資本金の減資をするのはなぜ?
- 2021/4/5
- 法令コラム
2015年に連結売上高が3兆円のシャープが1200億円の資本金をなんと1億まで減資しようとしてマスコミで話題になったことがあります。資本金1億円以下の中小企業に対する優遇税制を受けようとしたようですが、結果は多くの批判を避けるためか5億円の減資にとどまりました。
スケールは違いますが、今年の1月に資本金41億5千万円の毎日新聞社が1億円へ減資する計画が報道されました。目的は業績の悪化によって苦しくなった財政状況を立て直すための節税目的だとされています。
法人税法で定める資本金1億円以下の中小法人と、1億円を超える企業に適用される税金の負担はそんなに違うのでしょうか。
今回は「減資」について改めて考えてみたいと思います。
資本金とは
資本金についてはいろいろな記事で触れていますので、ここでは簡単に説明します。
・資本金は、事業の元手になる財産で、会社の設立又は株式を発行するときに株主が出資した金額のこと
・出資されたお金は「資本金」以外に1/2を超えない範囲で「資本準備金」として計上できます
・資本金は原則として株主への返還義務はなく、事業で必要ならば自由に使えます
・資本金の額を変更するには、株主総会の決議が必要となります
・会社法、法人税法、中小企業基本法などで、優遇税制の適用の可否を判断する目安の一つとして資本金の額が使われています
それでは、本題に入りますが、まずは「減資」を正しく理解する必要があります。
減資とは、資本金の額を減らす手続きのことで、減らしたお金を株主に返したり別の科目に移したりと、いろいろな方法があります。そこで、ここから先は目的別に「減資」について詳しく説明します。
欠損を補填するための減資
欠損金とは税務会計において「所得」がマイナス、つまり赤字になったときの金額のことを言います。欠損金は2017年から10年間に渡って繰り越すことができるようになりましたが、赤字が続き繰越した欠損金があまり大きな金額になると、金融機関などから融資を受ける際の審査で不利になります。
もちろん所得が増えれば欠損金を減らすことができますが、一旦大きくなってしまった欠損金を短期間に無くすことは簡単ではありません。そこで、この欠損金を無くすもう一つの方法が「減資」なのです。
例えば、資本金5億円、欠損金2億円の場合、資本金を3億円に減資すると差額の2億円で繰越欠損金を0にすることができます。この方法は、会社が持っている全体の資産額には変更がなく、帳簿上で2億円が資本金から欠損金に移動するだけなので「無償減資」と言います。
無償減資では、帳簿上の欠損金は無くなり財務状況は見かけ上良くなりますが、会社の業績自体が良くなった訳ではありません。
税金を減らすための減資
同じ「無償減資」でも、税金を減らす目的で行うことがあります、本記事の冒頭で紹介したシャープや毎日新聞社がこのタイプになります。例えば、資本金10億円の場合、9億円を減資しその分を「資本準備金」に移すと、法人税法では資本金が1億円の中小企業に該当するのでさまざまな優遇税制を利用することができます。
実態は大企業なのに資本金を少なくするだけで中小企業の特典を利用するということには賛否がありますが、今では経営手法の一つとして行われています。
中小法人に対する主な優遇制度
<法人税率>
区分 | 税率 | |
資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分の所得 | 15%(注1) |
年800万円超の部分の所得 | 23.20% | |
資本金1億円超の法人(※上記以外の法人を含む) | 23.20% |
(注1) その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等に該当する法人の年800万円以下の部分については、19%の税率が適用されます。
<欠損金の繰越控除>
欠損金は10年間に渡って繰越することができ、利益が出た年に所得から差し引いて実際よりも少ない所得に変更することで法人税を安くすることができる制度です。
資本金が1億円以上の会社は欠損の50%までしか繰り越すことができないのに対し、中小法人は100%繰り越すことができるので、欠損金は多額になった場合には、この50%の差は大きなものがあります。
区分 | 繰越控除限度額 |
資本金1億円以下の法人など | 100% |
資本金1億円超の法人 | 50% |
この他にも、その年に発生した欠損金を前年度に支払った法人税から差し引いて還付を受けられる「繰戻還付」や、800万円までの交際費を全額損金に算入することができるなど、資本金1億円以下の会社には多くの優遇制度が適用されます。
しかし、資本金は会社の信用度を判断する指標としての側面がありますので、節税というメリットだけで判断せずに慎重な検討が必要となります。
株主への「みなし配当」のための減資
先の2つの減資は会社の資産は変わらないのですが、株主に配当金を支払う目的で行う減資は実際にお金の支払いが発生するので「有償減資」と言います。
「配当」は本来、株主が出資したお金で会社が事業で得た利益を還元するものなので、減資によって行う場合は「みなし配当」と呼ばれます。しかし、みなし配当であっても通常の配当と同じように源泉徴収を行わなければなりません。
有償減資の方法は、例えばみなし配当に2億円が必要な場合には2億円の減資を行い、その金額を「利益剰余金」に移動してから株主に配当を行います。この場合、実際にお金が出て行くので、会社の資産も同時に2億円減ることになります。ここが無償減資と大きく異なる点です。
有償減資の目的は、会社の業績が悪く配当金を支払えないときに、株主との関係を良好に保つために行われますが、会社の資金が減ってしまうのでどうしても必要なとき以外は考えない方が良いでしょう。
債権者保護手続き
減資によって会社が得るメリットは多々ありますが、資本金が減ったことによる信用度の低下や株価への重大な影響の可能性も出てきます。
そのために、減資を行う際には2/3以上の賛成が必要な株主総会の特別決議と債権者保護手続きを行わなければなりません。
債権者保護手続きには原則として次の2つの方法があります。
- 官報での公告
- 債権者への個別の催告(※公告の方法について電子公告や日刊新聞紙への掲載を定めている会社は、個別催告を省略することができます)
これは、債権者に対し減資を行うことを知らせ、異議の申し立ての機会を提供するためで、1ヶ月以上の期間が必要とされています。意義を申し立てた債権者が現れた場合には、会社は債務を弁済するなどの所定の対応が義務付けられています。
減資についてのまとめ
ここまで減資について詳しく説明して来ましたが、整理すると次のようになります。
<減資の主な目的>
- 欠損を補填するための減資
- 税金を減らすための減資
- 株主への「みなし配当」のための減資
<減資の種類>
- 無償減資(会社の資産は変わらない)
- 有償減資(会社の資産は減少する)
<減資の手続き>
- 株主総会の特別決議
- 債権者保護手続き(官報での広告、債権者への個別催告)
減資、特に無償減資は帳簿上の数字を置き換えるだけで税金が安くなったり、欠損金を見かけ上無くすことができたりするので、経営者の目には魅力的に映るかもしれません。
しかし、会社は株主や投資家のお金によって成り立っており、大企業になれば取引先も多く社会的な責任も大きくなります。その中で、多数の株主から得た大切な資本金を減らすことによる関係者への影響を十分考えて行わなければなりません。
会社の目先の利益だけではなく、株主や債権者にとってもメリットのある建設的な減資が望まれるところです。