課徴金減免(リニエンシー)制度とは?独占禁止法の規定やデメリットなどを解説
- 2023/1/11
- 法令コラム
2022年12月1日、大手電力会社の中部電力、中国電力、九州電力は、カルテルを理由に課徴金納付命令に関する通知書を受け取ったと発表しました。関西電力もカルテルに参加していたものの、最初に違反を申告したため、課徴金減免制度により課徴金の納付を免れるとみられています。
この記事では、「この制度は裏切り・抜け駆けのようでずるいのではないか」「そもそも課徴金減免制度とは何か」といった疑問を解消します。記事の後半では課徴金減免制度の事例を紹介します。
課徴金減免制度については、独占禁止法の改正により2020年12月25日から新たなルールが施行されているため注意が必要です。
課徴金減免(リニエンシー)制度とは?
課徴金減免(リニエンシー)制度は、事業者が自ら関与したカルテルや入札談合について、その違反内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合に課徴金が減免されたり、刑事告発を免れたりするというものです。
課徴金減免制度は2006年に導入され、2022年現在は独占禁止法7条の4により規定されています。
公正取引委員会の調査開始日前に申請した場合、申請のタイミングが早い順に100%(1位)、20%(2位)、10%(3位~5位)、5%(6位以下)の課徴金が減額(免除)されます。それに加えて、協力度合いに応じた割合が減額されます。
出典:公正取引委員会ホームページ(https://www.jftc.go.jp/)
2022年12月現在、課徴金減免制度の対象はカルテル・入札談合に限られる点に注意が必要です。
カルテルについての解説はこちらの記事を参照してください。
https://legalsearch.jp/portal/column/cartels-trusts-concerns/
談合についての解説はこちらの記事を参照してください。
https://legalsearch.jp/portal/column/why-collusion-is-not-good/
課徴金とは?
課徴金とは、独占禁止法に違反する行為をした者に課される行政上の措置です。1977年改正により初めて導入されました。
公正取引委員会は違反者に対して課徴金納付命令を行い、違反行為により不当に獲得した利益を取り上げ、制裁を科すことにより違反行為の防止を図ります。
公正取引委員会の発表によると、2019年9月30日時点で1事件の最高額は約398億円、1社に対する最高額は約131億円となっています。冒頭で紹介した大手電力会社3社が納付する課徴金の総額は総額1000億円強とみられているので、実際に納付命令が出ればこれが過去最高額となります。
公正取引委員会の役割や独占禁止法の目的・全体像についてはこちらの記事を参照してください。
https://legalsearch.jp/portal/column/fair-trade-commission/
課徴金減免制度の目的
課徴金減免制度の目的は、違反行為の抑止と発見にあります。カルテルや入札談合は密かに行われることが通常なので、独占禁止法に違反する行為があったとしても摘発が困難です。
そこでカルテルや入札談合に対して厳格な課徴金を課しつつその減免制度を設けることにより、カルテル破りを誘い発覚の可能性を高め、さらには将来のカルテル抑止を図ります。
従前の課徴金減免制度においては一定の要件を満たせば一律の減免を受けられるため、それ以上の協力(公正取引委員会の調査への情報提供など)が期待できないことが問題であるといわれていました。
そのため2020年施行の独占禁止法改正により、公正取引委員会の調査への協力度に応じてさらに課徴金が減免されるようになりました。
課徴金減免制度のメリット・デメリット
では、課徴金減免制度にはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
課徴金減免制度のメリット
すでに課徴金減免制度の目的として説明したように、カルテル・談合が発覚しやすくなり、さらには事前に抑止することができることがメリットであるといえます。
導入された2006年以降、課徴金減免申請件数は増加しており、実際にカルテル・談合の発覚に役立っていると考えられます。
また、カルテルや談合を報告した者に対して公正取引委員会の調査に協力することを求めることで、事実認定が容易になることが期待されます。
課徴金減免制度のデメリット
この制度を利用することにより課徴金が減免されるため、カルテルや談合を行うコストが低下し、かえって違反行為が行われやすくなってしまうおそれが指摘されます。
さらに、カルテルや談合において「合意に反する場合には公正取引委員会に報告する」と脅すことによって、既に存在するカルテルや談合をより強固なものにしてしまうとも考えられます。
課徴金減免制度が用いられた事例
以下では、実際に課徴金減免制度に基づき自主的な申告が行われた事例を紹介します。
<五輪テスト大会の入札談合>
東京オリンピック・パラリンピックのテスト大会に関連する業務の入札において、大手広告会社による受注調整が行われていたとの疑惑が生じました。
テスト大会における実施計画の立案等の業務について計26件の入札が行われ、電通を含む広告会社など9社と1つの共同企業体が落札しました。
この談合に参加していたとみられる大手広告代理店のADKマーケティング・ソリューションズは、公正取引委員会に談合を自主申告していたことが2022年11月末に判明しました。
<鋼板の価格カルテル>
建材用亜鉛めっき鋼板の価格カルテルをめぐる事件で、日新製鋼、淀川製鋼所、日鉄住金鋼板の3社が刑事告発され、2009年には日新製鋼と淀川製綱所に1億8000万円、日鉄住金鋼板に1億6000万円の罰金が言い渡されました。
JFE鋼板もカルテルに関与していましたが、調査前に違反を申告したため、課徴金減免制度により課徴金の全額が免除されました。
課徴金の免除のみならず、JFE鋼板やその従業員は刑事告発も免れました。
<医薬品卸の入札談合>
独立行政法人である地域医療機能推進機構(JCHO)が発注する医薬品の入札において、医薬品卸大手であるアルフレッサ、東邦薬品、スズケンが入札談合を行っていたことが判明しました。
2022年3月末、公正取引委員会は3社に対して総額4億2385万円の課徴金納付命令と再発防止を求める排除措置命令を出しました。
同じく医薬品卸の大手のメディセオも談合に関与していましたが、最初に談合を申告したため、課徴金減免制度により課徴金を免れ、その他の処分も受けませんでした。
まとめ
・課徴金減免制度は、違反行為(カルテルや入札談合)を公正取引委員会に対して自主的に申告した場合に課徴金を減免する制度です。
・課徴金減免制度には、カルテルの発覚を容易にし、ひいては事前にカルテルの成立を抑止する狙いがあります。
・課徴金減免制度は、独占禁止法の改正により2020年末から新たなルール(条文の変更や公正取引委員会の調査への協力度に応じた減免など)が施行されているので、最新の情報を確認する必要があります。