日本郵政のかんぽ生命保険契約問題における第三者委員会報告書の概要

日本郵政のかんぽ生命保険契約問題における第三者委員会報告書の概要

この記事では、日本郵政のかんぽ生命保険契約問題を事例に用いて、本件問題のくわしい内容や第三者委員会の活動内容をご説明します。

問題の背景

本件で問題となったのは、日本郵便およびかんぽ生命保険が、保険商品の乗り換え契約等に関して、顧客に不利益が生じるような対応を行ったことが問題となりました。具体的には、正しく保険に関する告知が行われなかったために、保険契約が解除されたり、予定利率が低下するなどの不利益が生じました。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件を調査した特別調査委員会(第三者委員会)は、本件問題の事実確認や再発防止策の提言などを目的に設立されました。

なお本件第三者委員会は、日本郵便やかんぽ生命と利害関係を有しない弁護士3名で構成されました。

  • 委員長:伊藤 鉄男 (弁護士 西村あさひ法律事務所)
  • 委員 :寺脇 一峰(弁護士 鈴木諭法法律事務所)
  • 委員 :早川 真崇(弁護士 渥美坂井法律事務所)

第三者委員会の活動スケジュール

では次に、本件問題や第三者委員会の調査が生じた経緯を見てみましょう。

問題の発端となったのは、2019年6月中に、かんぽ生命が過去5年間にわたって顧客にとって不利益となるような保険契約が行われていたことを発表したことでした。およそ2万3,900件という件数の多さに加え、無保険となった顧客がいることも相まって、連日報道番組で放送されるほど大きな問題となりました。

その後同年7月10日には、正式に本件問題の謝罪と今後の取り組みに関して書面にて公表したものの、事態が収束する様子はありませんでした。事態を重く見た同社は、7月24日に取締役会にて特別調査委員会の設置を決議し、同日から調査を開始しました。

現時点では調査が完全に終わったわけではないですが、同年9月30日に調査の現状や今後の方針を取りまとめた報告書が第三者委員会により提出されました。調査が開始されてか当調査書が提出されるまでには、約2ヶ月もの期間を要しました。

事件の発覚から調査書が提出されるまでの経緯をまとめると、下記のようになります。

  • 2019年6月中 顧客に不利益を与える契約を行なっていたことを公表する
  • 2019年7月10日 書面にて本件問題に関する今後の取り組みを公表
  • 2019年7月24日 特別調査委員会(第三者委員会)が設置される
  • 2019年9月30日 調査の現状・今後の方針をまとめた調査書が公表される

本件の調査のポイント

第三者委員会が行う本件調査のポイントは、日本郵政が主体的に行なっている調査とは別に、独自の調査を行なっている点です。

日本郵政では、2019年7月31日よりすべてのかんぽ生命の保険契約について、顧客の意向とは別に不利益を与えたものがないかどうかを調査しています。

しかし第三者委員会は、本件問題の事実を究明するには、単純に保険商品の調査を行うだけでは不十分であり、多角的に調査・分析を進める必要があると判断しました。

そこで当委員会は、日本郵政グループの役職員や保険業法の研究者などからのヒアリングや、コンピュータ本体やサーバー内部に保存されたメールの内容などの調査も行なっています。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査、および日本郵政グループが行った調査では、顧客の不利益につながった各契約の具体的な概要とその件数が判明しました。

最も多かったのは、乗り換えのために以前の保険を解約したにも関わらず、病歴などによって乗り換え契約が認められなかった事例です。言い換えると、病歴などにより契約が成立しない案件であるにも関わらず、新規で契約の申込みを行わせたことで、顧客が保険加入していない状態となったケースです。この件数はおよそ1.8万件にも上ります。

また、保険商品の内容を十分顧客に伝えなかったために、乗り換え後に保険契約が解除となり、保険金の支払いが行われなかったケースはおよそ3,000件もありました。

上記ケースは氷山の一角であり、顧客の意向や合理性を無視して契約したケースや、保険契約の重複が発生したケースなども数万件存在していたとのことです。

第三者委員会の調査によって生じた費用・影響

2019年11月時点では、第三者委員会の調査に要した費用や、今後本件問題が業績に与える損失などは判明していません。そのため、同社の2020年度3月期の第一四半期決算短信においても、調査の影響は加味されておりません。

しかしながら本件問題は、顧客から見ると詐欺的な案件であると言えます。そのため、今後保険契約数の減少などにより、業績が悪化する可能性は十分高いと考えられます。

本件問題による同社の信用力低下は、株価にも顕著に表れています。書面にて本件問題について公表した2019年7月10日の終値は1,205円でした。しかし発表により問題が大きくなったことで、翌日から株価が下落していき、同月22日には終値が1,097円まで下がりました。

現在(11月13日)も終値は1,000円前後となっており、同社はいまだ信用回復には至っていないのが現状です。今後信用を回復するには、本件問題の悪質さもあるため、多大な努力が必要になると考えられます。

根本的な原因

第三者委員会による調査報告書では、本件問題が生じた原因が8つ述べられています。その中でも、とくに根本的な原因となっているものは3つあると考えられます。

まず一つ目の要因は「過度な成果主義」です。同社では、人事評価や手当の給付基準として新規契約の獲得を重視していました。また営業の現場では、契約獲得数を過度に重視した管理が行われていたとのことです。こうした過度な成果主義があったために、保険募集人が不正に走らざるを得なくなったという訳です。

二つ目の要因は「業務の運営体制」です。第三者委員会の調査により、各人員の実力を大きく超えた目標金額が設定されていたことや、一部の営業人員に対して恫喝的な指導が行われたことが判明しました、俗に言うブラック企業のような社内環境も、本件の問題に大きく影響したのです。

そして三つ目の要因は、「コンプライアンス体制の不備」です。日本郵政グループでは、こうした不正を阻止・監督するための仕組みや内部監査が適切に機能していませんでした。それゆえに、顧客の不利益となる契約が行われ続けたと考えられます。

日本郵政のかんぽ生命保険契約問題のまとめ

日本郵政のかんぽ生命問題は、顧客に対して極めて大きな不利益を与える行為であったため、連日ニュース番組で報じられるなど、大きな話題となりました。

本件問題の根本には、行き過ぎた成果主義や、ブラックな管理体制、コンプライアンスの不足など、他の企業にも多く当てはまる問題が介在していました。

こうした不祥事を調査する第三者委員会には、単なる事実究明にとどまらず、二度と同じことが起きないように、効果的な再発防止策を提言することが求められます。

参考文献

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