電子帳簿保存法とは?
- 2021/3/3
- 法令コラム
コロナ禍により、企業の働き方が在宅ワークやテレワークにシフトしていくなか、国税にかかる帳簿の電子化に注目が集まっています。電子帳簿保存法の施行、そしてその後の改正により、紙保存が原則だった帳簿や領収書等が電子データとして保存できるようになったからです。この記事では、来るべきペーパーレス社会、キャッシュレス決済社会を見据えた電子帳簿保存法について解説します。
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿保存にかかる負担軽減を図る観点から、1998年に施行されました。国税に関する帳簿は、紙で保存することが原則になっていますが、この法律によって、電子データによる保存が特例として認められるようになりました。
また、その後の法改正により、スキャナ保存の上限額が撤廃され、さらに電子保存の方法も従来のDVDやハードディスクによる保存に加えて、受け取る側が自由にデータを改変できないクラウドシステムの利用が可能になりました。
この法律で規定されている電子データの保存の方法は、大きく分けて、次の2種類です。
- 国税関係の帳簿書類を電子保存する
- 国税に関係する領収書等をスキャナ保存する
書類別の認められている保存方法は、次のようになります。
種別 | 文書名 | 電子保存 | スキャナ保存 |
帳簿 | 総勘定元帳仕訳帳現金出納帳 | 可 | 不可 |
決算関係 | 棚卸帳貸借対照表損益計算書 | 可 | 不可 |
その他の書類 | 契約書領収書請求書注文書 | 可 | 可 |
税務署に承認申請が必要
国税関係の帳簿を最初の記録段階から一貫してパソコンを使用して作成している場合で、一定の要件を満たしていれば、帳簿書類の電子データによる保存や領収書等のスキャナ保存が認められます。
ただし、開始する日の3カ月前の日までに、「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等の承認申請書」とともに「電子帳簿保存に関する事務手続きを明らかにする書類」「記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となる書類」等の添付書類を管轄の税務署に提出する必要があります。
なお、現在全国に約270万の法人がありますが、このうち2019年の電子帳簿保存法の承認件数は、272,449件です。電子帳簿を活用している企業は、約10%となります。
電子帳簿保存法上の電子データの保存要件
電子帳簿の導入に際して、懸念されるのが不正な改ざんや修正です。このため、電子帳簿保存法施行規則第3条第1項で、帳簿の電子データを保存する場合の要件を規定しています。概要を紹介していきましょう。
真実性の確保
電子帳簿とするためには、次のような事項が確認できるパソコンシステムを使用する必要があります。
- 帳簿に係る電磁的記録に係る記録事項について訂正や削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認することができること
- 帳簿に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後に行った場合には、その事実を確認することができること
相互関連性の確保
帳簿に係る電子データの記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できるようにしておく必要があります。
関係書類等の備付け
帳簿に係る電子データの保存等に併せて、システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付ける必要があります。
可視性の確保
帳簿に係る電子データを保存する場所に、パソコン、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付けて、その電子データをディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式かつ明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておく必要があります。
検索機能の確保
帳簿にかかる電磁的記録について、次の要件を満たす検索機能を確保しておく必要があります。
- 取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目を検索条件として設定できること
- 日付または金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること
- 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること
スキャナ保存をする場合の要件
スキャナ保存が認められるのは、取引相手から受け取った書類及び自己が作成して取引相手に交付する書類の写しです。契約書、見積書、注文書、納品書、検収書、請求書、領収書などが対象になります。
ただし、スキャナによる保存を開始する日の3カ月前までに「国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請書」を所轄の税務署長に提出する必要があります。
使用するスキャナには、次の要件を満たす機種であることが求められます。
- 解像度:200dpi(A4サイズで約387万画素相当)以上による読み取りができること
- 色調:カラー画像による読み取りができること。ただし、資金や物の流れに直結しない「一般書類」を保存する場合には、グレースケール画像でも可能です
対象の書類がA4よりも小さいサイズの場合、200dpiの解像度があれば、スマートフォンやデジタルカメラでの保存も認められます。
タイムスタンプの付与
スキャナ保存に際しては、真実性を確保するために、訂正・追加・削除の履歴を確認可能な状態とし、タイムスタンプの導入を図る必要があります。
タイムスタンプとは、一般財団法人日本データ通信協会が認定する事業者が発行するもので、これにより、データの作成時点から改ざんがなされていないことを証明することができます。
電子帳簿保存法によるメリット
電子帳簿保存法の適用を受けた場合、どのようなメリットがあるのかみていきましょう。
紙資料の欠点が解消できる
紙で各資料を保存していると、経年劣化により、記載された文字がかすれる、破れるといったことが生じます。最悪の場合、火事によって、すべて焼失することすらあり得ます。
電子データとして保存することで、いつでも読みやすい状態で、長期間安全に保存することができます。
保管スペースが節約できる
電子保存することで、帳簿や領収書等の保管スペースを大幅に節約することができます。
データをみつけやすい
紙で領収書などを保存している場合、必要が生じた際に1枚1枚手作業で探し出すことになり、業務上の大きなロスが生じてきました。電子データとして保存することで、容易に検索することができ、業務を効率的に進めることができます。
65万円特別控除が適用できる
これは個人事業主向け青色申告者限定のメリットです。
2020年の確定申告から、青色申告の特別控除が65万円から55万円に引き下げられることになりました。しかし、電子帳簿保存を行い、かつe-TAXで確定申告を行う場合は、従来の65万円特別控除が適用されます。
電子帳簿保存法によるデメリット
それでは反対に、電子帳簿保存法によるデメリットには、どんなものがあるでしょうか。特徴的な点として、電子データによる保存は、コストがかかるということが挙げられます。
電子帳簿保存法の適用を受けるには、対応する周辺機器の整備が必須になります。さらにランニングコストについても軽視することができません。電子帳簿保全法に対応できる環境が整っていない場合、これに投資する費用負担が大きな課題となります。
電子帳簿保存法とは?:まとめ
領収書等をスマートフォンで撮影したデータも電子保存が認められるようになり、経費精算業務のペーパーレス化を実現する企業が一気に増加しました。
ところが経費として申請するためには、領収書の撮影データが必要になるため、キャッシュレス決済をしたのに、わざわざ紙の領収書を発行してもらうというという現実が一方であったのです。
このため2020年の法改正では、紙の領収書を受け取ることなく、利用明細データをそのまま領収書として扱えるよう、規制緩和が行われました。
こうした法改正の足跡から、国がペーパーレス社会、キャッシュレス決済社会に大きく舵を切ろうとしていることを読み取ることができます。