「○○専門弁護士」、「○○に強い弁護士」という弁護士広告の読み方~弁護士選びで失敗しないために知っておきたい3つの注意点~
- 2020/2/21
- 法令コラム
弁護士に依頼すべき業務内容には、離婚、交通事故、債務整理、企業法務など、さまざまな内容があります。そのため、弁護士に業務を依頼するときには、「その分野を専門にしている弁護士」に依頼すべきと考えてしまいがちです。
弁護士の業務広告などでも、「相続専門」、「離婚専門」とか「債務整理に強い弁護士」といった宣伝コピーを目にすることが増えたので、「専門にしている弁護士なら」、「強いと評判の弁護士なら」ということで、その事務所に依頼することを考える人も多いのではないでしょうか。
しかし、これらの宣伝コピーを額面以上に信頼すると、弁護士選びに失敗する原因にもなりかねないので注意する必要があります。
そこで、今回は、「○○専門」、「○○に強い弁護士」という弁護士広告を読む際に注意すべきポイントなどについて解説していきたいと思います。
特定の業務領域に特化している弁護士は少数派
弁護士について詳しい知識のない人には、弁護士も離婚や相続、企業法務といった「専門分野ごとに棲み分けをして業務を行っている」と思っている人も多いかもしれません。弁護士と比較されることの多い医師も内科・外科といった専門の診療科にわかれて診察を行っていることが一般的だからです。
確かに、弁護士の業務範囲も医師のように多種多様なので、それぞれの専門分野に特化した方が弁護士にとっても、依頼人にとってもメリットが大きいように思えないわけではありません。しかし、実際には、「特定の業務分野だけ」を取り扱うような弁護士というのは、限れた少数派に過ぎないのです。
特定分野への特化と事務所経営
弁護士が特定分野のみに特化して仕事を行っている弁護士が少ない一番の理由は、事務所経営上の都合といえます。
わが国の弁護士事務所のほとんどは、小規模で、事務所所在地に根ざして業務を受任している事務所です。日弁連が公表している資料によれば、弁護士事務所の半数以上が、所属弁護士1名のみの個人事務所で、弁護士5人以下の事務所で全体の90%を超えています(※1)。
このような弁護士事務所の経営環境を前提にすれば、「離婚や企業法務の依頼に特化して業務を受任する」という仕事の仕方は、「仕事の絶対数が少ない」という理由から、事務所経営上かなりリスクの高い選択になってしまいます。
たとえば、離婚を例に考えてみても、1年間の離婚件数は、全国で20万件強(※2)に過ぎませんし、そのすべてに弁護士が関与しているわけではないからです。
仮にすべての離婚案件の2割に弁護士が関与し、1件あたり50万円の弁護士費用が発生したとしても、たった200億円の市場に過ぎません。これを弁護士の5%(約2000人)だけで引き受けたと仮定すれば、弁護士1人あたり売上げは1000万円ですが、この売上額では、弁護士事務所を維持することは難しいといえます(おそらく固定費で大半が消えてしまいます)。
司法統計によれば、全国の裁判所に提起される離婚訴訟事件は年1万件前後(※3)に過ぎませんから、離婚事件の実際の市場規模は、上の仮定よりも小さい可能性の方が高いでしょうし、地方にいけば人口に応じて(潜在的な)事件数も減ってしまいます。
以上の数的なデータを前提にしても、たとえば、かつてヒットしたテレビドラマ「離婚弁護士」のような仕事の受け方が現実的でないことは容易に想像できるわけです。
※1 事務所における弁護士の人数(日本弁護士連合会『弁護士白書』2019年72頁)
※2 平成 30 年(2018)人口動態統計の年間推計(厚生労働省ウェブサイト)
※3 人事訴訟の概況―平成30年1月~12月―(裁判所ウェブサイト)
弁護士の専門特化は利用者(依頼人)のためにならないことも
少し余談になりますが、弁護士実務の現状を前提にすると、弁護士の多くが特定の業務に特化して仕事をするようになることは、依頼人となる一般消費者の利益にもそぐわない可能性が高くなるといえます。
事件数に限りがあるということを前提にすれば、弁護士が特定分野に特化して業務を行うためには、潜在的な事件数のある大都市部に事務所を構えるか、全国(事務所所在地以外の地域)の依頼を引き受けるかという選択を採らざるを得ないからです。
たしかに、東京や大阪などには「刑事事件に特化した事務所」も存在しますし、特定業務を全国で受任したノウハウが蓄積されていくことは、依頼人にとってもメリットが大きいようにも感じます。
しかし、弁護士業務は、「依頼人との直接面談」を行ってから受任することが大原則とされていますので、全国展開をするには、事務所の規模(所属弁護士の数)もそれにつれて大きくする必要が生じます。
したがって、弁護士数が増えればそれに比例して人件費もかさむ点で、事案特化型の全国展開はリスク大きい選択といえます。
このリスクを相対化するためには、宣伝の強化(競争による寡占化)や、事案処理の効率化(定型処理によるコストカット)といった対応が必要となりますが、宣伝強化はコスト増、寡占化は同業者間の競争低下(による弁護士費用の高額化)、事案処理の効率化は弁護士業務の定型化(による依頼人満足度の低下)といった依頼人にとっては好ましくない結論を引き起こす可能性があることにも注意する必要があるといえます。
また、一部弁護士による特定業務の寡占化は、弁護士費用の問題だけでなく、「依頼人にとって選択肢の絶対数が減る」ことによる弊害の方が大きくなることも懸念されます。仮に、寡占化が進むことで、低コスト処理&大量受任スタイルの事務所が増えるようになれば、依頼人が抱える多様なニーズが弁護士事務所の都合で切り捨てられてしまう可能性も高くなるからです。
「刑事事件専門事務所」は専門特化型の事務所形態として成功例の多いケースです。しかし、刑事事件専門事務所が成功しているのは、大都市部の弁護士を中心に「刑事事件だけは受任しない」という弁護士が多いことの裏返しでもあります。
しかし、刑事事件は、被疑者・被告人である依頼人の人生の今後を特に大きく左右させる非常にナイーブな事件であることを考えれば、「選択肢の絶対数が少ない」それ自体が大きな問題であるということもできます。弁護士数が少なければ、刑事弁護の細かい方針の違いなどによって弁護人を自由に選択できる余地が減ってしまうからです。
「その領域に特化した弁護士」というのは、建前としては理想的なのかもしれないのですが、実際にそのようなサービスの供給を実現するというのは簡単なことではないのです。
「○○専門事務所」「○○に強い弁護士」という弁護士広告を見る際の注意点3つ
近年急激に増加したウェブ上の弁護士広告では、「相続専門弁護士(事務所)」、「企業法務に強い弁護士(事務所)」といった宣伝コピーが用いられるケースが増えています。
しかし、これらの宣伝コピーを用いた弁護士広告を読む際には、ここまで解説してきたを踏まえた上で、以下の点にも注意する必要があるといえます。
- 弁護士には「専門分野」を認定する公的な基準はない
- 日本弁護士連合会は弁護士の業務広告で「○○専門」と謳うことを推奨していない
- 実際にはその分野に特化していない事務所が多い
弁護士には専門分野を認定する公的な基準がないこと
「債務整理専門の弁護士(事務所)」といった宣伝コピーを目にすると、医師における「外科専門医」のように、その専門分野のスペシャリストといった印象をもつ人も多いと思います。
しかし、弁護士の業務領域については、医師における学会認定専門医制度のようなオーソライズされた客観評価の仕組みは設けられていません。つまり、「○○が専門」、「○○が強い」というのは、それぞれの弁護士(事務所)の「自己申告」、もしくは、業務広告を作成した広告業者の独断に過ぎないというわけです。
弁護士には専門職としての高い倫理観が求められていますから、自らの業務について虚偽申告をすることはないはずですが(虚偽申告があれば懲戒対象になります)、「○○専門」という宣伝コピーが用いられている場合でも、「他の弁護士(事務所)よりも優れている」という意味合いで言葉が用いられているわけではないことにも注意しておく必要があります。
弁護士が行う業務広告では、「他の事務所と(客観的な根拠のない)比較をする広告」は禁止されていますし、実際の事件を受任する前に「他の弁護士よりも良い結果を導ける」ことを確約するようなことは不可能なことだからです。
弁護士の業務広告に対する日本弁護士連合会の基本姿勢
いまでは当たり前に目にするようになった弁護士の業務広告ですが、以前は弁護士が業務広告することそれ自体が禁止されていました。
また、弁護士広告が原則解禁となった2000年以降においても、それぞれの弁護士が「好きな内容の広告を自由に打てる」というわけではありません。弁護士が特に公共性の強い専門職能であることを前提にすれば、広告による過当な競争が起きることは、社会にとって好ましくない結果を導くおそれがあるからです。
弁護士広告の難しさは、「弁護士という専門職能」について一般の人が十分な知識を持ち合わせていない(広告内容の是非を十分に判断できない)ことにあります。それ故に、「宣伝の巧拙」が弁護士選びに大きな影響を与えるような状況になること自体が、弁護士という職能のあり方との関係で好ましい状況ではないのです。
そこで、弁護士すべての弁護士が登録を義務づけられている組織(強制会)である日本弁護士連合会(日弁連)では、弁護士の業務広告について一定のルールを定めています。
日弁連が定めている弁護士広告の基本ルールの内容は、「弁護士に求められる品位保持」と「依頼人の保護(誤導の防止)」ということに集約することができますが、「弁護士の専門分野」を業務広告で示すことは、「控えるべき広告の例(明確に禁止しているわけではないが原則として慎むべき広告の例)」とされています(※4)。
なぜなら、上でも触れたように、弁護士の「専門分野」を判定できる公的な基準がない以上は、「○○が専門」と広告で謳うことは、広告を目にした消費者を誤解させるおそれがあるからです。「○○に強い」という表現についても、専門と謳うこととの違いは程度の差に過ぎないと考えるべきでしょうから、「業務広告の指針」の趣旨に沿えば問題のある表現ということができるでしょう。
「○○専門弁護士」「○○に強い弁護士」は広告業者の都合で作られたフレーズ
「○○専門弁護士」、「○○に強い弁護士ランキング」のようなサイトは、例外なく「弁護士事務所以外」の広告業者によって運営されているサイトです。なぜなら、上でも触れたように、弁護士自身が「自分の事務所は○○専門」と宣伝することは、弁護士会の内部ルールに違反する(広告内容によっては懲戒処分の対象になりうる)ことだからです。
その意味で、「○○専門弁護士ウェブサイト」のようなウェブページの情報は、専門性やランキングの基準が客観的に示されていない限りは、割り引いて評価しておく必要があるといえます。実際にもこれらのウェブサイトでは、「サイト運営者の主観」であったり、「正確性に欠ける問い合わせ件数(問い合わせ件数は受任件数と同じではない)」に基づくものがほとんどで、ステルスマーケティングの一種のようなものも少なくないからです。
また、これらのウェブサイトの多くが「Googleなどからの広告料(いわゆるGoogleアドセンス)」も収益源としていることにも注意する必要があります。つまり、「閲覧数を稼ぎたい」という目的で、「引きの強い宣伝文句(ウェブページのタイトル)」を利用していることも多いということです。ここまでくると、弁護士広告の実態は、依頼人のためでも弁護士のためのものでもありません。
ウェブの普及は、さまざまな点で私たちの生活に「便利さ」をもたらしてくれていますが、他方で、粗悪なサービス・情報に接するリスクがあることも常に頭にいれておくべきでしょう。
実際には「○○専門」ではない事務所も多い
ウェブでみかける「○○専門」という弁護士広告の信憑性が怪しいということは、実際にはその弁護士事務所の多くがその分野に特化しているわけではないことでも明らかです。たとえば、「相続専門」の弁護士を紹介しているウェブサイトに掲載されている弁護士事務所が、「交通事故専門」の弁護士を紹介しているウェブサイトにも掲載されていることは珍しいことではありません。
そもそも、離婚・相続や債務整理、刑事事件といった案件は、弁護士の中では「基本業務の典型」といえる分野ですから、ほとんどの弁護士事務所が弁護士として備えているべき知識・経験を有しているのが普通と考えるべきでしょう。
もしかしたら、その事務所では、複数の領域で「特に専門性の高い弁護士」を擁しているということなのかもしれませんが、「あれも専門、これも専門(すべてが専門)」というのは、一般的な用語法としての「専門」という意味合いとはかけ離れている感があるのは否定できないところでしょう。それ故に、上でも紹介したように日弁連の指針では「『○○専門』という宣伝コピーは使用すべきではない」としているわけです。
「専門領域の定義」が不適切
ところで、「○○専門」の弁護士であること謳うウェブの弁護士広告は、そもそも広告における「専門分野の示し方」としても十分ではないことに注意しておく必要があります。医師との比較で例を示せば、弁護士のウェブ広告などにおける「○○専門」というのは、「内科専門」、「外科専門」、「歯科専門」といったレベルの表記に過ぎないので、専門性を示す区分としてそもそも適切ではないからです。
たとえば、「債務整理専門」といっても、個人の債務整理と法人の債務整理では、実際に行う業務に大きな違いがあります。したがって、個人の自己破産をたくさん手がけている(その意味では債務整理専門といえなくはない)弁護士であっても、法人の自己破産を上手にやれるかどうかはわからないのです。
また、企業法務であっても、一般的な契約書のチェックであれば、どの弁護士でも適切に対応できる可能性が高い一方、企業法務専門と紹介されたすべての弁護士が、特許にも、渉外実務にもリスク管理にも詳しい保証は全くありません。
したがって、「○○専門」と紹介された弁護士事務所であっても、実際の依頼業務に内容によっては「専門ではなかった」ということもあり得ることにも注意しておく必要があります。
「○○専門弁護士」「○○に強い弁護士」の受け止め方
ここまで解説してきたことを前提にすれば、弁護士広告で見かける「○○専門」(「○○に強い」)というキャッチコピーは鵜呑みすべきではなく、「○○の分野の依頼を歓迎している」事務所という程度に理解しておいた方が良いといえそうです。
ただ、依頼を歓迎していることと、その分野が得意であることも必ずしも等価ではありません。事務所によっては、多くの事件を定型処理して収益を上げるために広告宣伝費用を投下している可能性もあるからです。このような弁護士広告の現状を前提にすれば、最終的には「依頼人自らが弁護士と直接会って判断するほかない」という結論になりそうです。
弁護士選びで失敗しない秘訣は「情報の限界」を再認識すること
この記事を読んでいる方には「良い弁護士の選び方」を指南してくれることを期待している人もいたかもしれません。しかし、実際には「弁護士選びの必勝法」のようなものは、現時点では存在しません。
むしろ、それとは逆に「弁護士選びの必勝法」のようなものを意識することは、弁護士選びに失敗する原因になりかねません。消費者が簡単にアクセスできる弁護士情報のほとんどは、「一方的な情報」に過ぎないからです。「○○専門弁護士」、「○○に強い弁護士」という宣伝コピーはその典型例といえるでしょう。
このような情報を、「弁護士にアクセスするひとつのきっかけ」とすることは全く問題ないと思うのですが、最終的には、「不動産会社のネット広告だけでマイホームを買う人があまりいない」のと同じように、弁護士を選ぶ際にも、依頼人自身が弁護士をよく見極めることがやはり重要なのです。
依頼業務の結果は弁護士と依頼人との信頼関係に左右されることの方が多い
弁護士自身を自分の目で見極めるということは、「自分で信頼できる弁護士を選ぶ」ということでもあります。実際にも、依頼人が弁護士をどの程度信頼していたかということは、依頼業務の成否を決定づける要因となることが少なくありません。なぜなら、依頼人が弁護士を信頼していなければ、業務遂行に必要十分な情報が弁護士に提供されないかもしれないからです。実際の訴訟などでも、依頼人自身の本人尋問で「弁護士の知らない事実」がでてきて裁判に負けてしまったというようなことは、全くない話ではありません。
専門性の高い弁護士に依頼をしても依頼人との関係が良好ではなければ、事案処理がうまくいかない場合の例としては、最近大きな話題となったゴーン被告のレバノンへの逃亡劇を挙げることができます。ゴーン被告の主任弁護士は、「無罪請負人」として特に著名な弁護士でしたが、最終的には被告の海外逃亡という(弁護人や検察・裁判所にとっては)最悪の結末となってしまいました。ゴーン被告にとってもレバノンでのある程度自由のある暮らしを得られた代わりに、日本で無罪判決を勝ち取れる可能性がほぼなくなったという点で大きな代償を払う決断であったといえます。
レバノン逃亡後のゴーン被告のインタビュー記事などを見ると、「接見禁止などの不自由な生活を強要されたまま10年以上も刑事裁判を戦い続けなければならない日本の刑事裁判への失望」が逃亡の主な理由だったようです。ゴーン被告の考え方や行動の是非についてここで論じることは避けますが、見方によってはゴーン被告の刑事裁判への失望は「ゴーン被告が不当と感じている刑事裁判の進め方」を是認している(と被告が感じる)「弁護人への失望」でもあったかもしれません。この点は推論でしかありませんが、ゴーン被告と弁護人との間により深い信頼関係があれば、ゴーン被告自身にも海外逃亡という実力行使を選択しなかった可能性もあったかもしれないからです。
弁護士選びで失敗しないために知っておきたい3つの注意点:まとめ
弁護士に業務を依頼するケースの多くは、依頼人にとって重大な局面です。その意味では「できるだけ良い弁護士」を見つけたいというのは、とても素朴なニーズといえます。
しかし、よい弁護士は簡単に見つけられるものではありません。弁護士自身の能力を客観的な数値・指標で示すことは、そもそも適切とはいえない場合が多いからです。
実際にも、弁護士自身が、弁護士選びの重要な要素」として「相性」や「人間性」を挙げることが多いのも、弁護士自身の経験則として、「弁護士を信頼してもらえなければ依頼人に満足してもらえる仕事はできない」という感覚があるからといえるでしょう。