東亜建設工業の施工不良ならびにデータ改ざん、虚偽報告問題における第三者委員会報告書の概要

今回の記事では、東亜建設工業の地盤改良工事において、施工不良、データ改ざん、虚偽報告が行われた問題を取り上げた上で、調査委員会の活動内容をお伝えします。

なお本件問題は、第三者委員会ではなく社内で発足した委員会によって調査が行われました。ですが調査方法や報告書の内容が第三者委員会のケースと類似しているため、この記事では敢えて「第三者委員会」として解説します。

はたして、社内のメンバーで構成された委員会による調査は、利害関係を有さないメンバーで構成される第三者委員会の調査と同じくらいのクオリティや公平性を担保できるのでしょうか?

問題の背景

本件は、東亜建設工業が行なった東京国際空港の地盤改良工事に関して、施工不良やデータ改ざん、虚偽報告が行われた問題です。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件の第三者委員会は、「事実関係の調査」、「原因究明と分析」、「改ざんや虚偽報告といった不正行為の実態解明」、「再発防止策の策定」の役割を任せられました。

本件を調査した委員会は、同社の代表取締役副社長や常勤監査役といった重役を中心に構成されました。本来の意味での第三者委員会とは異なり、同社との利害関係を有さない委員により構成されていない点が特徴です。

  • 委員長:末冨 龍(同社代表取締役副社長)
  • 副委員長:高木 裕康(顧問弁護士 東京丸の内法律事務所)
  • 委員:寺林 伸夫(常務監査役)
  • 委員:黒須 茂敏(執行役員常務管理本部長)
  • 委員:守分 敦郎(執行役員常務)
  • 委員:緒方 健一(管理本部 副本部長)

第三者委員会の活動スケジュール

では次に、本件問題の発覚から第三者委員会が発足した経緯を見てみましょう。

事の発端は、東亜建設工業が行なった「平成27年度東京国際空港C滑走路地盤改良工事」にさかのぼります。同社はこの工事について、仕様書通りの施工を行わなかったことや、地震による液状化を防ぐ薬液注入量のデータを改ざんしたこと、設計通りに完成したと虚偽の報告を行なったことを認識し、2016年4月27日に国交省関東地方整備局に対して本件問題を報告しました。

重大な問題であることを受けて同社は、同年5月2日に社内調査委員会を設置しました。他の工事についても調査を行なった結果他4件の工事についても同様の問題があったことを把握したため、同年5月16日に同社はこの4件の工事を調査対象に追加しました。

その後も調査は続き、7月26日に調査結果をまとめた報告書が提出されました。第三者委員会と同じように行われた調査は、約2ヶ月半にもおよびました。

本件における一連の流れをまとめると、以下のようになります。

  • 2016年4月27日 同社が国交省関東地方整備局に対して一連の問題を報告
  • 2016年5月2日 第三者委員会(社内調査委員会)が設置される
  • 2016年5月16日 4件の地盤改良工事を調査対象に追加
  • 2016年7月26日 最終報告書の提出(調査完了)

本件の調査のポイント

本件調査のポイントは、直接の利害関係を持つ役員たちによって、ヒアリングや資料収集といった調査が行われた点です。

調査方法自体は一般的な第三者委員会と変わりませんが、この調査を利害関係者で構成された社内委員会が行うとどうなるのかが注目すべき点になります。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査では、各工事で不正が行われた経緯が判明しました。

たとえば東京国際空港の工事についてですが、注入外管と削孔壁との間から薬液の逆流が発生し、仕様書通りの量だけ薬液を注入できない状態となったのが問題の発端です。

しかし現場の指示者である所長や同社支店部長は「失敗は許されない」というプレッシャーを感じたために、問題の発生を放置する形となりました。そして問題発生が判明することを防ぐために、その後虚偽の報告やデータ改ざんが行われることとなりました。

第三者委員会の調査によると、他の現場でも同様に現場の責任者などの間で「失敗は許されない」という考えが蔓延していたために、データ改ざんや虚偽の報告が行われたとのことです。

また、各責任者が問題解決の方法を考えることができなかったことも、本件問題が生じた要因となっているとのことです。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

本件問題は、同社の業績に大きな影響を与えました。具体的には、施工不良関連損失を約153.7億円計上しました。調査や顧客への対応に多額の費用を要したのだと考えられます。

また本件問題は、社会的信頼の低下として「株価」にも影響を与えました。同社が本件問題を関東地方整備局に報告した2016年4月27日の終値は254円でした。

しかし翌日28日には243円まで低下し、最終報告書を提出した7月26日には169円と、大きく下落しました。 今年度(2019年)に入って株価は大きく回復しており、現在にまで本件問題の影響が及んでいるわけではありません。とはいえ安全にも関わる問題であったため、一時的には社会的信頼を失ったと言えます。

格付けの評価

第三者委員会報告書格付け委員会は、本件問題で公表された調査報告書について格付け評価を行いました。なお、この格付けは原因分析の深度や委員の中立性などの基準で、A(良い)〜F(悪い)までの5段階にて行われました。

本件については9名の委員が格付けを行いましたが、驚くべきことに9名全員がF評価(評価に値しない)をつける異例の事態となりました。極めて低い評価となった理由としては、「重大な問題にもかかわらず、第三者委員会ではなく社内調査委員会の調査で済ませたこと」や「委員の専門性や独立性が欠けていること」、「経営者に対するヒアリングやガバナンスに関する調査を行なっていないこと」などがあがっています。

格付け委員会メンバーの中には、本件の問題を詐欺同然と批判する者もおり、総じておざなりな調査結果であったと言えます。

根本的な原因

本件第三者委員会は、今回の問題が生じた根本的な原因として、「同時期に複数の工事を受注したために、同社の施工能力を超えたこと」や「不正を認識した人が検査員であったために、チェック機能が働かなかったこと」などを挙げています。
また、「コンプライアンスの機能が不十分であった点」や「問題を報告する仕組みが整っていなかった点」など、経営陣にも根本的な原因があるとしています。

まとめ

本件はデータ改ざんや虚偽の報告など、大企業にとって致命的な大問題でした。しかしながら同社は、第三者委員会を発足せずに、社内の調査委員会による調査を行いました。

調査結果を見てみると、たしかに事実確認や問題点についてしっかりと分析しているように見えます。しかし経営陣へのヒアリングやガバナンス面からの根本的な原因究明が行われていなかったりと、ある意味保身に走っていることを疑われても仕方がない調査結果でもあります。

本件の事案からは、重大な問題を根本的な部分から分析・解決するには、その会社と利害関係を持たない第三者委員会が公平な立場から調査を行うことが必要であることが見て取れます。

参考文献

第三者委員会報告書格付け委員会 第11回格付け結果を公表しました
http://www.rating-tpcr.net/result/#11

平成27年度 東京国際空港C滑走路地盤改良工事における施工不良等に関する調査報告書
http://pdf.irpocket.com/C1885/pTWD/gxHR/JBLa.pdf

東亜建設工業 (株) – Yahoo!ファイナンス
https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/history/?code=1885.T

平成29年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
https://pdf.irpocket.com/C1885/wReJ/doOm/qaym.pdf

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