海外在住でも気軽に行ける!国民審査法改正とは

今、海外在住の日本国民による最高裁判所裁判官の国民審査が可能となるよう国民審査法が改正されようとしています。

この「国民審査」とは、憲法79条に規定されており、すでに任命されている最高裁判所の裁判官が、その職責にふさわしい者かどうかを国民が審査する制度です。

第79条
最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。

衆議院選挙の小選挙区と比例代表の投票と併せて国民審査の投票を行います。審査を受ける裁判官の氏名が投票用紙に印刷されており、裁判官ごとに辞めさせたい意思があれば×を、なければ何も記入しないで投票をします。

令和4年国民審査法改正の概要

これまで、
海外在住の日本国民は、公職選挙法の規定で国政選挙の投票をすることはできましたが、衆議院選挙と併せて行われる最高裁裁判官の国民審査については法定されていませんでした。そのため、海外在住の日本国民が国民審査の投票をすることはできませんでした。

なお、「日本国民」とは、国籍が日本である者のことをいいます。

しかし、令和4年5月25日、最高裁において、最高裁裁判官の国民審査について定めた最高裁判所裁判官国民審査法が、海外在住の日本国民の審査権を認める規定を欠いていることを違憲とする判決が言い渡されました。

この判決は、憲法が最高裁に最終審としての違憲審査権を認めていることに言及した上で、国民審査制度はこのような最高裁の地位と権能に鑑みて設けられたものであり、選挙権と同様の性質を有し、憲法は選挙権と同様に国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障していると明確に述べました。国民の審査権又はその行使を制限することは原則として許されず、制限にはやむを得ない事由がなければならないとし、本件ではそのような事由は認められないとしました。そのうえで、海外在住の日本国民に国民審査権を行使する制度の創設について立法府たる国会が何らの立法措置をとらなかったことについて国は国家賠償法上の責任を負うことを認めました。

この判決を受けて、政府は海外在住の日本国民が最高裁裁判官の国民審査に投票できるようにする国民審査法改正案を国会に提出することになったのです。

過去の類似事例(最判平17.9.14)

海外に在住する日本国民の選挙権についての判例があります。

この事案は、海外に在住する日本国民が、平成8年10月の衆議院議員選挙の際に当時の公職選挙法により選挙権を行使することができなかったことを不服として、国に対して公職選挙法が違憲であることの確認の訴えと、違法な立法不作為について国家賠償請求をしたものです。

判決は、「国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない」。として、原則として選挙権の行使について制限をすることは認められないとの立場を最高裁は明らかにしています。

そして、改正前の公職選挙法が当時の在外国民の選挙権の行使を全く認めていなかったことを違憲としました。
さらに、改正後の公職選挙法が在外国民の選挙権の行使を当分の間比例代表選出議員の選挙に限定したことを違憲とし、在外国民が、問題となった選挙の次回選挙においては、選挙区選出議員の選挙であっても、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることを確認した判決です。また、国家賠償請求も認められました。この判決では、在外国民の選挙権行使の制限について「やむを得ない事由」が認められなかったのです。

この判決を受けて、選挙区選出議員の選挙権が海外在住国民にも認められた公職選挙法の改正が平成18年に行われました。しかしながら、この改正では地方選挙や最高裁判所裁判官の国民審査は対象外となっていたのです。

まとめ

通信手段の目覚ましい発達により、海外に在住する日本国民に、最高裁判所裁判官の情報が適正に伝達することができるようになりましたが、その実施にはなお公正・公平の確保の問題等様々な困難があると考えられます。しかしながら、国民審査権の重要性を重視して、これを可能にするために国民審査法の改正に踏み切ったといえるでしょう。

海外在住の日本国民の選挙権については、平成18年に公職選挙法の改正が行われましたが、今回の最高裁判所裁判官の国民審査法の改正に至るまで長い年月がたっています。司法権の頂点である最高裁の裁判官の審査は、国民主権の原理からしても重要なものです。そのため、令和4年判決は、立法不作為の違憲と国家賠償請求を認めたのだと思います。

選挙権も国民審査権も、私たちが政治や司法、国のあり方に関わることのできる重要な権利です。世界情勢や日本国内でも様々な事件が起き、混乱が生じている中で、私たちが今できることは、日本国民としての権利を適切に行使することであると考えます。

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