個人・法人の自己破産費用が支払えないときはどうしたらよいか?

自己破産費用

自己破産は無料で行える手続ではありません。裁判所の手続の利用には手数料などが発生しますし、手続きを弁護士に依頼すればその報酬も負担しなければならず、数千円・数万円程度の費用負担では済まないからです。

そのため、「破産費用が支払えないために自己破産できない」というケースも実際には少なくありません。自己破産で借金を解決することにはネガティブなイメージを持っている人も多いだけに、「何とか自己破産だけは回避したい」と考えて金策に駆け回っているうちに、資産が完全になくなってしまったということになってしまいがちだからです。

そこで今回は、自己破産する際に負担しなければならない費用と、破産費用が工面できない、支払えないという場合の対処方法などについて解説します。

自己破産にかかる費用

破産手続にかかる費用の合計額は、以下の金額がひとつの目安といえます。

  • 個人の破産手続(同時廃止):数万円~40万円
  • 個人の破産手続(管財事件):約50万円
  • 法人の破産手続:70万円以上(事業規模が大きいほど高くなるといえます)

このうち、数万円で済むというケースは、本人申立てで同時廃止事件となった場合に限られ、かなり稀なケースといえます。したがって、破産によって負債を解決するためには、個人の場合でも30万円~40万円程度、中小企業ではおおよそ100万円程度の費用が必要となるは見積もっておくべきといえます。

お金のない人が破産をするのに、けっこうな費用がかかると感じる人も多いと思いますが、破産手続の費用は、下記のような費目から構成されています。

  • 申立手数料
  • 予納郵券(郵便切手)
  • 官報掲載費用(裁判所予納金)
  • 破産管財人報酬(引継予納金)
  • 弁護士費用

以下、それぞれについて解説を加えていきます。

申立手数料

自己破産の際に必要となる申立手数料の額は下記のとおりです。

  • 破産手続の申立手数料・・・1,000円
  • 免責手続の申立手数料・・・500円

申立て手数料は、破産手続の申し立てを行う際に、収入印紙によって納付します。

なお、法人の破産手続の場合には、免責手続はありませんので申立手数料は1,000円のみとなります。

予納郵券(郵便切手)

破産手続を申し立てる際には、裁判所が債務者・債権者に書面を送付する際に用いる郵便切手などを予納する必要があります。

予納すべき切手の種類・枚数は裁判所によって異なります(同じ地方裁判所であっても本庁と支部では必要となる種類・枚数が異なる場合もあります)が、金額にして数千円分程度の切手が必要となります(債権者が増えると必要な切手も増える場合が多いです)。

申立てを弁護士に依頼した場合には、必要な切手の枚数などはきちんと把握しているので問題はありませんが、本人申立てをする際には、裁判所の売店で破産手続用の切手セットを販売していますので、それを購入するのが最も簡単な方法といえます。

官報掲載費用(裁判所予納金)

破産手続では、破産続きがあったことをすべての利害関係人に知らせたことにするために、官報による公告が行われます。この官報公告にかかる費用も申立人が負担しなければなりません(次に解説する破産管財人報酬に充てられる予納金と区別する意味で裁判所予納金とよばれることがあります)。

官報公告の費用は合計で1万円~1万7000円程度で、予納郵券代の場合と同様に裁判所によって金額が異なります(裁判所によって掲載文のフォーマットなどが異なるためです)。また、免責手続のない法人破産の方が官報公告費用は安くなります。

官報掲載費用の納付は、申立手数料とは異なり現金で「お釣りのないように」納める必要がありますので、本人で申立てを考える場合には注意しておく必要があります。

破産管財人の報酬(引継予納金)

破産手続では、負債や財産の調査だけでなく、破産時に残っている権利関係の清算などさまざまな業務・手続を行う必要があります。そこで、破産手続においては、これらの業務を行わせるために破産管財人が選任されることになります。破産管財人は、非常勤の職で通常はそれぞれの地域の弁護士が選ばれます。

破産管財人が選任される破産事件の場合には、破産管財人の報酬に充てるための金銭を申立人が予納しなければならないことになっています。

官報掲載費用も手続実施に先立って納付するという意味では予納金の一種ですが、「破産手続の予納金」という場合には、破産管財人報酬の引き当てとなる予納金を差すことが一般的です(実務では「引継予納金」とよんでいます)。

予納金の額・支払い方法

引継予納金の額は、それぞれの裁判所が裁量で決められることになっています。一般論としては、破産管財人報酬は、破産事件の難易度に応じて決められるのが最も公平といえますが、実務上は負債額(および債権者の数)に対応して決められるのが一般的です。

東京地方裁判所における予納金の基準額(最低額)は下記の通りです。

負債総額法人個人
5000万円未満70万円50万円
5000万円以上1億円未満100万円80万円
1億円以上5億円未満200万円150万円
5億円以上10億円未満300万円250万円
10億円以上50億円未満400万円(法人・個人を問わない)
50億円以上100億円未満500万円(法人・個人を問わない)
100億円以上700万円(法人・個人を問わない)

引継予納金の納付は、申立て後に裁判所が指定した期日・方法によって一括払いで納付するのが原則です(東京地裁では分納できる場合があります)。

【参考】破産手続開始申立事件に関する予納金等基準表(高松地方裁判所)

少額管財

引継予納金との関係では、「少額管財」という言葉をよく耳にすることがあります。

この少額管財というのは、「引継予納金を少額にする管財事件の特別な運用」のことをいいます。少額管財となった場合の引継予報金の最低額は20万円と設定されている裁判所が多いといえます。

したがって、上の東京地裁のケースで比較すれば、個人の自己破産では少額管財にしてもらうことで予納金は50万円から20万円に減額され、30万円も費用が安くすることができるというわけです。

ただし、少額管財を利用するためには、弁護士に依頼をした上で破産手続を申し立てることが必須となっています。申立人に弁護士の代理人がついていることで破産管財人の業務負担が軽減される(申立代理人が破産管財人業務の一部を代わりに行う)ことが少額管財実施の大前提となっているからです。

なお、東京地方裁判所では、破産管財人を選任する破産事件のほとんどが予納金を20万円とする手続になっているため、たんに管財事件というときにはこの少額管財の方式を指しています(予納金を少額にしない従来型の管財事件を「特定管財」とよんでいます)。

弁護士費用

いまの実務では、破産手続を申し立てる際には、弁護士に依頼して行うのが原則となっています。債務者本人だけで申立てを行うことも不可能ではありませんが、実際には裁判所の窓口などで弁護士に依頼するように強く勧められます。また、本人申立ての場合には、差押え可能な財産がない場合であっても、調査実施などのために管財事件となってしまう可能性が高くなるだけでなく、その場合の引継予納金も高くなってしまいます。

破産事件の弁護士費用は、本人申立ての際の引継予納金額から少額管財となった場合の引継予納金額を差し引いた金額(個人破産30万円~、法人破産50万円~)に設定されている場合が多いので、「費用を節約する」という目的で本人申請をすることにはほとんどメリットがないといえるでしょう。

自己破産の費用が用意できない場合の対処方法

個人や中小企業が破産に追い込まれるケースでは、それまでの間に、借金返済や生活費の支出のためにめぼしい財産のほとんどを失ってしまっているケースも少なくありません。

特に、現在大きな問題となっているコロナ禍を原因とする破産の場合には、「本当に限界まで破産をせずに耐えてしまった」ことで破産費用も工面できない場合も多いのではないかと思われます。

このような場合にはどのようにして破産費用を工面すべきなのでしょうか。

個人の場合 ~法テラスの利用を検討

収入が激減してしまった、あるいは職を失い無収入となってしまったことで自己破産を余儀なくされた場合には、法テラス(日本司法支援センター)が行っている民事法律扶助を利用することで、自己破産の費用(弁護士費用および申立手数料)を立て替えてもらえる可能性があります。

法テラスに立て替えてもらった費用は、立替えの2ヶ月後から毎月1万円(もしくは5000円)ずつの分割返済となりますが、家計状況が悪い場合などには返済の猶予を受けることができます。また、破産手続が終了した段階で生活保護を受給している人については、立替金の返済が免除されます。

民事法律扶助の利用には、一定条件(収入および保有資産が一定額以下であること)を満たしている必要がありますが、下記のページで要件を満たしているかどうかを試算することができます(今後、コロナ禍を原因とする自己破産の急増に対応するために要件を緩和する立法措置がとられる可能性があります)。

民事法律扶助要件確認体験ページ(法テラスウェブサイト)

なお、民事法律扶助では、破産手続の予納金は立替えの対象外となっています(生活保護受給者は予納金も別途申請することで立て替えてもらえます)ので、浪費やギャンブルで多額の借金を抱えてしまった場合などには、差押え可能な財産の有無を問わずに管財事件となる可能性がある(=予納金が発生する可能性がある)ことに注意が必要です。

法人の場合

法人は民事法律扶助を利用することができません。したがって、法人を破産させたいときには、何かしらの方法で破産費用を工面するほかありません。 法人破産の場合には、次のような方法で破産手続に必要な費用を工面するのが一般的といえます。

  • 売掛債権などの未回収金の回収
  • 事業譲渡
  • 法人保有の資産の売却

最近では、小規模事業の売買もかなり積極的に行われていますので、上手に対応することができれば破産手続費用だけでなく当座の生活費を確保できる場合もあるかもしれません。

破産の申立ては余力のあるうちに

しかし、実際の自己破産が申し立てられるケースでは、破産申立てに至る前に、回収した売掛金や資産を売却して得た現金のすべてを事業継続のための資金・借金返済・生活費として使い切ってしまっていて「本当にお金がない」ということも珍しくありません。

実はこのようなケースでは、破産費用を蓄えられるまで申立てを待つほか手段がありません。その意味では、自己破産をはじめとした債務整理は「余力の残っているうちに着手する」のが鉄則といえます。

法人の破産費用を減額させる方法

法人の破産手続費用は個人の場合よりもかなり高額になる場合が多く、特に中小企業の破産では申立ての障害になりやすいといえます。しかし、「費用が高い」ということだけで諦めてしまうべきではありません。中小企業の破産手続は、個人の場合と同等の額まで費用が安くなる余地が残されているからです。

法人でも少額管財を利用できる場合

中小企業の破産事件では、上場企業の破産事件の場合と比べれば、債権者の数も少なく、破産手続で処理すべき契約関係も複雑ではない場合の方が多いといえるでしょう。また、形態としては法人ではあるけれども、その実質は経営者個人の破産事件と同視できるようなケースも多いといえます。

このような場合には、法人の破産事件であっても少額管財を利用できることがあります。

たとえば、東京地方裁判所では、下記の事情がある場合には、会社の法人であっても予納金を20万円とする運用を採用しています。

  • 法人が小規模で経営者個人と同視しても問題がなく、経営者と法人が同時に破産を申し立てた場合(法人併存型)
  • 廃業から長期間経過している等の理由で会社に財産がほとんどない場合(法人単独型)
  • 法人に換価すべき若干の財産はあるものの、予納金を納められるだけの資力があるとはいえない(法人清算型)

法人と経営者が同時に破産を申し立てる

中小企業の場合には、法人が破産する場合には、その経営者も破産しなければならないケースが多いといえます。そのような場合には、法人と経営者の破産を同時に申し立てることで、法人の破産と経営者の破産を「1つの破産事件」として取り扱ってもらえる場合があります。

特に、経営者の主たる債務が法人に対する融資への個人保証であった場合には、経営者と法人の債権者は同一であるわけですから、1つの手続として取り扱ってもらえる可能性はかなり高いといえます。

破産事件を1つとして取り扱う(正確には2つの破産事件を同じ裁判官・破産管財人の下で進行させる)場合には、予納金も1件分としてもらえるのが一般的です。牽連破産を少額管財で進められるのであれば、予納金はあわせて20万円ということになるので、破産の費用を大幅に減らすことができます。

破産費用を工面する際の注意点

負債を破産手続で処理することを検討する場面では、さまざまな支払いに追われ、冷静に対応できないことも多いと思います。また、「どうせ破産するのだから」と自暴自棄になってしまい、誤った対応をしてしまうリスクが生じやすいともいます。

特に、破産費用の工面のために金策をするという場面では、次のような対応に注意する必要があります。これらの対応があると最悪は自己破産できないことにもなってしまいかねないからです。

破産費用を借金して工面してはいけない

「破産したくても費用が支払えない」という場合には、借金をして破産費用を工面することを考える人もいるかもしれません。

しかし、このような方法で破産費用を工面することは非常にリスクの高い対応です。「全く返済していない借金」が残っている状態で破産を申し立てることは、詐欺に問われる可能性がありますし、そのような破産申立ては「破産詐欺」として認められていません。

法律を厳格に解釈すれば、親族などから借金して破産費用を工面した場合にも破産詐欺が成立する可能性もありますので注意しましょう。

財産や事業を処分して破産費用を工面する際の注意点

手持ちの換金可能な財産を処分する方法は、緊急時にお金をかき集める手段としてよく選択される方法です。

しかし、破産手続の申立てを念頭においている場合には、次の点に注意する必要があります。

  • 適正な価格で売却すること
  • 売却して得た金銭を借金の返済に充てないこと

破産者の資産は、債権者に対する配当の重要な原資となるものです。そのため、破産手続の直前に不当に安い価格で売却された場合には、破産管財人によってその売却が否定されてしまう場合があります。

また、資産を売却して得たお金は、破産手続の費用(弁護士費用も含みます)や当座の生活費に充てるのであれば問題はありません。しかし、特定の借金だけの返済に充てられるようなことがあれば、債権者の公平を害する行為として破産手続の中で問題になりかねません。

一部の債権者だけを優遇する返済行為のことを「偏頗弁済(へんぱべんさい)」とよんでいますが、これは破産管財人による否認権行使(簡単に言えば取消権)の対象となってしまいます。

さらに、個人の自己破産の場合であれば、これらの行為があったことは免責判断にも悪い影響を与えるおそれがあります。

会社経営者・社長の破産費用を会社で負担することは可能か?

中小企業の経営者が自己破産する際には、経営者の破産手続の費用を会社の資金で捻出することを考える人も少なくないと思います。特に、連帯保証をしている経営者だけ先に自己破産させ、会社の方は返済を滞納させたまま休眠会社にしてしまうようなケースでは、このような対応がみうけられがちといえます。

しかし、このような対応には問題があるといえます。法律の上では、経営者個人と会社(法人)との資産は明確に区別されていなければならないものだからです。

また、経営者の債権者と会社の債権者が完全に一致していないという場合には、会社の資金から経営者の破産費用を捻出することは、債権者を害する行為に該当するとも考えられます。

このような場合には、上でも触れたように、経営者と法人の破産を同時に申し立てることで、1つの破産手続として取り扱ってもらえるように対応すべきといえるでしょう。

まとめ ~借金問題は早めの相談が何よりも大切

お金に関するトラブルはどうしても他人に相談しづらいものです。実際にも、何も打てる手がない状況になってはじめて弁護士への相談に持ち込まれるケースは少なくありません。

しかし、借金の問題は、早期に(状況が悪くなりきらないうちに)対応をはじめることが非常に重要です。借金の額が少ないうちに債務整理に踏み切れれば、解決のためにさまざまな選択肢を検討することができるからです。

最近では、借金・債務整理の相談は、無料で受け付けている弁護士事務所の方が多いといえます。また、平日夜間や土日の相談対応が可能な事務所も増えていますので、従前に比べれば相談しやすい環境も整っているといえますので、借金の返済に行き詰まってしまいそうな場合には、できるだけ早い段階で弁護士に相談しておくことをおすすめします。

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