企業が防ぎたい「着服」、いったい何の犯罪になる?

ニュースなどで時々目にする「着服」、「他人の金品をこっそり盗んで自分のものにしてしまうこと」という意味の言葉です。「会社員が着服」というと会社のものを自分のものにしてしまう悪いサラリーマンのイメージが思い浮かぶかなと思います。このように着服行為が悪いことである、というのは理解できると思いますが、実は、犯罪としての「着服罪」は存在しません。では、いったい何罪になるのでしょう。

様々な「着服」に関する罪

刑法上で「着服行為」は、業務上横領罪や委託物横領罪、窃盗罪等に該当することが考えられます。

委託物横領罪

まず、委託物横領罪(刑法252条1項)について説明します。

委託物横領罪は、「自己の占有する他人の物」を「横領」した場合に成立する犯罪です。

定義から確認していきましょう。

・「横領」とは、「不法領得の意思を実現する一切の行為」のことをいいます。例えば、売買、贈与、抵当権の設定、費消、着服などが「横領」にあたります。

・「不法領得の意思」とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」のことをいいます。少し難しいですが、大まかに言えば他人から任されたものについての越権行為をする意思です。この不法領得の意思が現れたと認められたときに、委託物横領罪が成立し、処罰されることになります。

・「占有」とは、物に対する事実的支配又は法律的支配をいい、他人の物の占有は委託信任関係に基づくことが必要とされています。

・「他人の物」は、文字通り他人が所有しているもので、動産のみならず不動産も含まれます。

実際に横領罪が成立する場面を見てみましょう。

身近な例でいえば、知人から借りた本を無断で古本屋に売ったり、レンタルしたCDを無断で中古ショップに売ってしまうなどの行為があげられます。物を売るのは、その物について所有権がなければできないことですから、他人の物を無断で売る行為は「不法領得の意思」の発現といえ、委託物横領罪が成立することになります。

また、自分の持っている不動産をAさんとBさんに二重に売却した場合には、売主に横領罪が成立します。これは、不動産の所有権が買主Aに移転しているにもかかわらず、売主にまだ登記が残っていることを利用して、買主Bに不動産を二重に売買したものですが、登記が「法律上の占有」にあたるため、売主は「自己の占有する他人の物」を横領したということになるのです。ちなみに、買主Bは、二重売買であることを知りながら当該不動産を購入し買主から移転登記手続を受けた場合であっても売主と共犯関係にはならず、委託物横領罪の共犯は成立しません。

他方、誤配達された他人宛ての高級食材を食べてしまった場合は、一見委託物横領罪が成立しそうですが、委託信任関係がないので、後で説明する占有離脱物横領罪が成立することになります。

業務上横領罪

次に、ニュースでよく聞く業務上横領罪について説明します。

委託物横領罪と業務上横領罪の違いは、行為の主体が「業務上の占有者」であるかどうかです。業務上の委託信任関係があり、そのうえで横領行為をすると委託物横領罪より重い業務上横領罪(刑法235条)が成立することになります。「業務」とは、委託を受けて物を管理することを内容とする事務のことをいいます。質屋や倉庫業者、職務上金銭を保管する職員などが業務上の占有者の例としてあげられます。

実際に業務上横領罪が成立するケースとして、銀行員が他人の預金を自分の口座に移す場合がよくあげられます。自分の口座に移した時点で不法領得の意思が外部に発現したといえるため、自分の口座から金銭を引き出さなくても業務上横領罪が成立します。

横領罪が成立した最近の裁判例として、郵便局員が切手を持ち出し売却し、その金銭の自己の物にした裁判例(令和3年5月10日東京地裁)や、不動産仲介業者が、賃借人から預かっていた敷金と家賃を自己の物として費消した裁判例(令和3年6月21日札幌地裁)があります。

業務上横領罪は金額が大きい場合が多く、横領したことが公になると、当事者同士の示談で済まず、刑事告訴されるのが一般的です。

さらに、占有離脱物横領罪(刑法254条)という罪も横領罪の一つです。

この罪は、遺失物、漂流物、その他占有を離れた他人の物を横領した場合に成立します。

例えば、ベンチに置き忘れた他人のバッグを自分のものとして持って帰ったり、釣銭を多く受け取ったことに家に帰ってから気づいたものの自分の物にした場合がこれにあたります。

法定刑は、上限が懲役1年となっています。法定刑が他に比べて低いのは、誘惑的要素が大きく抗いにくいため責任が低くなるからといわれています。

窃盗罪

最後に窃盗罪(刑法235条)ですが、横領罪との違いは「自分が占有しているかどうか」という点です。つまり、横領罪は、他人が所有しているが自己が占有しているものを着服した場合に成立する罪なのに対して、窃盗罪は、他人が所有・占有している物を、自己の物にするために盗んだ場合に成立する罪です。

まとめ

会社内で金銭を取り扱う場合はもちろんのこと、金銭に代わるようなものを取り扱う場合においても「横領」すること、されることがないように気をつけなければなりません。自分が知らないうちに横領行為をしている場合もあるため、社内のコンプライアンスを今一度確認し、企業内での犯罪を防ぐ必要があるでしょう。

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