商号変更ってなに?企業の法務部がおさえる3つのポイント

「商号」は「社名」のことで、会社を識別する名前です。でも、創設者にとっては、設立時に将来の会社の姿をイメージし一生懸命考えて付けた名前なので、子供の名前と同じ様に大切なものです。

ですから、慣れ親しんだ商号を変えるということは、単なる名前の変更ではなく、それなりの大きな理由があるのです。

そこで、前段で「商号変更について」事例を交え説明し、後段では商号変更に当たって「企業の法務部が押さえなければならない3つのポイント」についてまとめました。

商号変更とは

商号変更は簡単

商号変更手続きは、2ステップで行うことができます。

1stステップ

定款の記載事項である「社名」を変更するには、最初に株主総会を開催し定款変更の決議を行います。

2ndステップ

株主総会の承認が得られたら、次に本社所在地を管轄する法務局に「社名」の変更登記を申請します。

たった、2ステップで完了するのですから、商号変更はとても簡単です。でも、変更の後に行う様々な手続きは簡単ではありません。

優れた商号とは?

商号は、社長が気に入らないからと言って簡単に変更して良いものではありません。耳ざわりの良い商号は有っても、これに換えれば事業が成功するという商号はどこにもありません。

ファッション業界で有名な話ですが、GUCCIの創始者グッチオ・グッチが1953年に他界した後、親族間で争いが起きヒット商品もなく80年代にはブランドイメージが最悪になりました。

そこに、当時ペリーエリスに在籍していたトム・フォードが移籍し90年代に入ってから斬新なコレクションを発表し劇的な復活を遂げました。その結果、ダサいブランドの筆頭として浸透していた「GUCCI」が、最高にカッコいいブランドに大変身したのです。

ここで重要なのは、ブランド名は何も変わっていないこと。つまり、トム・フォードの作品を大勢の消費者が支持し事業が大成功したので、ダサいブランド「GUCCI」が世界のトップブランドに生まれかわったのです。

商号変更の事例

事業会社から持株会社に変わるときの商号変更

  1. 株式会社電通 → 株式会社電通グループ
  2. ソフトバンク株式会社 → ソフトバンクグループ株式会社
  3. ヤフー株式会社 → Zホールディングス株式会社
  4. 富士フィルム株式会社 → 富士フィルムホールディングス株式会社

いずれのケースも事業拡大に伴い、一つの企業が商習慣、市場、イメージの異なる様々な事業を行う難しさを解決するために、中核企業が持株会社となって各事業を行う子会社を傘下にした企業グループの形成が、更なる飛躍につながるという経営判断の様です。この場合、元の商号は傘下の子会社に承継することが多い様です。

ブランド名の知名度が社名を超えてしまったときの商号変更

  1. 松下電器産業株式会社 → パナソニック株式会社
  2. 富士重工株式会社 → 株式会社SUBARU
  3. 東洋工業株式会社 → マツダ株式会社
  4. 株式会社スタートトゥデイ → 株式会社ZOZO

かつては「企業ブランド」と「商品ブランド」を一緒に表示する、ダブルブランドの時代もありましたが、消費者の混乱を招き知名度の向上にはマイナスと分かったため、現在では表示するブランド名は一つに絞られる様になりました。

そこで、主力ブランドなどの知名度が社名を大きく超えてしまったときに、ブランド名を社名とすることは合理的な選択肢の一つと言えます。

この他にも、覚えやすくしたい、海外でも通用する名称にしたい、イメージを良くしたい・・など商号変更の理由は様々です。

商号変更は会社にとっての一大事業

年数が経つほどに、商号にはその企業の「理念」「歴史」「イメージ」「信用」「認知度」など目に見えない財産が刷り込まれて行きます。その商号を、変更することはメリットと同時にそれらの財産を失ってしまうリスクがあります。ですから、会社の実態が何も変わらないのに社名だけ変えるというのは、特別な理由がない限りあまりおすすめできない選択です。

「商号変更の事例」でご紹介した様に、企業が現状を脱皮し次のステージに向かって飛躍しようという時に、事業や組織・機能などの見直しに伴って「商号」を変更するというのが望ましい形です。

つまり、「称号変更」は、会社の転換時に行う、とてもチャレンジングな一大事業なのです。

法務部が押さえなければならない3つのポイント

経営戦略と密接に連動している「称号変更」は会社の一大事業ですから、経営者も従業員もその重大性を十分に理解してことに望まなければなりません。

そこで、称号変更に際し会社の法務部が押さえておかなければならないポイントを3つご説明します。

⒈「商号変更」は営業秘密として取り扱う

先にも述べましたが「商号変更」は会社の経営にとっての最重要事項です。グループの体制変更や事業方針の変更などの情報が、競合企業に漏れてしまうと大きな問題です。

また、「商号」は「商標」として使用される可能性が大きいので、新商号の情報が漏れてしまうと他社に先に登録されてしまったり、ドメインを取得されたりする危険がありますから、「商号変更」の情報は、公表するまでの間は営業秘密として厳重に取り扱う必要があります。

そこで、企業の法務部は、役員・顧問・従業員などに対し「商号変更」に関する情報は営業秘密であり、取り扱いについては社内規定を守る様に周知徹底することが大切です。

⒉「商標」として使用するときは、知財部と連携してすすめる

2002年からローマ字の「商号」が認められてからは、ブランド名=商号が増加しています。「商号」を「商標」として使用することを想定しているのであれば、類似商標の事前チェックも必要です。

日本の場合「商号」は、東京都の各特別区及び各市町村で同一でなければ、他社と同一の商号を登記することも可能ですが、「商標」は全国が対象となります。

さらに、海外展開を考えているのであれば、ターゲットとする市場/国での調査も必要となるので、類似商標の調査を終えなければ先に進めることはできません。

このため、「商号」を「商標」として使用する可能性がある場合には、知財部と密接に連携し進めることが不可欠となります。

⒊ 契約書をチェックする

商号変更した後で必要になるのは、契約書に関する業務です。法律上は商号が変わっても、以前交わした契約書が無効になるということはありません。

※詳しく知りたい方は【完全版】法務部門が知るべき商号変更の際の契約書の手続きを一挙公開 をご覧ください。

しかし、契約書の記載事項に変更があった場合の通知義務が定められていたり、連絡窓口として社名・部署名・氏名などの具体的な記載があったりする場合には、修正の覚書を締結するなどの対応が必要になってきます。

また、相手企業の法務部の方針によっても異なります。例えば、契約先の商号変更が生じた場合には、担当者が替わっても混乱がない様に新商号で締結し直すとしている場合もあります。ですから「商号変更」があったときは、契約書に関し次の対応を行いましょう。

  • 契約内容に、商号変更に関わる定めが無いかをチェックし必要な処置を行う
  • 契約先の法務部に「商号変更」の通知を行い、要望があれば覚書をかわすなどの対応を行う

商号変更ってなに:まとめ

商号変更は会社の一大事業です。変更の目的を明確にするとともに、必ず成功させる様に事前の準備をしっかりと行いましょう。

社長や役員に対しても中立の立場意見できるのが法務部ですから、営業秘密を外部に漏らせば刑事罰が科せられることなどを十分に説明するとともに、不正競争防止法の保護を得られる管理体制の徹底に目を光らせなければなりません。

商号の変更手続き自体は簡単でも、変更に至るまでのプロセスにおいて、そして変更後の各種手続きにおいて、企業の法務部が果たす役割はとても重要なのです。

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