オンライン紛争解決(ODR)とは
- 2020/12/2
- 法令コラム
我が国の訴訟件数は欧米に比較して少ないのですが、近年弁護士の数が増加しているにもかかわらず地方裁判所や簡易裁判所の訴訟件数は10年前の約半分に減少しています。
しかし、弁護士会や消費生活センターなどへの相談件数は過去10年間大きく変化していないことから、法的トラブルが減少している訳ではなく、費用面などで弁護士には相談しない、あるいは法的な対処方法が分からないなどの理由で泣き寝入りしているケースが多数存在していると考えられます。
また、インターネットの普及によって企業はビジネス活動をFace to Face方式からITの活用にシフトし、消費者はモノやサービスを実店舗ではなくEコマースによって入手し、さらに他人との交流の場としてSNSを選択するという、経済及び社会活動の変化の中でトラブルや紛争の解決手段の在り方にも変革が求められています。
今回はこのような現状や時代変化を背景として登場してきた「ODR」について詳しく解説します。
ODRとは
ODR(Online Dispute Resolution)とは、裁判によらないオンラインでの紛争解決手段のことです。 ODRの考え方を説明するために、ODRに先駆けて政府が推進してきた「ADR」について簡単に触れておきます。
ADRとは
ADR(Alternative Dispute Resolution)は、裁判外紛争解決手段と呼ばれる裁判に代わる代替的な紛争解決手段のことで、この中にODRも含まれています。
ADRを行う手法を大きく分けると、次の3つの種類があります。
1.あっせん
- 当事者同士による自主的な解決を目的とする
- あっせん委員は1人でも手続きが可能
- 解決方法は当事者が「和解契約書」に調印する。但し、強制力は無い
※強制執行を求める場合には、改めて訴訟を行わなければなりません。
2.調停
- 調停委員会が当事者に働きかけ紛争解決を目指すとともに、必要に応じ調停案を提示する。(拒否は可能)
- 3名の調停委員が合議により手続きを行う
- 解決方法は当事者が「調停書」に調印する。但し、強制力は無い
※強制執行を求める場合には、改めて訴訟を行わなければなりません。
3.仲裁
- 仲裁委員が裁判所に代わり判断を下す
- 3名の仲裁委員が合議により手続きを行う
- 解決方法は仲裁委員による「仲裁判断」で、確定判決と同様の効力を有する
※強制執行を行うには「裁判所の執行判決」が必要です。
ADRは本来オンラインを前提とした手段ではありませんでしたが、海外に比べて遅れている「司法分野のIT活用」を強力に推進する政府方針にも後押しされ、オンラインによるADR=「ODR」がADRの主役に躍り出たのです。
ODRのメリット
オンライン上で裁判外の紛争解決手続きを行う具体的なメリットには、次の6項目があげられます。
1.当事者の所在地に影響されない
オンライン上で実施するため、国際間の紛争など当事者が異なる地域にいる場合でも相談や紛争解決手続を実施することができます。これによって移動にかかる時間や費用が不要となります。
2.時間や曜日などに拘束されない
オンライン上の相談や調停なので、関係者が合意すれば休日や夜間であっても対応が可能になります。
3.面会交流を拒否したいケースにも有効
DVなどの事件で当事者の一方、あるいは当事者同士が面会したくない場合にもオンライン調停は有効と考えられます。
4.IT&AIの活用により障害者や外国人にも利用できる
ITやAIを活用すれば心身の障害がある人や言語の異なる外国人等も利用することが可能となります。
5.関係機関の業務の効率化が図れる
各種の相談機関やADR業務を行う機関などの業務効率化も期待できます。
6.新型コロナや災害対策にもなる
実際に対面しないオンライン方式は、新型コロナのような深刻な感染症への対策や、大規模災害等の移動困難なケースにも有効です。
弁護士法との関係について
ODRの普及には関係法令、特に「弁護士法第72条」及び「ADR促進法第28条」について考える必要があります。
< 弁護士法 >弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
上記のように、第72条では弁護士以外が報酬を得る目的で法律事務を行うことを禁じていますが、後段の但し書で「他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」と例外を定めています。
ADR促進法第28条には、報酬を得て紛争解決手続の業務を行うODR活動の根拠となる規定があります。
< ADR促進法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律 >認証紛争解決事業者(認証紛争解決手続における手続実施者を含む)は、紛争の当事者又は紛争の当事者以外の者との契約で定めるところにより、認証紛争解決手続の業務を行うことに関し、報酬を受けることができる。
これらの法律は報酬を得て紛争解決するという点では同じですが、業務内容が「法律事務」であるかどうかが大きく異なっています。
つまり、ODRは弁護士などが法律業務を行う手前の段階で、紛争解決を目指す手段なのです。
紛争解決の5段階
一般的な紛争解決は、紛争発生から最終手段の訴訟に至るまでのフローを5つのフェーズに分類することができます。
各フェーズにおけるODRの活動が弁護士法第72条違反に該当するかどうかは、政府のODR活性化検討会が発表した「ODR 活性化に向けた取りまとめ」において見解がまとめられています。
1.検討フェーズ
「検討フェーズ」とは、紛争発生後に当事者がどのように行動すれば良いのか情報を収集し、有効と思われる解決手段を検討する段階です。
< ODR活性化検討会の見解 >2.相談フェーズ
相談フェーズとは、当事者が各種相談機関に紛争の解決方法などについて相談する段階です。
< ODR活性化検討会の見解 >また、相談業務対応の補助として、IT・AIによる支援を受けることについても、相談対応者ないし相談機関が最終的な責任主体として相談業務を行うのであれば、許容されるものと考えられる。
3.交渉フェーズ
交渉フェーズとは、当事者同士が紛争解決に向けて任意に交渉する段階です。
< ODR活性化検討会の見解 >4.ADR フェーズ
ADRフェーズとは、中立公正な調停人の関与の下で紛争解決を図るADR段階です。
< ODR活性化検討会の見解 >5.民事訴訟フェーズ
民事訴訟フェーズとは、ADR/ODRの範囲を超え裁判で紛争解決を図る段階です。
オンライン紛争解決(ODR)とは:まとめ
インターネットの普及によって紛争やトラブルは国や地域を超え、当事者も個人間、個人と企業、企業間とボーダレスになってきています。その中でITやAIを活用しオンラインでスピーディな紛争解決を目指す「ODR」への期待は非常に大きなものがあります。
今後「ODR」は「民事裁判手続のIT化」と共に、我が国の民事紛争解決システムの両輪をなす存在として、さらなる環境整備と利便性の向上が望まれています。