大手企業が取り組むIPランドスケープとは

IPランドスケープ

近年日本では、大手企業を中心に知的財産の情報を経営戦略に活かす「IPランドスケープ」という取り組みが広がりを見せています。今回の記事では、そんなIPランドスケープの定義や具体的な活用方法などを解説します。

IPランドスケープとは

はじめに、IPランドスケープがどのような手法であるかを簡単にご紹介します。

IPランドスケープの定義

IPランドスケープ(Intellectual Property Landscape)とは、「自社や他社の知的財産および市場を統合的に分析し、そこから得られた情報を経営戦略に役立てる手法」を意味します。

具体的には、おおよそ下記の流れでIPランドスケープを進めます。

  • 知財の専門家が特許マップの作成などにより、他社による技術開発の動向を分析
  • 分析の結果から自社の注力すべき分野や、新製品開発などに役立つ情報を洗い出して整理
  • 図表などのツールを使って、経営陣に対して意思決定に役立つ情報を提供

知財調査との違い

他社の知的財産を調査・分析するという点では、従来より日本の企業が行っていた知財調査と共通しています。しかしIPランドスケープと知財調査には、以下の違いがあります。

 知財調査IPランドスケープ
目的知財を取得するための戦略を策定すること経営陣や経営企画部門に対して、事業の戦略策定に役立つ情報を提供すること
活用する情報知的財産に関する情報知財の情報、市場(競合他社や顧客など)の情報

つまりIPランドスケープは、従来の知財調査をさらに発展させたものであると言えます。

IPランドスケープをめぐる日本の動向

日本でも2017年頃から、IPランドスケープの活動が活発化しています。2020年12月には、旭化成やトヨタ自動車、ブリヂストンといった大手企業の知財部門長が発起人となって、「IPL推進協議会」が発足されました。

今後IPL推進委員会では、企業によるIPランドスケープの先進的な取り組みや、発展途上にある会社が抱える課題を紹介し合うことを通じて、日本企業におけるIPランドスケープの定着を促進するとのことです。

IPランドスケープの具体的な活用方法

IPランドスケープの取り組みは、具体的に下記2つの方面で活用できます。

新規事業・新製品の開発

IPランドスケープを行えば、自社の保有する特許を最大限に活かせる新規事業や新製品の開発を実現できます。

具体的には引用・被引用情報を基に、自社が保有する特許を他の事業分野や新製品に転用できないかを検討します。引用・被引用情報とは、簡単にいうと特許の審査に際して審査官が参考とした先行特許や技術を指します。

第三者の視点で自社の技術と関連性がある分野を洗い出せるため、自社のメンバーだけでは発想し得ないような事業や新製品の分野を検討できます。

M&A・アライアンス先の開拓

自社に最適な買収やアライアンス先を発見する目的でも、IPランドスケープは役に立ちます。たとえば特許データベースを参照すれば、自社の成長戦略や想定するシナジーに合致する技術を持つ企業をピンポイントで絞り込めるでしょう。

一般的な企業データベースには記載されていないスタートアップ企業の情報も収集できるため、より自社事業との相性に優れた相手を見つけ出しやすくなります。

IPランドスケープを成功させるポイント(課題)

IPランドスケープはまだまだ発展途上の手法であるため、実施にあたってはいくつか課題もあります。活用して成果を残すには、以下にあげた3つのポイントを意識することが大切です。

実施する目的を明確にする

IPランドスケープは、「経営やマーケティングの意思決定に役立つ情報を提供すること」が最大の目的です。目的を定めずに知的財産の調査を行うと、どの情報が役立つか判別できなかったり、得られた情報をどのようにビジネスに役立てるかを考え付かなかったりします。

そのような事態を避けるためにも、目的を明確にした上で、必要な情報のみをピンポイントで取得することが好ましいでしょう。

専門知識・技術を持つ人材を確保する

IPランドスケープの実施にあたっては、知的財産に関する法律や技術、経営・マーケティングなど広範な知識やスキルが必要となります。情報収集や分析、経営陣に対する提案などの質を高めるためにも、各方面に精通した人材を確保した上でIPランドスケープを行うことが重要です。

ツールを利用する予算を確保する

IPランドスケープに役立つツールの大半は、年間で数十万円〜数百万円もの利用料がかかります。自力でIPランドスケープの活動を行うことも可能ですが、ツールを使う場合と比べて分析の質や生産性が下がる可能性があります。

IPランドスケープの成功率を1%でも高めたいならば、人材と同時にツールに費やす予算も確保しておきましょう。

大手企業が取り組むIPランドスケープとは:まとめ

ビジネスを取り巻く環境が変化したことで、知的財産の領域のみに特化した守りの戦略では不十分となりつつあります。今後はただ単に知財の調査を行うだけでなく、その情報を経営やマーケティングの意思決定に役立てる「攻めの戦略」が重要になると考えられます。

そんな攻めの知財戦略を実行する上で、今回ご紹介したIPランドスケープは非常に役立つでしょう。

参考資料
大手企業「知財経営」へ加速 悩み共有へ推進団体も 日本経済新聞
IPランドスケープとは 日本経済新聞

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