養育費保証サービスを利用する前に知っておくべき重要ポイント

養育費サービス

子のいる夫婦が離婚する際には、子とは離れて暮らす親が養育費を負担するのが原則ですが、実際の離婚においては養育費の未払いが発生することも多いといえます。

養育費保証サービスは、養育費に未払いが生じた場合を担保するための民間事業者によるサービスです。最近では、ZOZO創業者の前澤氏がこの事業に参入することを表明したことや、保証料の補助を打ち出す自治体が現れたことでも大きな話題となっています。

養育費保証サービスは、養育費を受け取る側にとっては、将来の安心につながる魅力的なサービスであるともいえますが、新しいサービスである故に、不測のトラブルなどに巻き込まれる可能性もないわけではありません。 そこで今回は養育費保証サービスの基本的な仕組みや利用する前に知っておくべき注意点などについて解説していきます。

養育費保証サービスの基本的な仕組み

養育費保証サービスとは、離婚の相手方が養育費の支払いが滞らせた場合に、保証会社が代わりにその月の養育費相当額を立て替えてくれるという民間のサービスです。この場合、保証会社は、養育費の支払人に対して保証契約に基づく求償権を行使することで立替金を求償することになります。

養育費保証サービスを利用するメリット

養育費の支払いは、その後の事情変化などを理由に不払い・滞納になってしまうケースが少なくありません。離婚をして単身暮らしに戻ったことや、再婚によって生活費の負担がこれまでよりも重くなるケースは珍しくありませんし、会社都合・病気などの事情で収入が減ってしまうこともありうるでしょう。将来のことは誰にも予測できませんので、受取人としては常に養育費の不払いのリスクを抱えることになってしまいます。

養育費保証サービスは、これらのリスクを相当程度に軽減できるというのが最大のメリットといえます。

また、「養育費の支払いのために配偶者との関係を継続したくない」という場合には、毎月の養育費の支払いを保証会社が行ってくれる事業者もあるようです。

自治体による補助を受けられるケースも

養育費の不払い問題は、国にとっても大きな関心事となっていて、今年(令和2年)6月には法務省と厚生労働省が連携してこの問題に取り組むために「不払い養育費の確保のための支援に関するタスクフォース」が設置されました。

また、地方自治体でも養育費不払い問題を解消にむけて具体的な取り組みを行うところが増えており、大阪市・仙台市などの一部の自治体では、養育費保証サービスを利用する際の保証料負担への補助金を支給しているところもあります。

養育費の保証促進補助金(大阪市ウェブサイト)

養育保証サービスを利用する際の注意点

養育費保証サービスは、養育費の受け取りに不安を感じている人にとっては非常に魅力的なサービスといえます。自治体や弁護士のバックアップがあるケースも増えていて、今後さらに需要が大きくなる可能性も高いといえますが、利用に際しては次の点に注意しておく必要があるでしょう。

保証サービスを利用することについての支払人との合意が必要

養育費保証サービスの利用は、離婚当事者双方がその利用に合意していることが大前提となります。養育費保証サービスは、養育費の支払人と保証会社との間で保証契約を結ぶことが基本となるからです。

しかし、養育費保証サービスを利用すれば、保証料が発生することで支払人の負担はさらに増えることになりますから、「支払人からの理解を得られない」ということも十分に考えられます(なお、支払人に養育費保証サービスの利用を強制できる権利はありません)。

また、養育費保証サービスの利用に際しては、保証会社による審査が実施されるのが一般的ですので、支払人の家計状況や勤務先の業績などの事情によっては、利用したくても利用できないこともあり得ます。

手数料が不当に高額となる場合

養育費保証サービスは新たらしい事業であることから、市場それ自体が十分に熟しているとはいえません。そのため、「保証料の適正額」の見極めも難しく、あるべき額よりも高い手数料を負担させられてしまう可能性がないとはいえません。

また、保証料の支払いが生じて支払人の負担も重くなってしまうことが、逆に養育費の未払いにつながることも考えられますし、受取人が保証料(手数料)を支払う場合には、生活費に充てられる金額が減ってしまうことにもなります。

保証契約が解除される可能性

養育費保証サービスは民間事業者との任意の契約に過ぎませんので、契約が途中で解約になることも考えておく必要があります。

たとえば、養育費の支払人が保証料(更新料)の負担を嫌がって契約を更新しない場合や保証会社が倒産(事業を廃止)することもあり得るでしょう。

また、養育費保証サービスの多くは、月々の養育費の未払いが一定額に達すると保証契約が解除される内容になっています。事業者の中には、2・3ヶ月程度の短期間の未払いでも解約となりうるケースがあるようです。短期間で保証契約が解除されるようでは、養育費保証サービスを利用するメリットも大幅に減ってしまいますので、事前に契約内容をしっかり確認しておくべきといえるでしょう。

養育費保証サービスをめぐる法的な課題

養育費保証サービスは、近年サービスが開始されたばかりの新しい事業です。そのため、今後利用者が予測しないトラブルが発生する可能性もないとはいえません。

また、法律的な側面でも議論の余地が残されている点もあり、2020年の7月には日本弁護士会連合会は全国の単位弁護士会に対して、養育費保証サービスが弁護士法に違反している可能性があることについて注意を促す文書を発信しています。 現在、弁護士法との関係で問題とされているのは、次の2つの場合です。

養育費保証サービスの実態が「債権の取立て」に過ぎないケース

他人の権利を譲り受けた上で回収することを業務とすることができるのは原則として弁護士のみです(弁護士法73条:法律が認めている例外としては、認定司法書士やサービサーによる債権回収が挙げられます)。

弁護士法73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない。

養育費保証サービスは、契約の実態によっては、この弁護士法73条に抵触する可能性があります。 たとえば、次のようなケースでは、「保証サービス」というのはたんなる名目に過ぎず、実質は養育費の取り立て代行にほかならないと評価できる可能性もかなり高いからです。

仮に支払人からの回収を事業者が依頼した弁護士が行っているという場合であっても、名義貸しや非弁行為の有償周旋に該当し、弁護士法72条違反と判断される可能性もあります。

  • 養育費の支払人が契約当事者となっておらず、受取人と事業者の2者で契約が交わされている場合
  • すでに滞納した養育費についても事業者が立替払いを実施した上で支払人から回収する場合

もっとも、判例は、事案が形式上は弁護士法73条に抵触する場合であっても、「権利の譲受の方法・態様、権利を実行する者の業務内容や実態等からみて、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合」には違法性が阻却されることも認めている(最高裁平成14年1月22日判決判例時報1775号46頁)ので、上記のようなケースでも弁護士法違反とはならない余地は残されています。

したがって、法律上の議論としては、個々のケース(契約の実態)に応じて違法性が判断されるということになりますので、養育費保証サービスを利用する際には、契約の内容を慎重に判断し、わからないことや不審な点があるときには、客観的な立場で判断できる弁護士などの助言を得ておくことが望ましいといえます。

保証会社が養育費についての交渉・文書作成に関わるケース

養育費保証サービスには、付帯サービスとして養育費の取り決めについての文書作成や、養育費についての交渉の代行などの付帯サービスを行っているところもあるようです。

しかし、これらの付帯サービスは弁護士法72条(非弁行為の禁止)に抵触する可能性があります。仮に、これらの付帯サービスが無償であったとしても、有償の養育費保証サービスと一体的・連続的に行われる以上、全体として有償のサービスであると判断すべきだからです。

養育費に関する交渉や離婚条項の作成は「法律事務」に該当するものなので、弁護士以外の者が業とすることは認められていません(弁護士法72条)。

弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

弁護士法違反が疑われる業者と関わるリスク

弁護士法に違反する業者と関わった場合でも、利用者が罪に問われるようなことはありません。その意味で、養育費保証サービスの利用者としては、仮に業者が弁護士法に違反していても養育費をきちんと保証してくれれば(支払ってくれるなら)問題ないと考える人もいるかもしれません。

しかし、日弁連が注意を促す文書を発信したことは、今後の養育費保証サービスに大きな影響を与える可能性があります。

たとえば、上で紹介した自治体による補助金制度も見直しとなる可能性もかなり高いといえます。コンプライアンス(法令遵守)の観点からは、違法である可能性のある事業に補助金を交付することは避けるべきといえるからです。

また、弁護士としても、日弁連が注意を促している以上、養育費保証サービス事業者との関わりには慎重にならざるを得ません。非弁行為と提携すれば、業務停止などの懲戒処分の対象となるリスクを抱えることになるからです。

そのような状況が拡がれば、事業者に契約途中で養育費保証サービスから撤退されてしまう可能性が高くなるだけでなく、「短期間での荒稼ぎ」を考える悪質業者が増加するリスクも大きくなってしまうと可能性も高まってしまいます。同種の手口である給与ファクタリング業者には、ヤミ金業者(違法業者)が関わっているものも多いことを念頭におけば、今後養育費保証サービスにこれらのヤミ金業者が参入してくる可能性もかなり高いといえるからです。

給与ファクタリングに要注意!従業員へ周知すべきお金のこと

養育費保証サービスを利用する前に知っておくべき重要ポイント:まとめ

養育費保証サービスの利用は、養育費の受取人としては大きな魅力を感じるサービスではありますが、本文中で解説したように、問題点が全くないというわけではありません。その意味では、「別れた配偶者との関係を絶ちたいから」といった安易な気持ちでサービスを利用することはリスクの方が高いといえます。

そもそも、養育費の確保という重要な問題を民間のサービス(の自由競争)に委ねることの是非についても、今後慎重議論を重ねる必要があるでしょう。現状では、明確なルールが設定されているわけではありませんので、養育費保証サービスを利用する際には、わからないことなどはそのままにしておかずに、弁護士などの第三者からの助言を得るなどの対応をとるべきといえます。

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