なぜ接待がダメ?国家公務員倫理規程とは
- 2021/3/17
- 法令コラム
国民が終息の見えないコロナ禍に苦しむ中、総務省や農林水産省の幹部職員が倫理規程に違反する接待を受けていたことが、連日のように報道されています。倫理規定に違反していることが、ひとつの争点になっていますが、それではなぜ国家公務員が利害関係者から饗応( きょうおう )を受けてはいけないのでしょうか。この記事では、国家公務員が接待を受けることによって生じる問題点を明らかにするとともに、それを禁じた国家公務員倫理規定について解説していきます。
国家公務員倫理規程とは何か
放送事業会社である東北新社側から高額な接待を受けていた総務省の幹部11人が、利害関係者からの接待や金品の受領を禁じた国家公務員倫理規程に違反したとして減給などの懲戒や、訓告の処分を受けました。
そもそも倫理規定で利害関係者からの接待を禁じているのは、単に国家公務員が私腹を肥やすという問題だけでなく、国民の生活に大きな弊害を及ぼす事態にもなりかねないからです。なぜ、国家公務員が接待を受けることが許されないのか、その理由を知るために、接待の禁止を規定している国家公務員倫理規程をひも解いていきましょう。
なぜ国家公務員倫理規定が設けられたのか
国家公務員倫理規定は、2000年に施行された国家公務員倫理規程法に基づき制定されたものです。
本来、利害関係者による接待は、新たに法律を立ち上げなくても、収賄罪を規定した既存の刑法によって規制できるはずでした。ところが、1998年~99年に、大蔵省官僚の接待汚職事件が世間を大きく騒がせ、これが国家公務員倫理規程法を制定する大きな要因となりました。当事の官僚は「100万円以下の接待であれば、収賄罪は適用されない」という感覚だったのです。
国家公務員倫理規程法では、国家公務員が遵守すべき事項が定められ、公務に対する国民の信頼を確保することを目的として、国家公務員倫理規定が設けられました。
国家公務員倫理規定でどのような行為が禁止されているのか
倫理規程では、国家公務員が、許認可等の相手方、補助金等の交付を受ける者など、国家公務員の職務と利害関係を有する者(利害関係者)から金銭・物品の贈与や接待を受けることを禁止しているほか、国の補助金や経費で作成される書籍等、国が作成数の過半数を買い入れる書籍等について、国家公務員が監修料等を受領することも禁止しています。
具体的には次のような行為が、禁止されています。
- 金銭、物品または不動産の贈与を受けること
- 金銭の貸付けを受けること
- 無償で物品又は不動産の貸付けを受けること
- 無償でサービスの提供を受けること
- 未公開株式を譲り受けること
- 供応接待を受けること
- 一緒に旅行、ゴルフ・遊技(麻雀など)をすること
- 利害関係者に要求して、第三者に対して1~7の行為をさせること
倫理規定において、「職員は、自己の飲食に要する費用が1万円を超えるときは、倫理監督官が定める事項を倫理監督官に届け出なければならない」とされています。つまり、割り勘をした場合、自己負担が5千円を超えれば、届出が必要になります。
総務省の幹部らがNTT側から接待されたと報じられた問題で、責任を問われた総務審議官は、参議院予算委員会において、会食で支払ったのは5千円だったと答弁をしています。会食した飲食店のコース料理は多くが1万円以上であることは、後に明らかにされましたが、この「5千円」発言は、まさに倫理規定を念頭においたものなのです。
なぜ国家公務員は接待をうけてはいけないのか
国家公務員法第96条では「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務すること」と定められています。つまり特定の個人、法人へ尽くすのではなく、国民全体の奉仕者でなければならないのです。
また公務員の給与は、私達の税金を原資としています。税金は、納税者が不満を抱え込まないように、公正な運用をしていくことが常に求められています。このため、自己破産をした場合でも、税金に対する負債はけっして免除されることはありません。
一方で、国家公務員には、強大な許認可権があります。許認可には、明確な基準がある一方で、官僚の裁量に委ねるところも少なからずあります。接待をする業者は、そこに縋りつこうとしているのです。
業者が接待をする目的は、この許認可を得ることに他なりません。ところが、接待を受けた大臣経験者や総務省幹部は、「仕事の話はでなかった」と口を揃えます。しかし、この接待費は会社の経費として支出されたものなのですから、そのような言い訳は通用するはずがありません。
世論の疑念が深まる中、高額な接待をした東北新社が、放送法の外資規制に抵触することが報じられました。放送法の外資規制とは、基幹放送業務について、外国資本等の議決権における保有比率の制限があり、20%以上になると外資規制に違反します。
東北新社が2017年1月24日に総務省からBS4K放送の認定を受けた後の同年3月31日の有価証券報告書には、外資比率が21.23%だったと記載されています。
外資規制を超えた場合、放送法第103条第1項で、「外資規制に反することになった時、その認定を取り消さなければならない」と定められています。しかし、その後、4年間にわたり東北新社への認定は取り消されておらず、今回の問題が浮上して、ようやく取消しへの運びとなりました。
接待との因果関係は皆無だとしても、こうした対応の緩さは、高額の接待による「効果」があったのではないかと、勘ぐられても、やむを得ない事態にまで陥っているのです。 公開されたルールによって、許認可を受けたり、指定業者として指名されたりすることで、初めて税金が公正に使途されたことになります。しかし、ここに接待をした業者が参入し、許認可を得ると、根本の公正性が揺らいでしまうため、国への信頼を大きく損ねることになるのです。
高額の接待は収賄罪が成立する
そもそも高額な接待を受けること自体が、論理規定といった、いわば内輪のルールに収斂されて済まされる問題ではなく、収賄罪という犯罪に該当する行為なのです。
収賄罪は「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、またはその要求もしくは約束をしたとき」に成立します。この場合5年以下の懲役に処すると定められています。また職務に関する頼み事をされた場合、刑罰が重くなり、1月以上7年以下の懲役が科されることがあります。さらに、公務員が不正な行為をした場合には、刑罰が重くなり、1年以上20年以下の有期懲役となり得ます。
ただし、明らかに収賄罪に該当するケースであっても、賄賂の金額が少ない場合には、検察が起訴しないことがあります。総務省幹部への接待の総額は約60万円と報じられていますが、過去の事例からすれば、この金額では起訴されない可能性が高いと考えられます。 しかし、接待の金額が、一定額に及ばないからといって、許されるものではありません。地方の事例をみていきましょう。
地方公務員だと懲戒免職の可能性もある
同じ公務員でも国家と地方では、司法の扱いに大きな格差があります。地方公務員においても、汚職事件が報じられることがありますが、今回の接待問題のように、料亭やバーで接待を受けたことで収賄罪として逮捕、起訴されるケースは少なくありません。その結果有罪になれば、確実に懲戒免職処分となります。
また逮捕までに至らなくても、接待問題と同様の事態が明らかになった場合には、減給や訓告といった軽い処分で済まされることは、まず考えられません。状況によって軽重こそあれ、少なくとも数日から数カ月の停職処分が下されることになります。
こうしたことからも省庁の幹部がいかに厚遇されているかが分かります。知らぬ間に特権意識が身に付いた彼らにとって、国家公務員倫理規定は、守るべき規範ではなく、弁明のための指針にすぎないのです。
なぜ接待がダメ?国家公務員倫理規程とは:まとめ
国が制度を運用していくうえで、最も大事にしなければならないのが公正さです。現在の社会では、絶え間なく競争が繰り返されますが、公正なルールの下での競争であれば、敗者は勝者を称えて、再び次のチャレンジに備えることができるのです。
しかし、「李下に冠を正さず」のことわざが示すように、紛らわしい行動をしていれば、国民の信頼を失うことは明白です。
もはや国家公務員に対する信頼は回復不能とも思われる地点まで足を踏み入れてしまった感も否めません。公正な社会を取り戻すために、今一度、国家公務員倫理規程の原則に立ち戻ってもらいたいところです。