どこから漏れる?営業秘密の漏えいルート

営業秘密の漏えいルート

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2017年に発表した「企業における営業秘密管理に関する実態調査-調査報告書-」によると、無作為に抽出した12,000社の中でアンケートに回答した2175社のうち、8.6%の企業が過去5年間で明らかな漏えいを経験したという回答が得られたと報告しています。明らかな漏えいを経験したと答えた企業に対して、漏えいが発生したルートについて尋ねたところ、以下のような結果が得られたようです。

  • 1位 現職従業員等のミスによる漏えい(43.8%)
  • 2位 中途退職者(正規社員)による漏えい(24.8%)
  • 3位 取引先や共同研究を経由した漏えい(11.4%)
  • 4位 その他(9.5%)
  • 5位 現職従業員による具体的な動機をもった漏えい(7.6%)
  • 6位 外部から社内ネットワークへの侵入に起因する漏えい(4.8%)
  • 7位 わからない(4.8%)
  • 8位 中途退職者(役員)による漏えい(3.8%)
  • 9位 退職した契約社員による漏えい(2.9%)
  • 10位 外部者の不正な立ち入りに起因する漏えい(2.9%)

この結果より、営業秘密の情報漏えいルートには「現職従業員等」「退職者」「取引先」「外部者」があることがわかります。特に「現職従業員等」による漏えいは「ミスによる漏えい」と「具体的な動機をもった漏えい」を合わせると51.4%となり、過半数を上回っています。

従業員等からの情報漏えいを防ぐには従業員等には、役員や正規社員だけでなく、派遣社員や実習生など自社内に勤務する人を含みます。経済産業省が作成した「秘密情報の保護ハンドブック」には、従業員等からの情報漏えいを防ぐ5つの対策が紹介されています。詳しくは、「企業秘密を守るための5つの情報漏えい対策」でまとめていますのでご覧ください。

今回は、従業員等と秘密保持契約を締結する際の3つのポイントをご紹介します。

対象とする秘密情報の範囲の明確化

よくある秘密保持契約書では対象とする情報を「一切の情報」などと記載することが多いのではないでしょうか。しかし、対象範囲をできる限り特定し、明確にした上で秘密保持契約を締結する方が望ましいと言われています。(単に特定の程度が高ければ良いということではなく、双方の認識が一致する程度に特定されているか否かがポイントです。)

「秘密情報の保護ハンドブック」では、秘密情報を特定する方法を二つ紹介しています。一つめは「〜に関するデータ」「〜についての手順」というように、情報カテゴリーを示すことによって特定する方法です。例えば「新技術Aを利用して製造した試作品Bの強度に関する検査データ」や「新築マンションDに関する顧客情報」というような特定方法です。

二つめは「秘密情報が記録された媒体の名称や番号等により情報を特定する方法」です。例えば、「ラホボノートVに記載された情報」や「書庫で施錠管理されている情報」というような特定方法です。

秘密保持契約を締結するタイミング

一般的には、秘密保持契約は従業員等の入社時・契約時、退職時・契約終了時に締結することが多いと思います。しかし、在職中にも秘密保持契約を締結する方が望ましいと言われています。

例えば、部署の異動時、出向時、プロジェクトの参加時、昇進時等の取り扱う情報の種類や大きく変更されるタイミングでも秘密保持契約を締結することを推奨しています。在職中や退職時に秘密保持契約を締結する際には、対象とする秘密情報の範囲をより明確にすることが可能になるからです。

競業避止義務の有効性について

退職時の秘密保持契約(誓約書)で以下のような競業避止義務について記載することがあります。

「貴社を退職するにあたり、退職後1年間、貴社からの許諾がない限り、次の行為をしないことを誓約いたします。

  • 1)貴社で従事した○○の開発に係る職務を通じて得た経験や知見が貴社にとって重要な企業秘密ないしノウハウであることに鑑み、当該開発及びこれに類する開発に係る職務を、貴社の競合他社(競業する新会社を設立した場合にはこれを含む。以下、同じ。)において行いません。
  • 2)貴社で従事した○○に係る開発及びこれに類する開発に係る職務を、貴社の競合他社から契約の形態を問わず、受注ないし請け負うことはいたしません。」

(「秘密情報の保護ハンドブック-参考資料5 競業避止義務契約の有効性について」より抜粋)

競業避止義務については、退職後の職業選択の自由を侵害する恐れがあります。秘密保持契約を締結したからといって完全に有効なわけではありませんのでご注意ください。

どこから漏れる?営業秘密の漏えいルート:まとめ

営業秘密の漏えいルートは、「現職従業員等」が最も多く、過半数を超えています。従業員等の内部者からの情報漏えいを防ぐためには、様々な方法が考えられます。

中でも、誓約書などを使った秘密保持契約は有効な手段になり得ます。秘密保持契約を締結する場合には、できるだけ対象情報を特定し、在職中にも締結するのがポイントです。秘密保持契約書の参考例については「各種契約書等の参考例」をご参照ください。

さらに、職業選択の自由との兼ね合いから、競業避止義務契約は全ての場合に認められるわけではありません。判例を参考に、適切な内容にすることが求められていますのでご注意ください。

参考文献

「企業における営業秘密管理に関する実態調査」報告書について
秘密情報の保護ハンドブック

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