上場契約違約金とは

上場契約違約金とは

株式市場は上場会社の適正な適時開示を前提にして成り立っています。不適正な適時開示は投資家の判断を歪めることになるため、東京証券取引所は、不適正な適時開示を行った上場会社に対するさまざまな措置を定めています。今回は、ペナルティのひとつである上場契約違約金に焦点を当てて、その制裁内容を解説するとともに、実際に上場契約制裁金を科せられた直近の実例を紹介していきます。

上場契約違約金とは何か

上場契約違約金は、社会的信用を毀損するような行為をした上場会社に対して科せられるペナルティのひとつです。上場廃止にするほどの重大性はないものの、次のような要件に該当する上場会社に対して、上場契約違約金の支払いを求めます。

  • 上場会社が適時開示に係る規定に違反したと東証(東京証券取引所)が認める場合
  • 上場会社が企業行動規範の「遵守すべき事項」に係る規定に違反したと東証が認める場合
  • 上場会社が有価証券上場規程その他の規則に違反したと東証が認める場合

上場に対する社会的信用を毀損するような行為をした上場会社に対しては、上場契約違約金以外にも様々な制裁が行われることがあります。上場契約違約金の位置づけを知るうえでも、どのような種類の制裁があるのか紹介していきましょう。

上場契約違約金よりも軽い措置

不適正な開示を行っていた場合、上場契約違約金よりも軽い措置として、次のようなものがあります。

開示内容の変更または訂正

開示した内容について変更または訂正すべき事情が生じた場合、上場会社は直ちにその変更または訂正の内容を開示しなければならないとされています。

注意喚起制度

上場会社に対する措置ではありませんが、次のいずれかに該当するときで、周知を必要とするとき、東証は投資家に対して注意喚起を行うことがあります。

  • 有価証券またはその発行者等に関し、投資者の投資判断に重要な影響を与えるおそれがあると認められる情報が生じている場合で、この情報の内容が不明確であるとき
  • 有価証券またはその発行者等の情報に関して、注意を要すると認められる情報があるとき

口頭注意

上場会社が適時開示に係る規定に抵触したと認められる場合、東証の担当者が、その上場会社に対して注意喚起のための口頭注意を行います。口頭注意は、件数が公表されますが、口頭注意を行った上場会社名は公表されません。

上場契約違約金よりも重い処分

内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められた場合、上場契約違約金よりも重い処分が行われることがあります。どのような処分が行われるのか紹介していきましょう。

改善報告書制度

上場会社が適時開示に係る規定に違反した場合や企業行動規範の「遵守すべき事項」に違反した場合において、改善の必要性が高いと認められるときには、上場会社は経過及び改善措置を記載した改善報告書の提出が求められます。

また上場会社がこの改善報告書を提出した場合、提出から6カ月経過した後、速やかに改善措置の実施状況及び運用状況を記載した改善状況報告書の提出が求められます。

特設注意市場銘柄制度

次に掲げる項目に該当し、かつ当該上場会社の内部管理体制等について改善の必要性が高いと認めるときは、この上場会社は特設注意市場銘柄に指定されることになります。

  • 「支配株主との取引の健全性の毀損」「上場契約違反」「反社会的勢力の関与」等の規定に違反する場合
  • 有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合
  • 上場会社の財務諸表等に添付される監査報告書等において、公認会計士等によって、「不適正意見」または「意見の表明をしない」旨が記載された場合
  • 適時開示に係る規定に違反したと東証が認めた場合
  • 企業行動規範の「遵守すべき事項」に係る規定に違反したと東証が認めた場合
  • 適時開示・企業行動規範に係る改善報告書を提出した場合において、改善措置の実施状況及び運用状況に改善が認められないと東証が認めた場合

上場廃止

特設注意市場銘柄に指定された場合において、以下のいずれかに該当する場合は、上場が廃止されることとなります。

  • 特設注意市場銘柄指定中(1年以内)に、上場会社の内部管理体制等について改善の見込みがなくなったと東証が認める場合
  • 特設注意市場銘柄指定後1年が経過したとき、上場会社の内部管理体制等について改善がなされておらず、今後も改善が見込まれないと東証が認める場合
  • 特設注意市場銘柄指定後1年が経過とき、内部管理体制等が改善されていないものの、今後の改善が認められる場合は6カ月特設注意市場銘柄指定の延長をするが、その期間中に改善の見込みがなくなったと東証が認める場合

参照:JPX日本取引所グループホームページ

上場契約違約金の直近の実例紹介

上場会社が、不適正な適時開示を行い、上場契約違約金を科せられることは、けっして珍しいことではありません。2020年も11月現在で、4社の上場会社に対して上場契約違約金の処分が下されました。実際にどのような理由で、上場契約違約金の処分に至ったのか紹介していきましょう。

ハイアス・アンド・カンパニー株式会社

東証一部上場の銘柄で、上場契約違約金金額は、3,360万円です。また、上場廃止基準に該当しないものの、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められたため、特設注意市場銘柄に指定されました。さらに同社の株式は、東証一部からマザーズへの上場変更が行われています。(2020年11月26日公表)

処分の理由

この会社は、申請書類に虚偽の財務諸表を記載し、審査過程での照会に、繰り返し虚偽の書面回答を行い、さらに報告すべき事項が追加発生した際もその報告を怠っていました。また日本取引所自主規制法人に対する虚偽の説明や監査法人の監査手続の妨害といった隠蔽工作を行うなど、信頼性のある財務報告を行う意識や市場関係者に対する誠実性が著しく欠如していました。

株式会社ジャパンディスプレイ

東証一部上場の銘柄で、上場契約違約金金額は、6,240万円です。また、開示された情報の内容に虚偽があり、改善の必要性が高いと認められるため、改善報告書の提出を求められました。(2020年7月10日公表)

処分の理由

この会社は、公表済みの営業利益目標の達成等を目的として、経理責任者または執行役員CFOの指示もしくは承認により、過大在庫の計上、費用の資産化、費用計上の先送り、在庫評価損及び減損損失の回避等の不適切な会計処理が行われ、さらに、常務執行役員の指示、中国子会社総経理または拠点担当者の判断等により、費用の資産化、収益認識の要件を満たさない売上計上等の不適切な会計処理が行われていたことが明らかになりました。

また投資者の投資判断に深刻な影響を与える虚偽と認められる開示が行われたものであり、同社の適時開示体制について改善の必要性が高いと認められることから、その経緯及び改善措置を記載した報告書の提出が求められることになりました。

第一商品株式会社

JASDAQスタンダード上場の銘柄で、上場契約違約金金額は、2,000万円です。また、適時開示の規則に違反し、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるため特設注意市場銘柄に指定されました。(2020年7月10日公表)

処分の理由

この会社では、長年にわたり歴代の代表取締役らが主導して、回収不能となっていた貸付金の回収偽装及び証拠金残高が不足した委託者に対する未収入金債権の回収偽装による貸倒引当金戻入益の過大計上、並びにこれらの偽装に用いる資金を捻出するための広告宣伝費の架空計上等の不適切な会計処理が行われていたことが明らかになりました。

複数の部署の担当者が、代表取締役社長からの明らかに異常な指示に盲目的に従っていたなど、全社的にもコンプライアンス意識が著しく希薄であったことが、本件の原因のひとつとして挙げられています。

五洋インテックス株式会社

JASDAQスタンダード上場の銘柄で、上場契約違約金金額は、2,000万円です。また、適時開示の規則に違反し、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるため特設注意市場銘柄に指定されました。(2020年3月11日公表)

処分の理由

「重要な四半期レビュー手続(決算書のチェック)が未了のまま四半期報告書が提出されているため、直ちに当該手続を終えたうえで訂正四半期報告書の提出が必要である」旨の指摘を繰り返し受けていたにもかかわらず、提出期限までに、真正な四半期レビュー報告書を添付した四半期報告書が提出されておらず、訂正四半期報告書の提出を要する旨の適時開示を何ら行っていませんでした。

上場契約違約金とは:まとめ

証券取引所は、投資家の投資判断への影響が大きいと考えられる情報の開示を求めます。適時開示は投資家にとって、最初に触れる重要情報であり、上場有価証券の価格形成に大きな影響を及ぼします。

不適正な適時開示は投資家の投資判断を歪めるため、そうした開示を行う会社は、やがて投資家からの信頼を失うことになります。つまり、上場契約違約金を始めとする東証の制裁措置は、その企業の未来を予測するひとつの指標になることを提示しているのです。

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