よく聞く反トラスト法は独占禁止法とどう違うのか?
- 2020/12/15
- 法令コラム
最近、米国司法省がIT大手のGoogleを日本の独占禁止法にあたる反トラスト法違反の疑いで提訴したというニュースがTVやネットで伝えられています。理由として、Googleがネット検索における独占的な立場を利用し、競合他社のサービスを締め出している疑いが指摘されています。
特に問題視されたのは、多額の資金を支払いスマートフォンなどでGoogle検索サービスが初期設定となるよう各メーカーと契約していること。
グローバルに事業展開を行なう日本企業においても、反トラスト法違反で高額な罰金を支払うケースはここ10年間で20社を超えており、米国での手続きや法令に留意する必要性が増してきています。
そこで、今回は米国の「反トラスト法」と日本の「独占禁止法」の基本的な内容、及びその違いについて解説します。
反トラスト法とは
「トラスト」とは、同一業種にある複数企業が市場独占を目的として資本的に結合する一形態のことですが、反トラスト法においては単一または複数の企業が特定の事業領域を独占/支配している状態を指しています。
米国の反トラスト法は単一の法律ではなく「シャーマン法」「クレイトン法」「連邦取引委員会法」という3つの法律から構成されています。
シャーマン法
シャーマン法は、カルテルなどによる取引制限、独占化行為の禁止・差止め、及び刑事罰等を規定するために1890年に制定されました。
クレイトン法
クレイトン法は、シャーマン法違反の予防的規制を目的とし、価格差別の禁止、不当な取引の禁止、企業結合の規制、損害賠償等について規定するために1914年に制定されました。
連邦取引委員会法
連邦取引委員会法は、不公正な競争方法、不公正又は欺瞞的な行為又は慣行を禁止するほか、連邦取引委員会の権限や手続等を規定するために1914年に制定されました。
反トラスト法で規制される行為
1.取引制限行為
シャーマン法では次の取引制限行為は禁止されています。
- 各州間又は外国との取引・通商を制限するすべての契約、トラストその他の形態による結合・共謀
- 「価格協定」「市場分割協定」「入札談合」「共同ボイコット」などの水平的カルテルは当然違法
- 垂直的取引制限(再販売価格維持行為、その他非価格制限等)
※「3.再販売価格維持行為」を参照してください。
2.独占行為
シャーマン法では、各州や外国との取引・通商に関して、独占化し、独占を企図し、独占する目的をもって他の者と結合・共謀することは禁止され、違反者はカルテルと同様の制裁を受けます。
規制対象は独占状態ではなく、不当な方法で独占を形成・維持する行為となります
具体的には、略奪的価格設定※、取引拒絶、排他的取引など。
※略奪的価格設定とは、市場から劣位の企業を追い出すために製造コストを下回る極端に低い価格を設定すること。
3.再販売価格維持行為
再販売価格維持行為とは、商品の供給元が小売業者の定価販売を指示することで、従来この行為は当然違法とされてきましたが、2007年の米国最高裁判所の判決により「合理の原則により判断すべき」と変更されました。
そのため、現在ではメーカーが安売り業者に対し商品供給を停止する行為は取引先選択の自由の範囲内であり違法とされませんが、メーカーとその他の者による再販売価格に関する共謀・協定があった場合にはシャーマン法で違法とされます。
4.価格差別・拘束条件付取引等
クレイトン法において、同種同等の商品の価格を取引先によって差別することは、競争を低下させ、独占形成や競争阻害等のおそれがある場合には、販売方法・数量の差によるものを除き禁止されています。
また、競争者と取引しないという条件で取引することは、競争の低下や独占形成のおそれがある場合には禁止されています。
5.不公正な競争方法の禁止
連邦取引委員会法では「不公正な競争方法」は禁止されています。不公正な競争方法には、前述の「取引制限」「独占化行為」「合併等企業結合」の類型が含まれます。
目的は、シャーマン法・クレイトン法に違反する行為・慣行を不公正な競争方法として規制するだけでなく、兆しが確認できる段階あるいは違反の初期段階のうちに執行する(中止させる)ことにあると解されています。
6.企業結合
- クレイトン法では「競争を低下させ、又は独占形成のおそれがある株式その他の持分又は資産の取得は禁止されています
- 一定規模以上の企業が結合するときは、司法省反トラスト局と連邦取引委員会に対する事前の届出が必要です
- 一定規模以上の商業を行う2つの会社が事業内容及び営業地域において競合する場合には、当該2つの会社の取締役又は役員の兼任を禁止されています。また、銀行の取締役又は従業員は他の銀行等の取締役又は従業員を兼任することはできません
日本の独占禁止法で規制される行為
我が国の独占禁止法では次の行為が違法として禁止されています。
1.私的独占の禁止
独占禁止法では「私的独占」を禁止していますが、私的独占には2種類の類型があります。
排除型私的独占
事業者が単独又は他の事業者と共同し、不当な低価格販売などの手段を用い、競争相手の市場からの排除や新規参入者の妨害により市場を独占しようとする行為。
支配型私的独占
事業者が単独又は他の事業者と共同し、株式取得などにより他の事業者の事業活動に制約を与え市場を支配しようとする行為。
2.不当な取引制限
独占禁止法では「不当な取引制限」を禁止していますが、不当な取引制限には2つの類型があります。
カルテル
事業者などが相互に連絡を取り合い、各事業者の商品価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為。
入札談合
公共工事や物品の公共調達に関する入札の際に、あらかじめ受注事業者や受注金額などを決める行為。
3.事業者団体の規制
独占禁止法第では、事業者団体※による「競争の制限」「事業者の数の制限」「会員事業者・組合員等の機能や活動の不当な制限」「事業者に不公正な取引方法をさせる行為」等を禁止しています。
※事業者団体とは「事業者としての共通の利益を増進する目的の複数の事業者の結合体又はその連合体」
4.企業結合の規制
独占禁止法では、株式保有や合併等の企業結合を行った会社グループが、単独又は他の会社と共同することにより価格や供給数量などをコントロールできるようになる場合には、当該企業結合を禁止しています。 また、一定の要件に該当する企業結合を行う場合には公正取引委員会に届出・報告を行なわなければなりません。
5.独占状態の規制
独占禁止法では50%を超えるシェアを持つ事業者等がいる等の市場において、価格に下方硬直性がみられるなどの市場への弊害が認められる場合には競争回復の措置として当該事業者の営業の一部譲渡を命じる場合があります。
6.不公正な取引方法の禁止
独占禁止法で禁止されている「不公正な取引方法」とは「自由な競争が制限されるおそれがあること」「競争手段が公正とはいえないこと」「自由な競争の基盤を侵害するおそれがあること」という観点で、公正な競争を阻害するおそれがある場合に禁止されます。
不公正な取引方法については、独占禁止法の規定のほかに「公正取引委員会の告示」によって指定されている2つの類型があります。
一般指定
全ての業種に適用されるもので「取引拒絶」「排他条件付取引」「拘束条件付取引」「再販売価格維持行為」「ぎまん的顧客誘引」「不当廉売」など。
特殊指定
特定の事業者・業界を対象とするもので、現在は「大規模小売業者が行う不公正な取引方法」「特定荷主が行う不公正な取引方法」「新聞業」。
この他に、独占禁止法の補完法として下請け業者に対する親事業者の不当な取り扱いを規制する「下請法」があります。
反トラスト法と独占禁止法の違い
反トラスト法のベースにある考え方は、「競争を実質的に減殺する恐れがある不当な取引制限や不当な独占を禁止し、消費者利益を増進する」ことにありますが、独占状態自体を規制するものではありません。
対する日本の独占禁止法は「私的独占・不当な取引・不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止し、公正かつ自由な競争を促進し、消費者利益を守る」ことにあります。
日米の法律比較はさまざまな専門書の中で詳しく解説されていますので、ここでは「独占」と「不公正取引」の考え方の違いについて解説します。
独占状態の規制について
独占禁止法の「5.独占状態の規制」では、不当な取引制限などを行っていなくても市場に硬直性が見られるというだけで独占状態にある企業に分割を命じる場合があると規定されています。
対する反トラスト法の「⒉独占行為」では、不当な方法で独占を形成・維持する行為は禁止されていますが、正しい事業活動の成果として得られた独占状態そのものは禁止されていません。
この違いは、独占禁止法の第1条で定められている「事業支配力の過度の集中防止」、つまり独占状態自体を防止する予防の考え方に基づくものと思われます。
不公正取引における「再販売価格維持行為」について
公正取引委員会は「再販売価格の拘束」は正当な理由がない限り、独占禁止法上違法としています。
「正当な理由」の定義は、事業者による自社商品の再販売価格の拘束によって実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され、それによって当該商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られ、当該競争促進効果が再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合において、必要な範囲及び必要な期間に限り認められる、という実現性の低いものです。
反トラスト法の「⒊再販売価格維持行為」は、従前は当然違法とされていましたが、2007年のリージン事件の判決により個々の事案ごとに「合理の原則」によって判断されることになりました。
よく聞く反トラスト法は独占禁止法とどう違うのか?:まとめ
現在、日米で執行されている独禁法において「支配的地位」「不当な取引制限」「不当な独占化行為」「反競争効果」「不公正な取引行為」「企業結合」などの基本的な考えに大きな違いはないと考えられますが、「独占」や「一部の取引制限」に対しては「外形的」に判断するか「合理的」にケースバイケースで判断するかの違いは見られます。
また、米国では州法が連邦法と異なることもありますので、米国で事業活動を行う場合には、専門家のアドバイスを受けたりして具体的な違法行為の判断基準をよく調べておく必要があります。