スマホの料金の値下げはなぜ? そしてこれからどうなる?

スマホ料金の値下げ

スコットランド生まれのグラハム・ベルによって1876年に電話が発明されました。そして、1888年にはドイツ人のハインリッヒ・ヘルツが電波を飛ばすことに成功。それにヒントを得たイタリア人のグリエルモ・マルコーニが7年後に無線通信を成しとげ携帯電話への扉が開かれました。

携帯電話は国から割り当てられた周波数を使い、NTTドコモやKDDIなどの通信キャリアが全国に基地局を設置して築き上げた通信回線網を利用しています。

無線通信のインフラを構築するには多額の投資と長い時間が必要で、維持管理費も事業者には大きな負担となります。通信システムが第4世代から第5世代に移り変わろうとしている現在、なぜ大手通信キャリアは競って携帯電話料金の値下げを行なったのでしょうか。また、値下げを行った後には何が待っているのでしょうか。

今回は、この携帯電話料金の値下げに関する疑問についてまとめました。

携帯電話ビジネスの構造

本題に入る前に、我が国の携帯電話ビジネスの構造について理解する必要があるので、携帯電話に関わっている事業者を簡単に説明します。

通信キャリア(MNO)

正式には移動体通信事業者(Mobile Network Operator)と言いますが、
①総務省から電波利用免許の交付を受け、②電波使用料を支払い、③自社が所有する通信回線網を使って通信サービスを行う事業者のことです。NTTドコモ、ソフトバンク、KDDIの3社は大手通信キャリアと呼ばれています。

サブブランド

サブブランドとは、大手通信キャリアが提供している低価格帯のサービスで、KDDIの子会社であるUQコミュニケーションズが提供する「UQ Mobile」、ソフトバンク自身が提供する「Y! mobile」などがありますがNTTドコモにはありません。

MVNO

「MVNO」とは、あまり馴染みのない言葉ですが、自前では通信回線網を持たず通信キャリアから回線を借りて通信サービスを行う事業者のことで、格安SIM、格安スマホなどが該当します。

正式には仮想移動体通信事業者(Mobile Virtual Network Operator)と言い、2001年に登場し現在では100社以上の事業者があります。楽天モバイルはMVNOとしてスタートしましたが、今では総務省の認可を受けて通信キャリアとなりました。

通信キャリアは全国各地にある携帯電話ショップと契約し、加入申し込みからさまざまなサポートを行っていることが大きな強みとなっていますが、それに加えて大幅な値下げを行ったので、低価格が売りのサブブランドやMVNOへの影響が予想されます。

値下げへの流れは2018年から始まった?

携帯電話料金の値下げは、2018年の菅官房長官時代に発言した「携帯電話料金には4割値下げできる余地がある」から動き始めたと言われています。さらに、2020年6月には総務省の「電気通信サービスに係る内外価格差調査」のデータをもとに、日本の携帯電話料金は諸外国と比べて高いと指摘。

実際に総務省による世界の主要6都市の比較データによると、東京は月間のデータ容量が2GB、5GBでは中位の水準でしたが20GBでは最も高額な料金でした。

< データ容量 20GB/月 の料金 >

東京 6,877円
ニューヨーク 6,856円
ソウル 6,004円
デュッセルドルフ 4,179円
ロンドン 2,700円
パリ 2,055円

※電気通信サービスに係る内外価格差調査(2020年6月)より

自民党の総裁選を迎えてこの流れはさらに加速し、当時の菅官房長官は国が通信キャリアから徴収する電波利用料の見直しにまで踏み込んだ発言をしています。そして、2020年9月14日に菅首相が誕生すると、年が明けてまもなく大手通信キャリアの値下げ料金プランが出揃いました。

細かな違いはありますが「通話料無料(5分以内)+データ容量20GB/月」では3社とも2,980円で横並びとなり、世界の主要6都市の中ではニューヨークやソウルの半額以下の金額となったのです。

値下げの本当目的とは

携帯電話料金値下げの直接的な目的は、公共の電波を利用し儲けすぎている大手キャリア3社の利益を減らし利用者に利益を還元することです。その結果として家計に占める携帯料金の比率を減らし、可処分所得を増やすことが狙いと言われています。

実際に総務省の家計調査では、家計の消費支出に占める通信費の割合は2010年に2.64%だったものが2019年には3.45%と1.3倍に増えています。

消費支出に占める移動電話通信料の割合

今回の新料金(2,980円x 12ヶ月 = 35,760円/年)で2019年の消費支出に占める割合を計算すると、約1.2%と2010年以降では最も低い水準となり、当初の目的は十分達成しています。

携帯料金の値下げは菅首相にとって最初の国民にアピールできる実績になるはずでした。新型コロナ感染拡大の問題がなければもっとマスコミが取り上げ、支持率も現在のように低迷することは無かったかもしれません。しかし、皮肉なことに国民は電話料金の値下げよりもコロナ対策を最も重要な課題と考えているのです。

そして値下げの後はどうなるのか

コロナ禍の中で実現した携帯電話料金の値下げの後には何があるのでしょうか。それは間違いなく第5世代の通信システム「5G」を利用したデジタル改革の実現です。そのためには、
① 国・地方自治体・企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、② 5G通信インフラの整備、
③ 5Gを利用した新製品・新サービスの開発
が同時進行で進められることになります。

大手通信キャリアの5Gに対するインフラ投資の見通しは次のようになっています。

NTTドコモ 2018〜2023年 1兆円、2024年以降 数千億円/年
ソフトバンク 2020〜2030年 2兆円
KDDI 2020〜2030年 2兆円

大手通信キャリアの投資額を見ると巨額すぎるように感じてしまいますが、一般ユーザーだけでなく、国や産業界全体が5Gの通信サービスを利用する時代が来るのであれば当然なのかも知れません。

次の資料は総務省が作成したものですが、1Gの時代の最大通信速度10kbpsに対し5Gでは100万倍の速度にまで進化することになります。

移動通信システムの進化

5Gの最も重要なメリットは、
① 超高速通信(4Gの10倍以上)
② 多数同時接続(4Gの約10倍)
③ 超低遅延(4Gの1/10程度)
の3つと言われています。

これによって、迅速な災害予知、行政のオンライン化、テレワークの本格普及、ロボットの遠隔操作、遠隔医療、遠隔授業、スマート工場、スマートシティ、自動運転などの実現が加速されます。

2019年から2020年にかけて、日本も含めた先進国では5Gのサービスがスタートしていますが、すでに2030年頃の実用化を目指して6Gに関する議論も各国で開始されています。今や通信技術の開発は経済面や軍事面での国際間競争でもあるのです。

スマホの料金の値下げはなぜ:おわりに

超高速通信が可能になりタイムラグが少ない5Gのメリットを生かすためには、今回値下げしたデータ容量20GB/月では不十分で、主戦場は上限無しの大容量プラン移行することが予想されます。

大手通信キャリア3社の大容量プランの価格は月額6,500円前後ですから、5Gが主流になれば今回の値下げの影響は吸収できてしまうでしょう。

通信技術が新しい世代に移りかわる度に、新たな用途や端末が開発され、データの使用量が増加し、その結果とし通信キャリアが儲かるというのが携帯電話のビジネスモデル。

このことを考えると今回の値下げの真の目的は、通信キャリアが「4G」に見切りをつけ「5G」への移行をさらに加速さるためだったようにも見えてきます。

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