富士フイルムホールディングスの不適切な会計処理問題における第三者委員会報告書の概要

富士フイルムホールディングスの不適切な会計処理問題における第三者委員会報告書の概要

この記事では、富士フイルムホールディングスの不適切な会計処理問題を事例に、第三者委員会の調査内容を解説します。

問題の背景

本件問題は、富士フイルムホールディングス株式会社の海外子会社において、一部の会計処理に不正が見つかった問題です。具体的には、富士フイルムの連結子会社である、海外のプリンターリース会社MARCOと金融会社FINCOにおいて、実際よりも過大な売上高を計上していた問題が発覚しました。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件において第三者委員会は、事実関係の調査や原因分析を行うことで、効果的な再発防止策を提言する役割を担いました。

本件第三者委員会は、富士フイルムホールディングスと利害関係を有しない下記の専門家により構成されました。

  • 委員長:伊藤 大義(公認会計士 公認会計士伊藤事務所)
  • 委員:佐藤 恭一(弁護士 シティユーワ法律事務所)
  • 委員:西村 光治(弁護士 弁護士法人松尾綜合法律事務所)

第三者委員会の活動スケジュール

次に、第三者委員会が発足されるに至った経緯をお伝えします。

事の発端は、2017年3月期の富士フイルムホールディングスの決算時期にさかのぼります。この決算にあたって、同社海外子会社における2015年度以前の特定のリース取引の一部において、受け取り債権の計上や回収可能性などに関して、不適切な会計処理が行われている疑惑が生じました。

そこで同社は、同年3月22日から本件問題の調査活動を社内にて開始しました。

調査を進めるにつれて、調査の客観性や信頼性を高める必要があると判断した同社は、4月20日に本件事案を公表するとともに、取締役会にて第三者委員会を設置しました。

調査は約2ヶ月にわたって行われ、同年6月10日に第三者委員会は調査報告書を提出しました。まとめると本件問題の経緯は、以下のようになります。

  • 2017年3月期の決算時期 会計処理の妥当性を確認する必要性が判明
  • 2017年3月22日 社内にて本件事案の調査活動を開始
  • 2017年4月20日 本件事案を公表
  • 同日 取締役会にて第三者委員会を設置
  • 2017年6月10日 第三者委員会が調査報告書を提出

本件の調査のポイント

本件調査のポイントは、会計処理の不正という専門性の高い問題を調査している点です。 会計と法律それぞれの観点で高度な分析が必要とふまえ本件第三者委員会は、公認会計士や弁護士を補佐として任命しました。

これにより、電子データの分析やヒアリングを多面的視点から行い、専門的な観点から事実の認定を行うことができたと考えられます。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

判明事項をお伝えする前に、まずは問題に携わった会社間の取引について簡単に解説します。

MARCOはプリンターのリースを行う会社であり、リース料金は毎月のコピー代で回収していました。一方のFINCOは金融会社であり、MARCOからリース債権を全額引き受けていました。この取引によりMARCO側は、リース代金の合計を売上高として計上していました。

この取引自体は通常のリース取引であり、何ら問題ありません。しかし第三者委員会の調査により、リース債権を実態以上に高くみつもり、売上高をカサ増ししていたことが判明しました。具体的な方法は、毎月のプリンター使用量を実態よりも多く見積もることで、売上高をカサ増ししていました。

詳しくは会計の専門的な話となるので割愛しますが、要は売上高を多く見せるために、故意に正しくない会計処理を実施していたのです。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

第三者委員会の調査により、過年度決算に大きな影響が生じました。具体的には、2011年3月期から2016年3月期の株主資本に与える影響額の累計が281億円に上りました。

株主資本への影響は株主の利害に直結する部分であるため、株価への影響も非常に大きかったです。同社が本件問題を公表した当日(4月20日)の終値は4,155円でした。しかし翌日には終値が3,987円まで下落しています。

しかし一定期間株価が低下したものの、2019年9月現在では終値が5,300円台まで上昇しており、同社はひとまず社会的信用を取り戻すことができた様相を呈しています。

おそらく公認会計士や弁護士による専門的な調査が行われたことに加え、同社自身も利害関係者に対して真摯な態度で対応に当たっていたことが、信頼性回復につながったと考えられます。

格付けの評価

本件第三者委員会の調査報告書について、第三者委員会報告書格付け委員会が、委員構成の中立性などの観点から、A(良い)〜F(悪い)までの5段階で格付け評価を行いました。

8名の委員が格付けを行なった結果、B評価1名、残り全員がC評価と、全体的にはやや低い結果となりました。委員構成や調査体制、事実認定の正確性や深度については高評価を受けた一方で、原因分析や再発防止提言の実効性などには不足していると低評価を受けました。

根本的な原因

富士フイルムの問題を調査した第三者委員会は、不適切な会計処理を回避できなかった理由をいくつか述べています。

一つ目の理由は、売上達成のノルマに対するプレッシャーがあったことです。第三者委員会が行なったインタビューによると、多くの関係者が本社から売り上げ達成に関するプレッシャーを強くかけられていたことが判明しています。
売り上げ達成を重視する姿勢は、海外子会社のみならず富士フイルムグループ全体で見られる傾向だったようです。上層部からの強い圧力があったために、下で働く従業員は不適切な会計処理に手を染めてしまったと考えられます。

二つ目の理由は、一部の役員が問題を隠ぺいしていたからです。当時の副社長や専務へのインタビューによると、「会計処理でグレーの部分があっても、それを監査法人に積極的に告げる必要はない」とか「監査法人からの指摘を全て受け入れる必要はない」といった考え方を持っていたようです。
こうした隠ぺいも、本件問題の根本的な要因につながっているでしょう。 第三者委員会は他にも、内部監査部門に対して経営陣からのプレッシャーがあったこと、海外子会社の管理体制に不備があったことなども根本的な原因として挙げています。

まとめ

今回の記事では、富士フイルムの会計不正問題を事例に、第三者委員会の調査内容についてご紹介しました。

本件はリース問題というやや難しい問題ではありますが、第三者委員会は公認会計士や弁護士の助力を最大限得ることで問題解決に努めました。格付け自体はやや低評価ではあるものの、株価の回復にも表れているとおり、第三者委員会の調査と同社の努力は一定の効果を得ていると考えられます。

本件を見てわかるように、第三者委員会には専門的な知見が必要となる場合もあるのです。

参考文献

第三者委員会報告書格付け委員会 第14回格付け結果を公表しました
http://www.rating-tpcr.net/result/#14

第三者委員会調査報告書の受領及び今後の対応に関するお知らせ
https://www.fujifilmholdings.com/ja/investors/pdf/other/ff_irnews_20170612_003j.pdf

第三者委員会設置 及び2017年3月期決算発表の延期に関するお知らせ
https://www.fujifilmholdings.com/ja/investors/pdf/other/ff_irnews_20170420_001j.pdf

富士フイルムHD、「不正会計」の絶妙カラクリ
https://toyokeizai.net/articles/-/176127

富士フイルムホールディングス (株) – Yahoo!ファイナンス
https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=4901.T

関連記事

ページ上部へ戻る