面の負担は少なくありません。

ガバナンスが強化されるとは限らない

2011年に発覚した巨額損失隠蔽事件を起こしたオリンパスには、当時3人の社外取締役がいました。また、2015年に不正会計が発覚し内部統制を強化してきた東芝も、2020年に子会社での架空取引が発覚した時には8割が社外取締役でした。

このような事例は他にも多々あり、形式的に社外取締役を加えただけではガバナンスの強化につながらないことがわかります。

実際の経営を知らない人が約半数

東京証券取引所第1部の企業の社外取締役は約5000人で、約50%が経営者及び元経営者、残りの約50%は、弁護士・会計士・税理士・官僚OB・日本銀行OB・大学教授など、経営経験があまりない人達です。

経営の経験がないと、取締役会の資料を読んでも表面的な理解しかできず、時には技術的な案件は理解ができないという場合もあり、正しい判断が難しくなります。

社外取締役制度の メリット、デメリットを徹底解説:まとめ

社外取締役制度は今後大企業だけではなく中小企業への導入も期待されていますが、制度が正しく機能するには、

  1. 経営経験のある人材の確保
  2. 社外取締役に対する十分な情報提供
  3. 意思決定に影響を与えられる選任数などが挙げられます。

しかし、社外取締役制度を生かすために最も重要なのは、少数の社外取締役の意見にも耳を傾け、合理性があれば従来の社内常識を改め、常に公正な判断ができる経営トップの存在ではないでしょうか。

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