株式交換と株式移転の違いとは?メリットとデメリットを解説
- 2020/9/29
- 法令コラム
株式交換や株式移転は、企業を再編して新たな展開を構築する際に用いられる手法です。いずれも自社株を代価として進めていきますが、目指すべき方向性は異なります。この記事では、株式交換と株式移転がどのような手法なのかを明らかにしたうえで、そのメリットとデメリットについて解説します。
株式交換とは
株式交換とは、対象とする会社を完全子会社化する際に用いる手法です。どのような方法で進められるのか紹介していきましょう。
子会社の株式をすべて交換する
株式交換は、子会社化するB社のすべての発行済株式を親会社となるA社の株式と交換することで、B社を完全子会社とします。
株式を交換する対価には自社株式を用いるので、手持ち資金がなくても実施することができます。
株主総会での承認を要する
当事会社の経営陣が株式交換に合意すると、両社の株主総会で3分の2以上の承認を受ける必要があります。ただし、すでに対象子会社の株式を3分の2以上取得している場合は、会社間の合意だけで実行することができます。
合意や株主総会により株式交換が決定すると、子会社となる側のすべての株主は、株式の交換に応じる義務が発生します。交換する株式は、会社の規模などにより、1対2といった比率が会社間同士の協議によって決められます。
株式市場などの買い付けによる取得方法では、100%の株式を保有することは不可能ですから、完全子会社化を目指す場合には、株式交換の手法を用いることになります。
株式交換による株主の変化
株式交換では、株主は次のように変化します。
会社の区分 | A社(親会社) | B社(子会社) |
株式交換前の株主 | A社の株主 | B社の株主 |
株式交換時の株主 | 株主は持ち株をA社の株と交換する | |
株式交換後の株主 | A社の株主・元B社の株主 | A社 |
特定の株主を排除することも可能
株式交換の際に、B社の特定の株主をA社の株主から排除したい場合、親会社の株式以外の財産を交付することで、株主の構成を変えることができます。たとえば、対価として現金を交付することで、この株主をA社の株主構成から外すことができます。
株式移転とは
株式移転は、複数の会社が共同で持ち株会社を設立して、それぞれの会社がその傘下に入る場合に用いる手法です。近年では、持ち株会社を「〇〇ホールディング」と命名するケースも増えています。
株式移転について詳しくみていきましょう。
持ち株会社を設立する
株式移転は、複数の会社が共同で持ち株会社を設立して、そこにすべての株式を移転するものです。持ち株会社は対価として株式を交換して、完全親会社となります。
統合による摩擦を避けることができ、時間をかけて融合することができることから、株式移転を選択する会社が増加しています。
株主総会での承認が必要
株式移転に際しては、株式移転計画書の作成、公開を経て、株主総会の承認を得る必要があります。株式交換では、子会社の規模によっては、株主総会を省略することができましたが、株式移転では省略することはできません。
株式移転による株主の変化
株式移転では、株主は次のように変化します。
会社の区分 | A社(子会社) | B社(子会社) | C社(持株会社) |
株式移転前 | A社株主 | B社株主 | 存在していない |
株式移転時 | 株主は持ち株をC社の株と交換する | 株主は持ち株をC 社の株と交換する | |
株式移転後 | C社 | C社 | 元A社の株主・元B社の株主 |
株式交換のメリット
株式交換にはどのようなメリットがあるのかみていきましょう。
現金の準備が不要
株式交換では、子会社の株式の対価として自社株を用いるので、現金の準備はいりません。
完全子会社化が実現する
株主総会で、株式交換が決議されると、強制的に株式が交換されることになるので、100%子会社が実現します。
少数株主がいる場合、経営方針に反対をしたり、経営権の奪取を目論んだりすることがあります。完全子会社が実現することで、経営上の大きなメリットが生まれます。
別法人として運営できる
株式交換後も、親会社と子会社は法律上別法人であるため、従来通りの経営方針にのっとり運営していくことができます。このため、株式交換後も滞りなく事業が進められます。
株式交換のデメリット
それでは反対に、株式交換よるデメリットとして、どのようなものがあるのかをみていきましょう。
株価が下落する可能性がある
完全子会社が上場企業の場合、子会社の収益が赤字であったり、負債を抱えていたりすると、株式交換によって、株価が下落することがあります。また株式数の増加により株価が下落することがあります。
株主比率が変わる
完全親会社の株主として完全子会社の株主が加わるために、株主構成が変わります。このため、既存株主の議決権比率が下がり、同族経営からの脱却を求められることがあります。
手続きが複雑
株式交換においては、株式以外の対価交換をする場合に、債権者の不利益を防ぐために、債権者保護手続きを行います。これは債権者に対して官報による公告と個別の通知を行います。また株主保護のために、株券の提出公告が必要になります。
このため債権者や株主が多い場合には、手続きが煩雑になり、完了までに時間を要することがあります。
株式移転のメリット
つぎに、株式移転では、どのようなメリットがあるのかみていきましょう。
買収資金が不要
持ち株会社は株式を交付することで親会社となるので、買収資金はいりません。経営上の大きな支障を生じることなく、組織の再編を実現できます。
従業員が受け入れやすい
完全子会社化するそれぞれの会社の組織は、従前と変わることなく独立しているために、組織の統合が容易に行えます。
文化や歴史が異なる組織が、親会社の傘下になっても、社風や人事評価は従前と何ら変わることがないので、従業員が戸惑うことがありません。
戦略的な本社機能が構築できる
持ち株会社は、特定の事業の利益にとらわれることなく、戦略的な本社機能を構築することができます。
また持ち株会社のコントロールによって、リスクがグループ全体に及ばないように、リスクの分散や遮断を図る体制を構築することができます。
株式移転のデメリット
株式移転によるデメリットも押さえておきましょう。
株式会社限定
会社法により、株式移転による完全親会社は、株式会社でなければいけないと定められています。近年、合同会社の設立が増加していますが、株式移転による持ち株会社としては認められません。
また完全子会社についても、株式会社以外は認められません。
株価が下落することがある
持株会社は、基本的に製造や販売をすることはありません。グループ全体を統括する本社機能として運営していきますから、管理コストが増加することを市場が嫌い、株価か下落することがあります。
このため、持ち株会社のメリットをしっかりと説明をして、理解を得る工夫が求められます。
株式交換と株式移転の違い:まとめ
株式交換とは、完全親会社化と完全子会社化を目指す際に用いる手法です。親会社と子会社という力関係が発生しますが、会社組織に大きな変化がないことから、スムーズに進めることが可能です。また、この機会を利用して、企業に望ましくない株主を排除することが可能なこともメリットとして挙げられます。
株式移転は、持ち株会社を設立する場合に用いる手法です。異なる複数の会社をグループ化することで、グループ全体に及ぶリスクを最小限にとどめることができるメリットがあります。また持ち株会社のコントロールにより、新規事業への挑戦ができるといったメリットもあります。
いずれも企業再編においては、有力な手法です。ぜひ会社の未来像に適した手法をご検討ください。