青色発光ダイオードの事例から学ぶ!企業がとるべき3つの対策

青色発光ダイオードの事例から学ぶ!企業がとるべき3つの対策

各種照明装置や電光掲示板などに使われる発光ダイオード(LED)は、私たちの生活に欠かせない技術です。一方でフルカラー表示に欠かせない三色(赤・緑・青)の発光ダイオードのうち、特に青色発光ダイオードは、かつて開発特許をめぐる訴訟でも大きな話題になりました。今回は、その青色発光ダイオードの事例から企業が学ぶべき教訓について説明します。

青色発光ダイオード裁判について

青色発光ダイオード裁判とは、青色発光ダイオードの製造に関連する特許(404特許)をめぐって日亜化学工業株式会社と中村修二氏の間で争われた裁判です。「青色発光ダイオードのトップメーカー」である日亜化学工業を元社員である中村氏が訴えた事件は、「職務発明」をめぐる裁判として当時の社会の注目を集めただけでなく、その後の特許法改正論議にも一定の影響を与えたと考えられています。

「職務発明」というのは特許法第35条1項にある制度です。規定によれば、従業員が業務として行った発明は職務発明となり、使用者(企業など)が「その特許権について通常実施権を有」します。また(訴訟当時の)同3項では「職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ」た場合は、発明者が「相当の対価の支払を受ける権利を有する」とされており、この規定も青色発光ダイオード裁判に深く関わることになりました。

中村氏が裁判で主張したポイントは、
「404特許が職務発明ではない(つまり権利が会社にではなく自分にある)」こと、
「特許を受ける権利を会社に譲渡した事実はない」こと、
さらにこれらが認められない場合として、特許法第35条3項に基づき「発明の譲渡に対する金銭補償を請求する」ことの3点です。

裁判の流れと社会に与えた影響

2001年8月に東京地方裁判所で始まった裁判は、まず一審の中間判決が2002年9月、終局判決が2004年1月に出されました。実際の判決文はLegalSearchから確認できます(「東京地方裁判所 平成13(ワ)17772 平成14年9月19日」および「東京地方裁判所 平成13(ワ)17772 平成16年1月30日」)。

中間判決では、主に日亜化学工業の主張が認められました。つまり404特許が職務発明にあたること、さらに会社側に権利が譲渡されていることの2点が認められたのですが、それを受けた終局判決では発明の対価として「604億円」という驚くような金額が提示されたため(会社に対する支払い命令は約200億円)、日亜化学工業はもちろん、社会にも大きな衝撃を与えました。

なお裁判は控訴審に持ち込まれましたが、2005年1月に双方が和解勧告を受け入れたため最終的な判決は出ていません。ちなみに東京高等裁判所による和解勧告では、日亜化学工業が中村氏のすべての発明に対する対価として「6億857万円(延滞損害金を加えて約8億円)」を支払うこととされており、一審より補償金額が大きく減額されたことも話題を呼びました。

職務発明に関して企業がとるべき対策

では青色発光ダイオード裁判のような訴訟のリスクを避けるために、企業はどのような対策をしておくべきでしょうか?

第一に考えられるのは、企業と社員との間で「ルールを明文化しておく」ということです。ある社員が職務上行う発明について、発明者と企業のどちらが特許を受ける権利を有するか、発明者が特許を取得する場合は実施料をどうするのか、権利を企業に譲る場合は対価をいくら支払うかなど、職務発明に関連する具体的なルールを取り決め、あらかじめ双方で合意しておくことが肝心です。

第二に、「一度決めたルールを定期的に見直す」ことも挙げられます。同じ職務発明でも、入社したての新人研究者と長年会社に尽くしてきたベテラン研究者とでは事情が異なります。特に高い発明スキルを持つ社員の場合、競合他社からの引き抜きを防止する観点からも、本人がより満足できる条件を提示することが大切でしょう。

第三は「弁理士や特許に強い弁護士といった専門家と密に連携する」ことです。社内に法務部を持つ企業では、法務部の中の知的財産担当者が特許申請などを取り扱うケースが多いと考えられます。しかし競合会社に対抗しうるクレーム(請求項)を書くことはもちろん、社内の発明者との間で将来起こりうるさまざまな問題を事前に解消しておくうえでも、法的な専門知識とセンスは欠かせません。また専門家との連携は、事業に対する発明者や個々の職務発明の貢献度を測定したり、職務発明の譲渡を受ける際の「相当の対価」を決定するうえでも重要です。

日進月歩の先端技術を扱う企業にとって、職務発明をめぐるトラブルは決して他人事ではありません。手間と時間と費用のかかる訴訟を未然に防ぐためにも、早めに対策しておくことをおすすめします。

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